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004 出発

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「……」

 動かないミウを見て、れんは少し心配になってきた。

「ええっと、これって……まさか死んじゃった、とかじゃないよね」

 そうつぶやき見守っていると、やがてミウの体が小さく動いた。

「あ、動いた……ミウ? 大丈夫?」

 ミウが顔を上げ、一声鳴く。

「いい感じの時間軸があったよ。今から10年後」

「10年後、27歳かぁ……あ、でもちょっと待って。ミウってば今、何をしてたの?」

れんちゃんの希望に沿える未来を探す為に、別の時間軸の僕と意識をリンクしてたんだ」

「リンク?」

「簡単に言えば、未来を見てきたってこと」

「未来をって……すごいことをさらっと言われたような」

「あははっ、深く考えなくていいよ。とにかくれんちゃんの望みに応えられる、ふさわしい時間軸だと思う」

「そうなんだね。ありがとう、ミウ」

「それでね、行く前に説明しておくことがあるんだ」

「うん。まずは着替えよね」

「それは大丈夫、着替えなくても問題ないから」

「そうなの? 私、寝間着のままで未来に飛ぶの? 流石にこのままじゃ、恥ずかしいと言うか何と言うか」

れんちゃんは今から未来に行く。でも厳密に言えば、れんちゃん自身が行く訳じゃないんだ」

「よく分からない」

「簡単に言えば、れんちゃんの姿と意識、情報をコピーして10年後の世界で再構築するんだ。だから今のれんちゃんの体はここに残るし、服装は……僕がうまくしておくから」

「また……すごいことをさらっと」

「難しいだろうから理解しなくていいよ。とにかくれんちゃんは、10年後の世界に行けるんだ」

「うん、ミウがそう言うなら分かった」

「ありがとう。それで向こうに着いてからのことなんだけど、れんちゃんの姿を認識出来るのは二人、未来のれんちゃんとれんくんだけだから」

「二人だけ?」

「そうでないと、ややこしくなっちゃう。突然10年前のれんちゃんが現れたら、他の人も驚くだろ?」

「それもそうか……でも、未来の私やれんくんはどうなの? 驚くと思うんだけど」

「それは問題ないよ。前もって僕が二人に情報を流しておくから。そして彼らは、そのことに何の疑問も持たない。過去のれんちゃんが来たことを、当たり前のこととして認識してくれる」

「何だか、色々すごいね」

「そして二人は、れんちゃんのことを決して口外しない。10年後の世界でも、時間旅行タイムトラベルは空想の物だからね。そしてこちらのれんちゃんなんだけど」

「どうなるの?」

「ベッドで眠った状態になる。未来に行ってる間ね」

「でもそれって、声をかけられても起きないってことよね。お母さんに心配されないかな」

「それも大丈夫。れんちゃんが向こうの世界に一年いたとしても、戻って来るポイントを今の時間に設定しておくから」

「……脳が追い付かない」

「ああれんちゃん、深く考えないで。さっきみたいにパニックになられても困るから」

「う、うん。分かった、考えないようにするよ。とにかく私は、今から10年後の未来に行く。私のことが見えるのは未来の私たちだけで、私が来ることも事前に知っている。今の私はこの部屋で寝ていて、戻ってくるのは今の時間。そういうことね」

「あははっ……れんちゃんって本当、面白いね。難しい話だとパニックになるのに、いざ受け入れたら当然のように理解してくれる」

「……褒めてるの、それ」

「褒めてるよ、勿論。それと僕は基本、れんちゃんの前に現れない。でも心配しないでね。ちゃんとサポートしてるから。それにれんちゃんが呼んでくれれば応えるし、姿も見せるから」

「分かった。それで私、どれくらい向こうにいてていいのかな」

「それはれんちゃん次第かな。れんちゃんが満足した時がその時、それでいいと思うよ」

「どれだけいてもいいの?」

「うん。気が済むまで楽しんでくるといいよ」

「でもそれって、こっちに戻って来た時、頭だけが年をとってる、なんてことにならないのかな」

「いいところに気付いたね。確かにそうだよね。もし向こうの世界に10年いたとしたら、れんちゃんの精神年齢は27歳になってしまう。
 でも大丈夫、その辺のこともちゃんと手を打ってるから」

「どうやって?」

「戻ってきたれんちゃんにとって、向こうでの出来事は夢を見ていたぐらいの感覚になるんだ」

「なるほど、それなら問題ないね。あ、でも……ちょっと待って、それじゃあ今からの旅は、戻って来た時に忘れてるってこと?」

「それはれんちゃん次第かな。ほら、夢だってそうだろ? 印象に深く残ってるものは、目覚めても記憶に残ってる」

「そうなのかな」

「向こうの世界でのことは、間違いなくれんちゃんの経験なんだ。れんちゃんが忘れたくないと思ったことは、きっと覚えてると思うよ」

「そっか……うん、分かった。じゃあミウ、お願い出来るかな」

「さすがれんちゃん、決断すると早いね。じゃあ布団に入ってくれるかな」

「分かった」

 ミウにうながされるままに、れんはベッドに潜り込んだ。

「まずはどこに行きたいかな。れんちゃんの所かな、それともれんくんの所かな」

「勿論れんくんで。未来の自分より、まずはれんくんでしょ」

「あははっ、そうなんだね。分かった、じゃあれんくんに会えるポイントに設定するね」

「ありがとう、ミウ」

「じゃあれんちゃん、いい旅になること、祈ってるよ」

「うん、いってきます」

 目を閉じると同時に、強烈な眠気に襲われた。
 れんが眠りにつくと、ミウは目を細めて鳴いた。

「いってらっしゃい、れんちゃん」


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