君が始めた『恋人ごっこ』の終わらせ方は・・・

兎卜 羊

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9 思惑は儚くも散る

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 家に来てもセックスばかりな秋坂君やったけど、何だかんだと中間試験の対策だけは教えてくれていた。
 そういう所は意外と律儀と言うか真面目と言うか。そのおかげで無事に中間試験を乗り越える事が出来たのは感謝している。
 せやけど、中間試験が終わって一ヶ月もしない内に、次は文化祭があるとあって僕のテンションはダダ下がりや。
 僕みたいな陰キャにとって、文化祭なんて天敵以外の何ものでもない。

 今も文化祭で催す模擬店の事でクラス会が開かれていて、クラスでは焼きそばパン屋の模擬店をするとあって看板のデザインだ、揃いのTシャツだ、と何だかんだと盛り上がっていて居心地が悪い。
 当日、一緒に校内を回る友達もいない、親だって仕事で来ないボッチな僕には地獄の催しでしかないのに盛り上がりようがない。

 率先して意見を出したり、クラスメイトと楽しそうに談笑している秋坂君を目の端に捉えつつ、僕は黒板に書き足されていく白い文字を肘をついて眺める。
 黒板には各係の振り分けが書かれていて、僕の名前は調理補助と書かれた欄にあった。それは、以前に貰った係の希望アンケートに第一希望で書いたものであり、結果としては希望が通った事になる。
 役割は食材を運んだり、出来上がった焼きそばをパンに詰めしたりとテントの裏で作業する地味なものらしい。だからこそ、表に出たくない僕は希望を出した訳だけど。
 これで、当日は裏方としてテントの奥から出ないで済みそうだ、とほんの少しだけ気休め程度には気が楽になった。



 中間テストの勉強をする、という大義名分が無くなっても変わらず秋坂君は僕の家に来てはセックスをする放課後を送っていた。けど、流石に文化祭の二週間前にもなると準備だなんだと遅い時間まで学校に残って作業する事が増えて僕の家に寄る事も減り、一週間前からはゼロになっていた。
 秋坂君が、準備で帰りが遅くなれば待つように言われて、僕が遅くなれば秋坂君が待つ形で一緒に帰る事は変わりはないけど……。
 一ヶ月程度とはいえ、休日を除けば二日と開けずにセックスしていた事を思えば、実に平穏な日々。
 もしかしたら、この二週間で秋坂君の頭も冷えて『恋人ごっこ』も終了するかもしれん。
 それは……願っても無い事のはずなんやけど……。

(全然、気持ちがアガらん)

 秋坂君が離れる事で、また以前のように誰かに席を占領されて、誰にも話しかけられない学校生活に逆戻りになってしまうのが怖いのか……。それとも、こっそり楽しんでいた秋坂君との『友達ごっこ』も終わってしまう事に物寂しさを感じているのか……。
 広がっていく複雑な感情の仕舞い方も分からず、僕のマンションの前で別れた秋坂君の遠ざかっていく背中を、僕はただぼんやりと見送っていた。



「美味しい焼きそばパンでーす! 出来立ての焼きそばパンが食べられるのは、今だけココだけ!買ってって~!!」

 文化祭当日。僕等のクラスの模擬店は校庭の一画に建てられたテント群の中の一つだった。
 クラス全員が背中にデカデカとクラス番号と担任の名前がデザインされたTシャツを着て、大きな看板を掲げてテントの前で元気よく呼び込みをしている女子の後ろでは、タオルを頭に巻いた男子が大きな鉄板の前で大量の焼きそばを作っている。
 校外からの来場もOKとあって校庭の中は人であふれかえっているし、客も引っ切り無しに来るほどの大盛況だ。
 他のクラスのテントも商品は違っても似たり寄ったりの活気で、まさにお祭り騒ぎ、と言ったところか……。
 そんな、どこもかしこも人、人、人、で沸き立つ中を、僕は調理補助という係を笠に着てテントの中で一日をやり過ごそう、と目論んでいたのに……。

「あ~、もうパン無いって! 加嶋ぁ、今度はパン取って来て!!」
「は、はいっ!」

 同じ調理補助の女子が、焼きそば用のトングを勢いよく僕に突きつけて指示を飛ばしてくる。有無を言わせないその勢いに僕は慌てて今しがた持って来たばかりの焼きそばソースを置いて校舎へと走った。

 僕の想定では、忙しいだろう調理補助の仕事を頑張る事で文化祭を回る時間を消費してテントから出ず、あわよくば秋坂君のおかげで僕への対応が柔らかくなっている今のうちにクラスメイトと少しでも打ち解けられれば……なんて考えていたのに。現実は厳しかった。

 調理補助係の男子は僕を含めて三人だけで、圧倒的に女子が多かった。それは、係に決まった時から分かっていた事やけど。まさか、その女子達は暇さえあれば焼きそばを作っている男子達の方へ絡みに行って盛り上がり、打ち解けるどころか会話すら出来ないなんて……。
 それどころか、調理関係は全部女子が担い、僕は洗い物や足りない物を取りに行くために校舎の家庭科室や準備室に何度も一人で走らされ、テントの下になんてほとんどいられなかった。

 そりゃあ、鉄板で焼きそばを作る役どころなんて屋台の花形だし、当然クラスの中でも一軍の男子達が担当になっているんやから女子が群がるのも納得やし、少しでも一緒に作業出来るポジションを譲れないんやろう事も分かるけど。
 しかも、その焼きそばを作る担当には秋坂君もいて、クラスの女子だけでなく他クラスの女子や男子までもが声をかけに来て鉄板周辺は引っ切り無しに人がやって来て大人気だ。
 テントと校舎の往復で誰かと一緒の空間にいる事すらほどんど無い自分と違い、常に誰かに囲まれていて賑やかなその場所は、キラキラと太陽があたっているみたいに輝いて見えて……。自分とは本当に生きている世界が違うんやな、なんて、改めて感じるその差に鳩尾が冷たくなる。

(テントの影でコソコソと一日を消費しようとしていたバチでも当たってもうたんかな……)
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