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妖精との出会い:2(アル視点)
「さて、すっかり元気だし、家へ帰って君へのお礼の準備をしたいけれど…その前に君の傷が心配だ」
そうは言ったが、正直羽が傷ついて飛べなくなってくれたおかげで今こうして話せるのだから、このことについてはラッキーとさえ思っている。
それに、妖精が羽を使えない今は、移動するなら俺のほうが早い。
逃げられる心配もないのだ。
このまま治らなければいいのに……そんなどす黒い考えまでも浮かんできてしまう。
しかし、今は傷を言い訳にしてまだ近くにいる口実を作りたかった。
暴走が収まった今、指輪でハワードを呼び出せば、転移魔法ですぐ来るだろう。
ただ、まだ帰るつもりはない。もう少し二人きりを堪能したい。
「痛そうだ。」
君が怪我を負って、俺は喜んでいる…そんな自分の醜い心がバレないように、必死に心を落ち着かせる。
痛くないように、刺激しないように優しく羽を撫でた。
この怪我を負わず、あのまま妖精が逃げてしまっていたら、もう会えなかったのではないかと思うとゾッとする。
想像するだけで恐ろしい、と思わず声が震えてしまう。
すると、何が面白かったのか妖精が、んふふと笑う。
それがあまりにも可愛くって、気がつけば頭を撫でていた。するとどうしたことか、妖精は俺の手に気持ちよさそうにすり寄ってきた。
「……っすごい破壊力…こんなに可愛くってよく今まで襲われなかったな…」
思わずそう声に出してしまったが、これは俺は悪くないと思う。
この妖精には警戒心というものはないのか?
それとも、俺にだけこんなに可愛いのか…?
心臓がドキドキと高鳴っている。
俺はいったい今日だけでどれだけ可愛いと心の中で唱えただろうか…
一体どれだけ俺の心を揺さぶるんだ、と思うが決して不快な感覚ではなかった。
しかし、次の言葉で俺の心が一気に冷え切ったのを感じた。
「心配しなくても僕の怪我なら大丈夫…ここの動物に会えたら、僕の友達のもとまで運んでもらえないかお願いするよ…」
「………………友達?」
別に、親しい人がいるのは何らおかしくない。
しかし、俺よりも先にこの妖精と出会った者がいる…仲の良い者がいる。
それがとてつもなく不愉快だった。もしかして、警戒心がないのは人間とすでに知り合っているからか?と嫌な予想ばかり出てくる。
そんな不愉快な気持ちが顔に出てしまったのか、妖精はプルプルと震えて泣き出してしまった。
「ぇぐっ…ごめっ…ごめんなさいっ…嫌わないでぇ…」
「…っっ…ああっごめん、ごめんね?俺が悪かった。怒ってないよほら、おいで。」
俺は木の根元に座ったまま、両腕を広げ妖精を誘導する。
すると、何のためらいもなく腕の中に収まってくる。俺は、妖精のお腹に腕をまわし、ゆるく抱きしめた。
そうすると、妖精は肩の力をぬいて俺に体重を預けてくるものだから、俺の方がドキドキしてしまう。
泣かせてしまって、「ごめんね」と妖精の頭にうりうりと頬を押しつける。
『嫌わないで』と俺に嫌われたと思った彼が、俺のために、俺を想って涙を流したのだ。嬉しくないわけがない。自分の機嫌が上昇するのを感じる。
俺だって嫌われたくない。このままどこにも行かないでほしい。
俺がぐりぐりと頬を押しつけていたのが面白かったのかクスクスと妖精は笑う。もう泣きやんでくれたみたいだ。
こんなにもすぐに俺に捕まっちゃって…おバカでかわいい俺の妖精…。
そのあと、妖精の友達というのは森の動物達だということがわかった。
この妖精は動物と会話ができるのだろう。あまり真剣に考えていなかったが、よく考えれば"妖精"は世間一般的に架空の生き物だ。
俺もこの妖精を見るまで存在するとは思っていなかった。
だから動物と話せても何らおかしくはない。動物と友達でもおかしくはない。
決して愉快ではないけれど、妖精でも人でもないことにひとまず安心した。
負ける気はまったくないが、彼と同族だったりしたら俺はだいぶ不利だ。
種族の違いというのはどこかで障壁になる可能性が高いのだから……。
そういえば、動物達に助けてもらうとか言っていたなと、早合点しすぎたことに少し反省した。
さて、そうなるとここに動物たちが寄ってくるのはまずい。
俺はもっとこの妖精のそばにいたいのだ。動物に今来られると、次会えるのはここに"人間の食べ物を渡す"ときになってしまう。
そこで、俺はハワードのことを思い出した。
こんなに早く連絡する気はなかったのだが…と思いながら、連絡を送信した。
『魔力暴走は完治した。
迎えに来る前に、俺の周りに動物が近づかないよう今すぐ結界を張れ。そのあと俺と合流しろ。』
*
しばらく、膝の上に妖精を乗せてその体温を感じていると、
「あれ…ところで人間はどうやって帰るの」
「あぁ。俺がつけてるこの指輪ね、ペアの指輪をつけている人を追跡できるんだよ。連絡もとれる。今迎えを頼んだからしばらくしたら執事が来ると思う。」
今頃俺の指示通りに結界を張っているところだろう、周りに動物の気配を全く感じなくなってきた。
すると妖精はぽすっと頭を俺の胸にうずめてきた。かわいいな、と頭を撫でる。もうすっかり撫でられ慣れた妖精は、全体重を俺に預けてくる。それが、俺のことを心から信頼してくれているように見えて幸せな気持ちになった。
「…良ければ俺の事は人間じゃなくて、アルと呼んでくれないか?」
「アル…?」
上目遣いでこちらを見ながら俺の名前を呼ぶ。この妖精に名前を呼ばれるだけで、果てしない幸福を感じた。自然と口角があがり笑みがこぼれる。
「よければ君の名前も教えてくれないか?」
「僕…?僕名前持ってないよ…」
「じゃあ……俺がつけてもいいかな?」
妖精の手を取り優しく、そして拒否しないで…とそんな気持ちを込めて握りしめる。
名前がないのは少し不便だ。ずっと君とか妖精とか呼ぶわけにはいかない。
だから名付けてもいいか提案した所、快く了承された。
これは、俺を信頼してくれているからなのか、単に名前にこだわりがないのか、
前者だったら嬉しい…と思いながら名前を考えた。
「じゃあ……フィンはどうだろう?愛称は…フィニー」
「フィン…フィン!んふふ…僕はフィン」
気に入ってくれたみたいだ。
ニコニコと笑うフィニーがやっぱり可愛くって、ぎゅっと抱きしめた。
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