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一章
225.弱点
しおりを挟む冷たい風が吹き上がった。
見えない何かが、こちらを通り抜け、アヴェルへ突き向かう。
咄嗟に身構えた彼の頬に、赤い筋が走った。
傷口が塞がるのに、数秒を要した。
そっと微笑むヨハネスと対照的に──アヴェルの額には脂汗が浮かんだ。
ここへは、ハインツェとヨハネスの後を追ってたどり着いた。
無謀な行いだ。身を切りながら魔力を行使し、今の体力で他の悪魔皇子を相手にすることは不可能に等しい。
(ヨハネスは駄目だ)
優雅に微笑むヨハネス。
彼は、ミチルをサタンに渡さない唯一の方法を実行するつもりだ。
「餌袋、早く·····」
「!」
1歩近づくと、それにならいミチルも1歩ヨハネスへ近づく。
細い足は気の毒なほど震えている。覗いた素肌にはいくつもの印が散らばり、ピンクの瞳は次々と新しい雨水を産んだ。
理性が吹き飛びそうなほどそそられる獲物の姿。
そして、何よりも愛した、守りたかった者の身体だ。
怖がるなと言うにはあまりにも無理のある関係だ。
「今すぐ言うことが聞けないなら───」
いっそ恐怖で言うことをきかせて、彼を守ることができるなら、一生恐れられても構わない。
「皮膚を剥いだ後、四肢をちぎって、腸を引きずり出してやる」
幼い顔立ちが恐怖に染まる。
彼は声を上げることすら叶わず、生ぬるく失禁した。
それは、残虐だった第四皇子の心を揺さぶるには十分な光景だった。
「·····ミチル·····」
時折聞こえる高いすすり泣きに、アヴェルの鼓膜から騒音が遠ざかる。
愛している。
今度こそ守るために、全てを捨てて逢いに来た。
信じて欲しい。
そう言って、彼を胸の中に閉じ込めることが出来たなら──。
ミチルを愛した弱さが、零点一秒後、彼の致命傷となった。
大きな体躯が膝をつき、次に肩口を地面に擦り付ける。
スローモーションにも見える光景に、自分自身の目を疑う。
"逃げろ"
俯く瞬間、分厚いくちびるが伝えてきた文字だった。
「·····ぁ·····」
優しく包み込む腕にさらわれて、体が宙に浮いていた。
湖を覗き込む。
自分の異臭すら洗われそうな瞳が、心から嬉しそうにほくそ笑んだ。
「つかまえた」
「·····ン·····ッ!」
高い鼻が唇を押し開け、笑みと裏腹に強引にキスをする。
まるでもう、こちらの気持ちなんて構っている暇はないようだ。
固く抱きしめる手が痛い。それが嬉しくて、ちゅぷちゅぷと犯される音に夢中になる。
「ずっと一緒だよ」
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