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4.故郷
しおりを挟む昨夜、領地主の敷地へ入って数分足らずで警報が鳴った。
人為で動く警報にしてはあまりにも速い対応だ。
内情を知るものが手引きしなければ不可能なことである。
「分かったよ」
作戦は決行だ。
ほとんどの団員が知らないのは、代表が別のルートから城へ侵入するということ。他は作戦通り、兵力の足止めをしていれば良い。
地下を出たラヤは、隣の空家を登った。
荷物置き場みたいな空間に、生きているのは自分だけ。ここは寝泊まりするためだけに使っている場所だ。
さっきの4人とは少し特殊で、幼い頃から身寄りはない。
窓から道を眺めていたラヤは、ふと後ろを振り返った。
「·····追いかけてきたのか?」
「バカいえ。ここにいると思ったんだよ」
リューディガだ。
彼は少し伸びてきた茶髪を結いて、大袈裟に肩を竦めた。
「いつもどこを見てるんだ?」
彼の質問の答えには逡巡した。
やがてラヤは、部屋の空洞から目を逸らした。
「故郷だ」
「俺たちのいない故郷だろ?」
聞き返してきた声に笑みを閉ざす。
リューディガに話したことの無い、忘れられない頃がある。
彼と一緒に過ごした長い日々に負けないほど、取り戻したい懐かしさを抱えていた。
「なぁ、お前が遠くを見てる時が嫌いだ」
リューディガが窓の前に立ち止まる。
腹筋の浮きでたシャツが、迫るようにラヤを抱きしめた。
「お前は、俺たちのボスでいてくれよ」
「あはは。なんだそれ」
「どこにも行かないでくれ」
大きい図体のくせに、2人きりになると、リューディガはたちまち幼くなる時がある。
組織では最年長。普段は無愛想で寡黙だ。
兄のような存在でありながらも、彼は大型獣のように体をすり寄せてくる。
こういう時、ラヤはつくづく感じるのだ。
彼らとは違う意識の中で生きていると。
「ラヤ·····」
「うわっ」
岩みたいな体に迫られて床に転がり込む。
リューディガは懲りずに額を押し付けてきた。
「今回のが終わったら、今度こそ俺と一緒に生きてくれるか?」
「··········」
ブラウンの瞳がこちらを見下ろす。
ふざけているわけでも、しかし本気でも無さそうだ。
『幹部の奴らは特に、ラヤに心酔しきってる。
リューディガはラヤの番犬1号だよ』
占い師の婆が言っていたことを思い出す。
手懐けるにはずるいやり方だ。
「なんとか言ってくれよ」
初めてリューディガが弱音を吐いた日、嘘でもいいと呟いた。
彼を宥める言葉に根拠はなくてもいい。
こういう時は、ただ安心させるための戯言でも構わない。
「ずっと一緒だ」
豪腕に抱き寄せられると、腰が折れてしまいそうだ。
痛みに耐えながら、ラヤは天井の染みを眺めていた。
─────────────────
暗いうちに寝床を出て、水汲みへ向かう。
日が昇ってからじゃ、持ってくるまでに干からびてしまう。それでもって大人たちより先に済ませないと、喉の乾きに苦しみながら死ぬことになる。
路上では皮の黒い爺が変な格好で眠っていた。
たまに転がっているミイラみたいな老耄を見ながら、ラヤはもくもくと橙色の道を進む。
これは、9年くらい昔の記憶だ。
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