君が始めた『恋人ごっこ』の終わらせ方は・・・

兎卜 羊

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27 伝える

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「部屋、片付けてたのか?」

 秋坂君が、すっかり定位置となっている部屋の奥側に座って部屋を見渡す。
 再来週には大阪に引っ越す予定で荷物をまとめ始めていた僕の部屋には、数個の段ボールが積み重なり、本棚や学習机の棚には空白が開いていた。

「うん……」
「受験も終わって高校も卒業なんだから、そりゃそうか。俺も明日から片付けるか~」

 さっきの多田さんとのやり取りなんて無かったかのように、何も感じさせない位のびのびとくつろぐ秋坂君の前にジュースが入ったコップを置く。
 反対に、僕はさっきの事もあるし、久し振りの秋坂君の訪問にどういう素振りをすればいいのか……。まだ、志望校を変えて大阪に行く事も黙ったままな事も気まずくて、視線をさ迷わせながら体を小さくして座る。

「あの……ほんまに、多田さんの事は……良かったん? 今からでも連絡して……」
「は? なんで?」
「やって、あんな喧嘩みたいなん……多田さんからしてみたら、僕みたいなんがおって気分が悪いんは当然やろうし」
「それこそ、はあ? なんだけど。加嶋がいて気分悪いってなんだよ。だったら来んなって話だろ。勝手に毎日付いて来てんのはあっちなんだから」

 眉間に皺を寄せた秋坂君に睨み付けられ、口をつぐむ。
 勝手に付いて来たってそんなん。あんなに二人で仲よさそうにしてたのに……。

「てか、あんだけ好き勝手言われて、なんで瑞穂の事気にしてんだよ、お前は」
「いや、せやかて……僕が邪魔しとったから」
「だから、邪魔してんのはあっち! 俺は一緒に帰りたいなんて言ってないし思っても無かったんだよ。もうその話はいいだろ。それよりも、卒業旅行どうするか決めようぜ」

 そう言って話を半ば無理やり切り上げた秋坂君が僕の横に移動して来てスマホを取り出す。

「ここなんか良いと思うんだけど、どう?」

 なんて、いくつもの旅行プランを画面に映し出して見せて来る。 
 卒業旅行って……ほんまに僕と行くつもりやったんや、とか、これだけのプラン調べてるやなんて本気やん、とか、秋坂君のスマホの中で次々と流れる楽しそうな画像を眺めるながら、ぼんやりとそんな事を考える。
 やっぱり、秋坂君の考えてる事は良く分からへん。でもそれ以上に、自分勝手過ぎやわ。

 テーマパークに食べ歩き、ベイエリアのクルーズやなんて、秋坂君のピックアップした旅行プランはどれも楽しそうで。その中に、いつだったか僕がポロリと『好きや』と溢したプラネタリウムまで入ってて、「覚えてくれてたんかな……」なんて、それだけで不覚にも胸が甘酸っぱく疼く。
 この期に及んでまだ往生際の悪い僕の恋心に、ほんまに救いようがないアホや、と下唇を噛む。けど、もう全部終わらせると決めたんやから、と大きく息を吸い込む。
 ほんまは何も言わずに引っ越してフェードアウトしようとも思うとったけど、自分へのケジメを付ける為にも、今日ここで終わらせた方がええんかもしれん。

「卒業旅行は……行かれへん」
「ああ? なんで」

 ドキドキしながら発した言葉も、一度出てしまえば勢いが付く。その勢いを殺さないように、手を強く握りしめて秋坂君のスマホを持つ手だけに視点を定める。
 秋坂君の顔を見たら、この決意が揺るぎそうやから……。

「引っ越し、するから……。行かれへん」
「引っ越しぃ!? 俺、そんなの聞いてないんだけど……。それって大学を期に一人暮らしって事?」
「うん」
「あ~、そっか、そうなると引っ越し費用かかるもんなぁ。だったら近場で遊ぼうぜ! どこに引っ越すんだよ。やっぱ大学の近く?」

 そう言いながら秋坂君がスマホで東京の観光地や人気スポットを慣れた手つきで検索しだす。
 そのままスマホを操作していない方の手は僕の腰に回って来て、僕を秋坂君の足の間に挟むように背後から抱きしめてくる。
 背中から伝わる秋坂君の体温と、肩に置かれ、頬に触れそうなほど近い秋坂君の顔に不覚にも高鳴る胸に腹が立つ。
 僕にも、秋坂君にも……。

 終わらせようとした途端、一緒に遊ぶとか出かけるとか、まるで本当の恋人みたいな事をしようと提案されるなんて、とんだ皮肉や。
 いや、それだって結局は多田さんも一緒とか、ドタキャンの可能性がある訳で。単純に喜べるもんやないけど。

「やっぱ、大学の最寄駅から考えて中央線沿線?」
「大阪」
「ん? 何が?」
「引っ越し先……大阪、やから……旅行も、遊ぶんも、無理」
「は? はぁ!?」

 秋坂君の素っ頓狂な声と同時に視線の先にあったスマホがゴトッ、と音を鳴らして床に落ち、秋坂君の温もりが背中から離れて寒い。

「なんだよ、それ……聞いてない……。加嶋が受けるって言ってた大学、全部東京だったじゃねえかよ!」
「うん……途中までは、そうやったんやけど……東京に引っ越してくる前から行きたかった志望校、受けてん……せやから、もう秋坂君とは、会わへん。こんな関係も……もう、終わりにして欲しい」

 背後から聞こえる秋坂君の荒げた声に耳を塞ぎたくなるのを耐えて、自分の気持ちを伝える。
 『終わりにしたい』ずっと言いたかった言葉やのに、いざ口に出して伝えてしまうと胸が苦しくてたまらない、この矛盾。この結論に後悔なんてしないはずやのに、ままならない感情に呼吸がしづらい。

「それは……俺と別れる、って、事か?」
「っ、別れるも何も……秋坂君のそれは……ただの、ごっこ遊びやろ?」
「違うっ! 遊びじゃない!」

 背後から伸びて来た手に腕を引かれ、体を秋坂君の方へと向けさせられる。
 でも、秋坂君の顔を見る事なんて出来なくて、顔と視線を下に逸らしたまま「違わない……」と首を横に振る。

「ずっと……そう思ってたのか? 俺とは遊びだって……」
「だって秋坂君、言うたやん……男と付き合うの、面白そうやからって。興味があるって。僕とセックスした時も、そう言うてたやん。それは……遊びや」
「違う……違うって……」

 弱々しい声で否定を繰り返す秋坂君の揺れる影を、僕はジッと見ていた。
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