麗しい夫を持った妻の苦悩。押しかけ妻の自覚はありますが浮気は許しません。

沙橙しお

文字の大きさ
18 / 22

18.旦那様が駆け付けてくれました

しおりを挟む
「エルシィ!!」

 現れたのは綺麗な金髪を振り乱し焦った表情のメイナードだった。後ろでケントが睨んでいる。すでに告げ口されていた模様……。

「メ、メイナード。怒鳴り込んでくるなんて、あ……あまりに不躾だわ」

 ジリアンは抗議したいようだけど動揺している。そしてエルシィの手に持っている小瓶をチラチラ見ている。

「それは失礼。妻を迎えに来た」

 メイナードが心配してきてくれた! と浮かれるには彼の顔は怖すぎる。誤魔化すようにそっと手に持っている小瓶を彼の目の前に差し出した。

「メイナード。これを彼女が――」

 彼は目を眇めそれを受け取ると蓋を開け匂いを嗅いだ。そしてジリアンを睨みつけた。

「ビンガム侯爵令嬢。今、侯爵はどちらに?」

「あっあっ、お父様は今領地に。それよりそれを返して! お父様に見つかったら叱られてしまうわ」

 やはりこれは違法薬物のようだ。見つかったらまずいのはお父様よりもお役人様なのだけど分かっていない。随分甘やかされて生きて来たのだろう。メイナードがケントに目で合図をすると騎士たちが入って来た。騎士まで手配していたとは有能な旦那様……。

「彼女を城に連れて行け。私も陛下に報告に行く」

「メイナード、助けて。お願い!」

 ジリアンの懇願をメイナードは無視した。彼女は喚きながら騎士に引きずられていった。

「エルシィ。お手柄だ。だが……いや、あとでゆっくり話そう。義父上の苦悩が察せられる。私は王城に行くからエルシィは今度こそケントと真っ直ぐ屋敷に帰りなさい」

「はい……。真っ直ぐ帰ります」

 今日は本当ならメイナードと楽しくケーキを食べる予定だったけれどたぶん無理だろう。屋敷に戻るとすでに話を聞いていたジャスミンに叱られた。ケントは後ろで頷いていて助けてくれなかった。

「頑張ったのに誉めてもらえないって悲しい」

 夜遅くに帰宅したメイナードについ言ってしまった。彼は大袈裟なほど大きなため息をついた。

「みんなエルシィを心配している。それは分かるな?」

「はい。でも薬の入った紅茶は飲んでいないし、薬も奪ったわ」

「結果論だ。今回はビンガム侯爵が不在でジリアンがマヌケだから何事もなかった。これは運がよかったんだ。もし侯爵が不在でなければどうなっていたか」

 最初は不満を漏らしてしまったがメイナードの辛そうな顔を見ていたらいかに自分が軽率な行動を取ったのかを思い知らされた。

「ごめんなさい。もう、絶対にしません」

 メイナードは両手を広げエルシィをぎゅっと強く抱きしめた。

「私は両親を守れなかった。もしも……エルシィまで失っていたら……」

 その言葉に頭を金槌でがつんと殴られたような気がした。エルシィは焼きもちで証拠を手に入れようとした。そのためにメイナードに心配をかけ悲しませてしまった。自分はなにも分かっていなかった。家族を失った彼の気持ちを恐怖を理解していなかった。メイナードを不安にさせて私ったら最低だ……。瞳からぽろぽろと涙が溢れ出す。泣くなんてずるいことはしたくないのに止まらない。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 メイナードは何も言わず泣き止むまでずっと強くエルシィを抱き締めていた。
 泣き止み落ち着いたところでソファーに座る。ジャスミンがお茶を用意してくれた。泣き過ぎて喉が渇いていたので頂くことにする。爽やかな香りのお茶が喉を潤す。全身が温まってくる。メイナードの怒りも少しは収まったようで彼も静かにお茶を飲んでいる。

「実はすでに陛下がビンガム侯爵領に騎士を送り屋敷を強行で捜索した。侯爵は薬を領地に保管していたが足をつくのを恐れ処分しようとしていた所だった。先程城にその報告が上がった」

「えっ……それじゃあ私のしたことは無駄?」

「……気持ちだけもらっておく」

 残念な子を見るような眼差しでメイナードはエルシィを見た。

「う~~~~」

 思わず頭を抱えてうずくまった。完全に余計なことをして心配をかけただけだった。いいところが一つもない。さすがに猛省です……。

「それと前王の子だと言い張っていた子だがライアンと髪と目の色が同じ乳児をどこかからか攫って来た。地方の街で子供が誘拐されたと被害届が出されていてその子で間違いないことが分かった。ビンガム侯爵は違法薬物の輸入及び保持、それと前王の子だと虚偽の申告をしたこと、さらに誘拐の嫌疑で収監した。もう一族は終りだ。繋がっていた貴族たちも裁かれるだろう。連座を恐れたある貴族が自分の罪を軽くしようと、私の両親やバークリー伯爵の殺害、あと先々代王の後宮放火について喋り出した。他の貴族も薬の流れについて自白を始めた。陛下は早急に取り調べを進めこの件を終わらせるはずだ」

「そう……」

 良かったと言っていいのか。あまりにも犠牲者の多い出来事だった。諸悪の根源は先々代王がビンガム侯爵を利用していたせいだ。息子であるライアンの譲位を見送るくらいならビンガム侯爵だって裁くべきだったのに、後宮での生活を優先するためにビンガム侯爵の薬を利用することを選んだ。そしてビンガム侯爵に過大な力を与えてしまった。彼は賢王ではなかった。己の欲望を優先する愚王だった。メイナードはご両親も親友も失った。解決しても悲しみは晴れない。

「処罰される貴族が多いからしばらく王宮内は混乱するだろう。きっと……陛下ならよい治世を敷いてくださると思う」

「ええ。そうね」

 しんみりと頷くとメイナードがニヤリと口角を上げた。

「えっ?」

 そして長い夜が始まった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...