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我が家へ:2(アル視点)
*
コンコン、と控えめな扉のノックの音でまた目が覚める。
「…アルバート様?そろそろ起きていただきたいのですが…」
「……」
さっきから何度も声をかけられていることに気づいてはいたが、無視している。
昨日まで死にかけていたのだ。少し休む権利が俺にはあると思う。
今日は、体内で魔力が暴れておらず、呼吸も楽だった。こんな気持ちのいい朝はいつぶりだろうか。
それに、腕の中には、まだすやすやと眠っているフィニーがいる。それが何よりも幸せだった。
俺はそのままフィニーを眺める。
無防備に寝顔を晒しているフィニーが愛おしい。柔らかそうな頬をつんつんと触ると嫌そうに顔をしかめる。それが面白くってついついたくさん触ってしまう。
すると、ぷいと顔を背けてしまった。
こっちむいて欲しいな、と頭を撫でると、すりと手に擦り寄られる。それがあまりにも可愛くって、笑みがこぼれる。
すると、フィニーがもぞもぞと動きだし、寝起きらしく緩慢な動きで俺の方を見る。どうやら起こしてしまったみたいだ。
「ごめんね、起こしちゃったかな?おはよう、フィニー」
「ううん、おはよう、アル。えへへ、朝からアルに会えて嬉しい」
寝起きのフィニーはぼーっとしていて、俺の首元にすりすりと猫のように甘えてくる姿は庇護欲をかきたてる。
こんな可愛い時に、そんなに可愛いことを言わないでほしい。
「もう、朝から不意打ちだよ…。俺もすっごく嬉しい。」
可愛いしか考えられなくって、衝動でギュッと抱きしめる。
すると、フィニーが腕のなかで身じろいで自分の背中を確認した。
「わぁ、アルが手当てしてくれたの?」
どうやら、羽の包帯に気がついたらしい。
「うん、とりあえずは応急処置ね。今日はちゃんと医者に診てもらおうね?」
そう言うと、フィニーは少し不安そうに眉を下げる。もしかして医者に会うのが怖いのだろうか?
「会うの怖い?」
あまり自信はないが、多分フィニーは警戒心をちゃんともっている。人間に見つかりでもしたら、ろくな扱いをされないのは目に見えているのだから、当たり前といえばそうなのだが。
本当に今まで誰にも見つからなくてよかった……。
むしろ、なんで俺に対してあそこまですぐに警戒を解いてしまったのか。
しかし、それにまんざらでもない自分もいる。
「ちょっとだけ、でもアルとなら平気…」
「フィニーは偉いね」
俺は偉い偉い、とフィニーの頭を撫でる。
俺となら平気…とか俺を喜ばせる発言をする才能がフィニーにはあると思う。フィニーの行動と発言に一喜一憂してばかりだ。
それに不快さを感じるでもなく、楽しさを感じているのだからどうしようもない。
「アル、僕ねむくなっちゃうから…」
「ふふ、寝ていいよ。」
フィニーが、頭を撫でていた俺の手をきゅっと掴んでくる。少し舌足らずな話し方がかわいい。
「…起きたときに横にいてくれる?」
「…っ…かわいいなぁもう……もちろん絶対横にいる。」
もう、なんなのだろうか。
こんな可愛いくって俺をどうするつもりだろう。魔力暴走のおかげでフィニーに会えたのだ。今まであんなに苦しめられてはいたが、今では感謝の気持ちすら湧いてきていた。
フィニーはすっと目を閉じて、小さな寝息をたてはじめた。
俺も、またしばらくフィニーを眺めようとベッドで落ち着く。
「アルバート様!?仕事が溜まりまくってますうう!お願いです起きてください!!!」
うるさい…フィニーが起きてしまう。
出たくはないが、このまま放置していると騒音でフィニーを起こしてしまう。
仕方なく扉を開けて、一発頭をはたいてから、
「うるさいフィニーが起きる。すぐ行くから軽めの朝食を用意しておけ。」
「痛っ…ええ、俺が悪いの…?」
そんなハワードの声が虚しく廊下に響いた。
*
仕方なく、執務室で書類を片付けていく。一応爵位は公爵なために、なかなかに忙しい。
フィニーはもちろん執務室に連れてきている。
ソファに沢山のクッションと毛布を敷き詰め、落ちても痛くない空間を作ってそこに寝かせている。
冷たい雰囲気の整然とした執務室に、メルヘンな空間が出来上がっていた。
そこから数十分ほど経った頃。ソファの方からなんだか熱い視線を感じた。
そちらを見ると、フィニーが俺をじっと見ていた。
「おはようフィニー、お腹減ったでしょう?朝食を準備してもらうからね」
すると、フィニーがなぜかまた毛布にくるまってしまった。
体調が悪いのだろうか?朝は大丈夫そうだったが…心配だ。
書き途中の書類を放置して、フィニーの側へと近寄る。
「フィニー?もしかしてまだ昨日の酔いがのこってる?」
「ううん大丈夫…」
毛布から覗いているフィニーの耳が赤かった。
もしかして、照れているのだろうか?
自意識過剰だったら恥ずかしいが、俺の顔を見つめていたのは、見惚れてくれていたりでもしたのだろうか。
(だとしたら嬉しいな)
今は仲良しの友達くらいかもしれないが、これなら俺の事をそういう意味で好きになってくれる日はすぐに来てくれるかもしれない。思わず口元が緩む。
「そう?無理しないでね?」
ぽんぽんと頭を撫でる。そうすると、フィニーの耳が余計赤くなったのが見えた。
フィニーがかわいすぎて、口元がずっと緩みっぱなしだ。
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