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【66話】ミュカ
しおりを挟む相手はたちまち申し訳なさそうな顔をした。
可愛らしい雰囲気の生徒だ。
千秋は大丈夫と笑ってみせた。
「急いでた?」
彼が心配そうに聞く。
千秋は、授業に遅れそうだったことを思い出した。
「次の授業に行かないと」
返答にぽかんとしてから、相手は首を振った。
「今日の授業は、全部休講だよ」
「そうなの?」
「うん。国の休日だから」
学校も、どこの店も休みの日だと言って、彼はぱっと千秋の手を握る。
「ねえ、もし暇なら、少し話さない?」
湿った土のような肌だ。
これも彼らの種族や血筋が関係している特徴ならば申し訳ないが、反射的に拒絶するような反応になってしまった。
「えっと···いいよ」
誤魔化すように返事をする。
「名前、なんて言うの?」
彼は、秘密事を教える子供のように悪戯っぽく微笑んだ。
「ミュカ」
ミュカは千秋の手を引いたまま階段を下っていった。
「どこ行くの?」
聞いた千秋に、彼は談話室ならゆっくり出来るのでそこへ行こうと言う。
けれど向かっているのは、千秋の知っている寮室の方向ではなかった。
「ジャルク寮は、地下にあるんだ。チアキくんはヴィゼルだよね」
クリーム色の髪がふわりと揺れる。
いいなぁ~、と、彼は心底羨ましそうに呟いた。
そういえば、血種によって寮が決まっているんだっけ。
確かロイが、血筋の話はむやみにしない方がいいと言っていた。
薄暗い廊下は湿っぽくて足場が悪い。
少し下り坂になった道を進むと、石畳の扉が見えてきた。
錆びれたノブをまわし、ミュカは開いた扉の先へ千秋を手招きした。
「入って!」
ジャルク寮は、ヴィゼル寮と比べるとだいぶ質素な風貌だった。
それでも、ただの生徒が利用するにしては豪華な見栄えだ。
本棚の隣に一人がけのソファが机を挟み向かいあっている。ミュカはそのうちの一つに座ると、千秋に向かいの席を促した。
勧められるがまま腰かける。
相手は人懐っこい笑みを向けた。
「チアキくんと話せる機会が来るなんて、夢みたいだよ!」
弾んだ声に、千秋は曖昧に笑い返す。
今まで、腫れ物のように扱われることが殆どだった。だから、ミュカの反応が嬉しくないと言えば嘘になる。
けれど彼も「珍しいニンゲン」に興味があるだけだ。
「みんなチアキくんの話でもちきりなんだよ。それに、ユラン様の·····」
ある人物の名前を出した声ははハッとしたように口を噤まれる。
「どうしたの?」
談話室を見回し、念入りに奥の階段まで目を凝らして、やがてミュカはほっと息をついた。
「···誰かに聞かれて、万が一あのお方について話してたなんて知られたら」
千秋はキョトンとして聞き返した。
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