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18 オレンジの約束
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いつもの触れるだけの口づけと違い、深い触れ合いに翻弄される。熱い舌が僕の舌と絡まり、熱と一緒に溶け合っていく。
「ウォレン……」
微かに離れた唇の隙間から名前を呼ばれ、知らず閉じていた目を開ける。熱の籠った目に見つめられ、微かに香るスターアニスに頭がクラクラする。
チュ、チュ、と何度も角度を変えては唇を啄ばまれ、息が上がる。
名残惜し気に舌を吸われ唇が離れた時には、僕はイサーク様の胸にしがみ付いていないと立っていられない様な有様だった。
何も遮る物の無い庭の真ん中で、しかも真っ昼間に。
いくらイサーク様と想いが通じたからといえ、使用人達に見られでもしたら……先程とは違う意味で顔が赤くなる。
「イサーク様! こんな所でっ、誰かに見られたら!!」
急に恥ずかしくなり、イサーク様から離れようと手を突っ張るが、イサーク様は離してはくれない。
「大丈夫、誰も見ていないよ。それに誰か来たとしても気を遣って見ない様にしてくれるさ」
気を遣われる時点で見られてしまっている気がするけれど、ニコニコと笑っているイサーク様にこれ以上言っても無駄な様な気がして、誰も来ない事を祈りつつイサーク様の腕に身を任せる。
「まだまだこのままでいたいけど、一度屋敷の中に戻ろうか。オレンジの木を植えるのを手伝ってくれるんだろう?」
ああ、そうだった。急な来客で途中で止めてしまっていたけど、お昼から植えよう、と言われていたんだった。だったら早く昼食を済ませて準備しなくては。
「勿論ですよ! 任せて下さい」
「あははは、頼もしいな。……実はね、オレンジの木を植えようと思った理由は、ウォレンなんだ」
「僕?」
「上手く言えないんだが……君から、ほんの微かにオレンジのマンダリンの香りがする時があるんだ。初めて会った時からね。それで、ウォレンとの結婚の記念に、って言うと恥ずかしいな。だから、そのオレンジの木をウォレンと一緒に植えられるのが、とても嬉しいんだ」
照れ臭そうに笑うイサーク様を前に、記念だなんて言われて僕まで照れてしまう。
でも、僕からマンダリンの香りかぁ。そんな事初めて言われた。僕、そんなにオレンジの匂いが付くほど食べているかな?
「今も僕からマンダリンの匂いがするんですか?」
自分の肩に鼻を近づけ嗅いでみるけれど、特に何も匂わない。さっき地面に倒れたからか、あえて言うなら土の匂い?
「いや、今はしないな」
「もしかして、兄様からオレンジの砂糖漬けの話を聞かれたとか?」
僕とオレンジと言ったら、それ位しか思い浮かばない。兄様からその話を聞いてイメージが付いて、とか無いだろうか? でも、もし、そうなら随分と子供っぽい事を知られてしまった気がして恥ずかしい。
「オレンジの砂糖漬け? いや、ファリオンからは何も聞いていないが。砂糖漬けがどうかしたのか?」
「いえ、あの……僕が小さい頃から好きで、病気になると兄様が毎回持って来てくれるんです。この前も、僕が落ち込んでいたら持って来てくれて……食欲無くても、それなら食べられるって、子供みたいですよね」
結局、兄様が話した訳でも無かったのに自分でバラす結果になってしまった。
「それは、もしかしてファリオンが作るのか?」
「まさか。兄様が厨房に立つなんてあり得ませんよ。何処かの店で買って来てくれるんです。もしかしたら使用人に作って貰ったのもあったかもしれませんが」
実家では兄様だけでなく家族全員厨房には入らない。料理をするのは使用人のする事だ、と言うのが父様と母様の考え方で、小さな頃から入らせて貰えなかった。
だから、兄様が作る、という事はあり得ない。
「そうか……じゃぁ、これからは私がウォレンの為に作ってあげるよ。植えたオレンジの木が実るのが今から楽しみだな」
「ええ!? イサーク様が!? え? イサーク様って厨房に立たれるんですか?」
「いや、立った事は無いな。立とうと思った事も無い。だが、私がウォレンの為に作りたいと思ったんだ。食べてくれるかい?」
キラキラと太陽が降り注ぐ中、笑って事もなげにそんな事を言うイサーク様が太陽の光よりも眩しい。
しかし、伯爵自ら作るだなんて、本気だろうか? でも、イサーク様の言う事はどれも本気ばかりだったみたいだし……だから、きっと本当に作ってくれるんだろう。
「はい! 喜んで。僕も、今から楽しみです」
「あはは。では、美味いオレンジが実る様に特別丁寧にオレンジの木を植えなければいけないな。……あぁ、しまったな。屋敷に戻ると言いながらずっと立ち話をしてしまっていた。ほら、急ごうか」
そうイサーク様が言うと、スッ、とその場に屈み僕の膝裏に手を回し抱き上げた。
「わぁぁぁっ! ちょっ、イサーク様!? なんで!? お、降ろして下さい!!」
「ほら、ちゃんと私の首に腕を回して。落ちちゃうよ? ふふふ。だって、ウォレンはさっきのキスで力が入らなくなったんだろ? 私が責任を持って屋敷まで運んであげるよ」
「もう大丈夫です! 歩けます!」
「この方が早いよ?」
僕の言い分をイサーク様は全く聞いてくれない。その上、わざとバランスを崩され、咄嗟に目の前の首に抱き付く。そんな慌てる僕を見てイサーク様は満足そうに笑うと、スタスタとお屋敷に向かってしまった。
確かに足の長さだとか歩幅だとかを考えれば早いかも知れないけれど、こんな姿を使用人に見られては何て思われるか。僕が羞恥心で爆発してしまう!
「ウォレン……」
微かに離れた唇の隙間から名前を呼ばれ、知らず閉じていた目を開ける。熱の籠った目に見つめられ、微かに香るスターアニスに頭がクラクラする。
チュ、チュ、と何度も角度を変えては唇を啄ばまれ、息が上がる。
名残惜し気に舌を吸われ唇が離れた時には、僕はイサーク様の胸にしがみ付いていないと立っていられない様な有様だった。
何も遮る物の無い庭の真ん中で、しかも真っ昼間に。
いくらイサーク様と想いが通じたからといえ、使用人達に見られでもしたら……先程とは違う意味で顔が赤くなる。
「イサーク様! こんな所でっ、誰かに見られたら!!」
急に恥ずかしくなり、イサーク様から離れようと手を突っ張るが、イサーク様は離してはくれない。
「大丈夫、誰も見ていないよ。それに誰か来たとしても気を遣って見ない様にしてくれるさ」
気を遣われる時点で見られてしまっている気がするけれど、ニコニコと笑っているイサーク様にこれ以上言っても無駄な様な気がして、誰も来ない事を祈りつつイサーク様の腕に身を任せる。
「まだまだこのままでいたいけど、一度屋敷の中に戻ろうか。オレンジの木を植えるのを手伝ってくれるんだろう?」
ああ、そうだった。急な来客で途中で止めてしまっていたけど、お昼から植えよう、と言われていたんだった。だったら早く昼食を済ませて準備しなくては。
「勿論ですよ! 任せて下さい」
「あははは、頼もしいな。……実はね、オレンジの木を植えようと思った理由は、ウォレンなんだ」
「僕?」
「上手く言えないんだが……君から、ほんの微かにオレンジのマンダリンの香りがする時があるんだ。初めて会った時からね。それで、ウォレンとの結婚の記念に、って言うと恥ずかしいな。だから、そのオレンジの木をウォレンと一緒に植えられるのが、とても嬉しいんだ」
照れ臭そうに笑うイサーク様を前に、記念だなんて言われて僕まで照れてしまう。
でも、僕からマンダリンの香りかぁ。そんな事初めて言われた。僕、そんなにオレンジの匂いが付くほど食べているかな?
「今も僕からマンダリンの匂いがするんですか?」
自分の肩に鼻を近づけ嗅いでみるけれど、特に何も匂わない。さっき地面に倒れたからか、あえて言うなら土の匂い?
「いや、今はしないな」
「もしかして、兄様からオレンジの砂糖漬けの話を聞かれたとか?」
僕とオレンジと言ったら、それ位しか思い浮かばない。兄様からその話を聞いてイメージが付いて、とか無いだろうか? でも、もし、そうなら随分と子供っぽい事を知られてしまった気がして恥ずかしい。
「オレンジの砂糖漬け? いや、ファリオンからは何も聞いていないが。砂糖漬けがどうかしたのか?」
「いえ、あの……僕が小さい頃から好きで、病気になると兄様が毎回持って来てくれるんです。この前も、僕が落ち込んでいたら持って来てくれて……食欲無くても、それなら食べられるって、子供みたいですよね」
結局、兄様が話した訳でも無かったのに自分でバラす結果になってしまった。
「それは、もしかしてファリオンが作るのか?」
「まさか。兄様が厨房に立つなんてあり得ませんよ。何処かの店で買って来てくれるんです。もしかしたら使用人に作って貰ったのもあったかもしれませんが」
実家では兄様だけでなく家族全員厨房には入らない。料理をするのは使用人のする事だ、と言うのが父様と母様の考え方で、小さな頃から入らせて貰えなかった。
だから、兄様が作る、という事はあり得ない。
「そうか……じゃぁ、これからは私がウォレンの為に作ってあげるよ。植えたオレンジの木が実るのが今から楽しみだな」
「ええ!? イサーク様が!? え? イサーク様って厨房に立たれるんですか?」
「いや、立った事は無いな。立とうと思った事も無い。だが、私がウォレンの為に作りたいと思ったんだ。食べてくれるかい?」
キラキラと太陽が降り注ぐ中、笑って事もなげにそんな事を言うイサーク様が太陽の光よりも眩しい。
しかし、伯爵自ら作るだなんて、本気だろうか? でも、イサーク様の言う事はどれも本気ばかりだったみたいだし……だから、きっと本当に作ってくれるんだろう。
「はい! 喜んで。僕も、今から楽しみです」
「あはは。では、美味いオレンジが実る様に特別丁寧にオレンジの木を植えなければいけないな。……あぁ、しまったな。屋敷に戻ると言いながらずっと立ち話をしてしまっていた。ほら、急ごうか」
そうイサーク様が言うと、スッ、とその場に屈み僕の膝裏に手を回し抱き上げた。
「わぁぁぁっ! ちょっ、イサーク様!? なんで!? お、降ろして下さい!!」
「ほら、ちゃんと私の首に腕を回して。落ちちゃうよ? ふふふ。だって、ウォレンはさっきのキスで力が入らなくなったんだろ? 私が責任を持って屋敷まで運んであげるよ」
「もう大丈夫です! 歩けます!」
「この方が早いよ?」
僕の言い分をイサーク様は全く聞いてくれない。その上、わざとバランスを崩され、咄嗟に目の前の首に抱き付く。そんな慌てる僕を見てイサーク様は満足そうに笑うと、スタスタとお屋敷に向かってしまった。
確かに足の長さだとか歩幅だとかを考えれば早いかも知れないけれど、こんな姿を使用人に見られては何て思われるか。僕が羞恥心で爆発してしまう!
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