妖精です、囲われてます

うあゆ

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怖い人間



 アルの家に来て、1週間が過ぎた日の朝。
 僕を包んでいた温かさが消え、横がスースーする肌寒さで目が覚める。

「ん、あるー」
「ふふっ…おはようフィニー」

 アルはもう準備を始めていて、今は寝間着から着替えるところだった。アルは朝が早い。
僕は森ではずっと昼起きの生活を繰り返していたから、まだかなり眠かった。
アルは鏡の前から移動してきて、ベットの端に腰掛け僕の頭を撫でる。

「フィニー、俺は先に執務室に行くけど、好きなだけ寝てていいからね?」
「うんー、ぼくもすぐいく…」

 ほぼ目の開いていない、毛布に包まったままの僕を最後にすり、と撫でてアルは部屋を出ていった。

 ここは、ご飯も美味しいし、ベットもふかふか、近くにはずっと僕を甘やかしてくれるアルがいる。それがあまりにも居心地がよくて、つい帰れないでいた。

 これ以上ここにいると本当にアルから離れられなくなりそうで、早く帰らないととは思っているのだが、ついつい長居してしまっている。
 それにアルも僕に、「ずっとここにいていいんだよ」なんていうからその言葉に甘えてしまう。

 まあ、また今度このことは考えよう。今は二度寝を楽しもうと僕はまた目を閉じた。


 *

バッと急に毛布が剥ぎ取られ、冷気に晒される。
今の季節は、昼は心地よい日差しで過ごしやすいが、朝はまだまだ寒かった。

僕は急なことで驚いて、ばっと起き上がり周りを見渡した。
すると、ベットの横に初めて見る人間が立っていた。メイドさんというのだったか、ハワードとはまた違った制服だ。
手には僕が包まっていた毛布が握られていて、なぜか僕のことをすごい形相で睨んでいた。

「…っ…なんで…なんで、こんな虫みたいな気持ち悪いやつが…っっ!!!!」

 その人間は、歯を食いしばり、充血した目で僕のことを睨んでくる。
 この人間は危ない、そう直感的に感じ、すっかりここでの生活で治った羽で飛んで逃げようとする。
 しかし、飛ぼうとした瞬間ガシッと足を掴まれてしまう。強い力で握られて、足がみしみしと悲鳴を上げる。抑えつけられている恐怖と、人間の必死の形相に恐怖で身体がすくみ、動けなくなってしまう。
 怖い、怖い、怖い。身体が震える。アルを、アルを早く呼ばないと。

「なんで…なんでこんな奴がっ!私の方が!あの方に相応しいのよ…っ!!!!!」

「ぁ……ぁ…ある…っ…アルっっ!助けっ___」

 恐怖で喉が張り付きうまく声がでない中、必死でアルを呼ぼうとする。しかし、すぐに人間に枕を顔に押し付けられた。
 すっごく苦しくて、息ができない。枕を押し返そうとしてもびくともしなかった。それも当たり前だった。僕とこの人間の体の大きさが違いすぎるのだ。
バタバタと抵抗しても、まったく効いている気がしなかった。
 だんだんと意識が霞んできた時、ドゴンッとすごい轟音がしたと同時に急に枕がふっと軽くなった。
 僕は一気に空気を吸い込み、むせ込む。

「ごほっ、えほっ、えほっ…うぅ……」

「フィニーっっ…!!大丈夫っ?ごめんね、すぐ来れなくて…ごめんね…、ごめん…っ」

 よく分からないままにアルの腕のなかに閉じ込められる。僕の背中をさすりながら、大丈夫だよ、ごめんねと繰り返す。
 何が何だか理解が追いつかないまま、体の震えだけが止まらない。

「…っ?ぁ、アル…アルっ?僕、ぼく…」

アルの温かさに、じわじわと殺されかけたという実感が湧いてきて、体温が下がっていくのを感じた。

「大丈夫、大丈夫だよ…俺が来たからね?ほら俺を見て?」

 僕の頬を優しく包んで、すっと顔を上げさせられる。なぜかアルの手も冷たくて、僕と同じで震えていた。
けれど、今目の前にアルがいる。それだけで一気に緊張がほどけ、もう大丈夫だという安心感に包まれる。すると、一気にさっきまでの恐怖を思い出して、涙がこぼれだす。

「うぅっ…アル……アル……ぼく、こわかっだぁぁっっ」

「うん、うん怖かったね、もう大丈夫。俺がいるよ、大丈夫」

僕はアルの胸に思いきりしがみつき、ぐしぐしと顔を擦り付けた。
アルは、そんな僕の背中をトントンと叩いてあやしてくれる。
それで余計に涙が出てきてしまい、しばらくアルの胸のなかで泣き続けた。


 *


「アル…助けてくれてありがとう」

 ずっと僕をあやしてくれたアルに、助けてくれた感謝を告げる。アルが来てくれなければ、今頃どうなっていたのか。考えるだけでまた体が震え出す。

「フィニー、大丈夫、もうあいつはいないよ。ハワードに片付けてもらったからね」

僕の頭を撫でながら、僕を安心させるように話す。片付けたとは一体どういうことなのか。
そういえば、さっきすごい音がしていたな、と顔を上げる。すると、部屋の壁が崩れ落ち横の部屋が見えるようになっていた。
そりゃあんな轟音もするはずだ、と変な所に納得してしまう。

「…フィニー、ごめんね…俺のせいだ」

「何言ってるの!?悪いのはあの人間だよ?アルは僕を助けてくれたのに」

 アルの言葉に咄嗟に否定を入れる。なぜアルが謝るのか。アルは僕を助けてくれたのだ。恨むどころか、感謝の気持ちしかない。

「…俺の屋敷の人間が起こした事だからね…俺の責任でもあるよ。本当にごめん」

 そういって、アルは僕に頭を下げた。手に血が滲むほど握りしめているその姿に心がずきっと痛んだ。それと同時に、アルは悪くないと言っているのに、自分を責める様子にだんだんと怒りが湧いてくる。

「………っアルのばか!!アルが来てくれたのすごく嬉しかったの!!悪いのはさっきの人間だけなの!!!」

 僕はムキになっちゃって、思い切りアルの胸をたたいた。渾身の力で叩いているのに、まったく効いていなさそうなのが腹立たしい。
怒りと、恐怖と、安心と、いろいろな感情がごちゃごちゃになり、自分の感情がコントロールできず、また涙がボロボロと溢れ出してきてしまう。

「~~~っ!アルは悪くないのぉお」

「……っ!泣かないで…フィニーごめんね、俺は悪くないね、だから泣かないで…?」

僕がまた泣き出したせいで、アルは慌てている。自分が泣かせてしまったと思っているんだろう。僕が勝手に泣いてるだけなのに。

僕に触れていいのか分からず、手を彷徨わせている様子は少し面白い。
でも、やっぱり抱きしめてほしくて、僕はぎゅっと自分からアルに抱きついた。
すると、アルは安心したかのように胸をなでおろし、優しく抱きしめ返してくれた。

泣きつかれたのと、アルの腕のなかにいる安心感で、一気に疲労感と眠気が襲ってきた。
僕はそれに耐えられず、アルの胸に寄りかかったまま、すっと目を閉じた。

「お願い……なんでもするから…どうか俺から離れて行かないで…」

意識がなくなる直前、力強く抱きしめられたと同時に、そんなアルの小さな呟きが聞こえた気がした。



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