ゴドウィン校のヴァンパイア達~望まぬ転生~

【5話】家畜

身分階級についてはあまり触れない方が良い───漠然とそう思った。


「最後の質問についてですが、現在生きたニンゲンは貴方1人です」


「え？」


冷凍保管された血肉は多少あるのではというロイの説明に震えあがる。


「·····じゃ、じゃあ、ヴァンパイアの食料は？」


「吸血鬼の主な食事は動物の肉やその血です。ニンゲンの血は極めて高価なもので、更に生きたニンゲンから摂取できることはほぼありませんから」


ロイは一度話を区切り、少し待っていてくださいと言い残して部屋を出ていってしまう。

しばらくして戻って来た彼の手に、千秋は首を傾げた。


「·····それ、学校の制服？」


ハローポッターにでも出てきそうなローブ付きの制服だ。

ロイははいと頷いた。 


「なんで？」


「ユラン様のご好意です。チアキさんには、さっそく明日から学校に通ってもらいます」


好意。
即ち彼の気まぐれな遊びに付き合わされるという事だろう。

燃えるような瞳が脳裏を掠める。首筋がずくりと痛んだ気がした。


「あ、そうだ」


赤い瞳は、千秋の泣き顔を見、一瞬驚いたように見開かれた。
ただの涙を見るのとは違う愉快そうな顔。
わけがあるのだろうか？


「ここの人たちは、泣いたり、しないの？」

「はい？」


ロイが訝しげな表情をする。


「さっきさ·····」


言いかけて、待てよと言葉を飲み込む。
いくら異世界に吹っ飛ばされ命の危機に晒されようとも、自分は17歳の漢だ。
歳の近い男に泣かされた話をするのは、自身のプライドが許さなかった。


「えっと、なんとなく気になって····」


「··········」


暫くの沈黙に耐える。


「涙は流れます」


ロイはやはり微量に微笑んだ。笑っているのに、全く感情が読めない。
少し気味が悪かった。


「が、ヴァンパイアにとって他人に涙を見せることは、」


「うん」


「情熱的な求愛を意味します」


「えっ」


「どうかしましたか？」


「えっ？情熱的な·····あ、いや·····」


千秋は脳内で悲鳴を上げた。


「ヴァンパイアの血が濃いほど、支配欲、加虐欲、独占欲が強い傾向にあります。よってそんな彼らに涙を見せるということは、彼らの本能をかき立て性的な行為に誘う、又は性的支配によって相手に屈服させられたい等強い愛情を表現する意味を持ちます」


「わああああ」


大声でロイの説明を遮る。
頭の中では「そんなヴァンパイア事情聞いてない！」「でもそのお陰で命拾いしたんだし結果オーライじゃない？」「お前にはプライドってもんがないのか？！」なんて、3人のミニ千秋が議論していた。

返答の意味を理解した千秋は、羞恥に潤む目を必死に瞬かせた。


  翌日は夜か朝かもわからぬまま目を覚ました。
昨日の出来事を何度も思い返してはうなされていたし、変な世界に来てしまったのも夢ではなかった。

身体がとてつもなく重かった。
寝る前に採血をされたから貧血だ。

死んだ人間は新しく血を生成出来ないが、生きた自分からはできる。朝から豪華な朝食を食べる自分は、良質な肉を生成する和牛と同じなのだ。

ユランが言っていた通り、家畜と変わらない。
しかし昨日渡されたのは、黒ずくめの学生服だった。

『お迎えにあがりますので、準備をして待っていてください』


たしか無愛想な声がそう言っていた。
制服に袖を通す。
サイズはピッタリだった。