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コインランドリー
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「よいしょっと……」
近所のコインランドリーで持ってきた袋の中から、服を取り出し、ドラム式洗濯機の中に次々と入れていく。洗濯物を外に持ち出すのは少々手間だが、45分、300円で洗濯と乾燥までやってくれる。たまに使う分には、助かっている。
「お金を入れて……っと、よし」
100円玉を3枚入れ、洗濯機の蓋を閉める。すると、ゴォッという音と共に洗濯機が動き始めた。中を覗くと、グルグルと水と共に洗濯物が回転しているのが見える。
「よしっと……終わるまでどうしようかな……」
そう言いながら、コインランドリーから出てすぐ、羽織っているパーカーの右ポケットに入っているスマホから音が鳴る。軽快なポップ曲のサビの部分。
「面倒だな……」
そうボヤきながら、スマホを取り出して着信に出る。
「はい」
『おう、俺だ。元気だったか?』
まるで、友達に挨拶をするような言葉。この男は、こちらが電話に出た時には、こういう切り出し方をする。こちらが、元気にしてようが、してなかろうが、関係ないくせに。
「そういうのはいいです。用件は?」
『相変わらずだな。まぁいい』
微かに嘲笑する声が聞こえた。しかしその後、男の声のトーンが下がる。この人が電話をかけてきたということは、決まった内容だ。
『次の仕事だ』
やっぱり。この男が電話をかけてくる時は、確定で仕事の連絡。それ以外でかかってくることは、一切として無い。
「次は、どんな?」
ため息をつきながら問う。面倒な仕事じゃなければいいが。
『とある大手不動産会社の重役。一時は、次期社長候補にまで上り詰めた人物だ』
「へぇ……ご要望者様は?」
『その会社の元社員。なんでも、勤務していた時代、その重役に「いろいろな事をされた」らしい』
「ふぅん……」
いろいろな事、ね。その言葉を聞いただけで、今回のご要望者がどんな環境にいたのか、何となく分かる。まぁ、そんな事、どうでもいいか。こちらには、関係の無い話だ。
「それで?どんなご要望で?」
『特に無し。自由に「やってもらって」構わないそうだ』
「ふぅん……自由に、ね」
思わず笑みが零れる。無駄な要望が無い。こんなにやりやすい仕事は無い。近年、うちみたいな業態でも、「お客様ファースト」な精神でなければ、廃れていく一方だ。あぁしろ、こぉしろ。無理難題を押し付けられても、文句ひとつ、言えない。まったく、困った世の中だ。だから、今回のように「特別な要望は無し」というオーダーは、もの凄く、やりやすい。
「なら、自由にやらせてもらいますね」
なるべく、感情を押し殺して言う。すると、電話の向こうから、心配するような声が聞こえてきた。
『あまり、やりすぎるなよ?』
「心配してくれるんですか?優しいところもあるんですね」
笑いながら冗談を言う。すると、男が皮肉めいたように言ってくる。
『どちらかと言うと、「対象」の方が心配だな』
「えっ?なんで?」
『お前のこういうテンションの時の声って、ろくな事がねぇんだよ』
心外な一言だ。こっちだって、至って真面目に仕事をこなしてるというのに。
「ちゃんと仕事しますよ。前回だって、ちゃんとできてたでしょう?……『事故に見せかけたヤツ』」
『……はぁ』
何故かため息をつかれた。大変だったのに。
とある上場企業の御曹司が対象だった仕事。その元彼女からのご依頼で、「事故に見せかけて始末して欲しい」というもの。大変だった。始末するのも大変だったが、その後の「事故に見せかけて」というのが、頭を悩ませた。普通の交通事故では、そうはならない殺し方をしてしまったのだ。
「あの後、何回か殴打をして、それっぽくしたんですよね。いやぁ、大変だった。おかげで、今コインランドリーで洗濯中ですよ。落ちるかなぁ」
『……それはご苦労さまなことで』
完全に呆れたような口調。普段、着ている服が汚れてしまって、落ちないかもしれないというのに、なんと他人行儀な。
『とにかく、詳しいことは、また後日連絡する。それじゃあな』
「はい、お疲れ様でした~」
そう言い、電話を切る。そのまま、スマホの時計を見ると、いつの間にか時間が経っていた。中に戻り、洗濯機の中身を確認する。
「おっ、終わってる」
既に洗濯は終わっていたらしく、洗濯機は動きを止めていた。
「さてと……落ちたかなぁ?」
洗濯物を引っ張り出し、まだ温かいシャツを目の前のテーブルに広げて見てみる。
「……あぁ、やっぱり落ちなかったかぁ」
白いTシャツに、まるで花びらのように散りばめられた茶色い痕。前回の仕事で汚してしまったのだ。時間が経っていた為か、やはり落ちなかった。
「気に入ってたんだけどなぁ……買い直さなきゃ」
そう呟きながら、服を畳み、袋に入れていく。他にも確認してみたが、お気に入りのスボンやジャケットの汚れも落ちなかった。
「あぁ、今月、何着目だろ……。黒にすれば、汚れても目立たないかなぁ?」
そうボヤきながら、洗濯が終わった服を袋に入れ、コインランドリーを出ていった。
[END]
近所のコインランドリーで持ってきた袋の中から、服を取り出し、ドラム式洗濯機の中に次々と入れていく。洗濯物を外に持ち出すのは少々手間だが、45分、300円で洗濯と乾燥までやってくれる。たまに使う分には、助かっている。
「お金を入れて……っと、よし」
100円玉を3枚入れ、洗濯機の蓋を閉める。すると、ゴォッという音と共に洗濯機が動き始めた。中を覗くと、グルグルと水と共に洗濯物が回転しているのが見える。
「よしっと……終わるまでどうしようかな……」
そう言いながら、コインランドリーから出てすぐ、羽織っているパーカーの右ポケットに入っているスマホから音が鳴る。軽快なポップ曲のサビの部分。
「面倒だな……」
そうボヤきながら、スマホを取り出して着信に出る。
「はい」
『おう、俺だ。元気だったか?』
まるで、友達に挨拶をするような言葉。この男は、こちらが電話に出た時には、こういう切り出し方をする。こちらが、元気にしてようが、してなかろうが、関係ないくせに。
「そういうのはいいです。用件は?」
『相変わらずだな。まぁいい』
微かに嘲笑する声が聞こえた。しかしその後、男の声のトーンが下がる。この人が電話をかけてきたということは、決まった内容だ。
『次の仕事だ』
やっぱり。この男が電話をかけてくる時は、確定で仕事の連絡。それ以外でかかってくることは、一切として無い。
「次は、どんな?」
ため息をつきながら問う。面倒な仕事じゃなければいいが。
『とある大手不動産会社の重役。一時は、次期社長候補にまで上り詰めた人物だ』
「へぇ……ご要望者様は?」
『その会社の元社員。なんでも、勤務していた時代、その重役に「いろいろな事をされた」らしい』
「ふぅん……」
いろいろな事、ね。その言葉を聞いただけで、今回のご要望者がどんな環境にいたのか、何となく分かる。まぁ、そんな事、どうでもいいか。こちらには、関係の無い話だ。
「それで?どんなご要望で?」
『特に無し。自由に「やってもらって」構わないそうだ』
「ふぅん……自由に、ね」
思わず笑みが零れる。無駄な要望が無い。こんなにやりやすい仕事は無い。近年、うちみたいな業態でも、「お客様ファースト」な精神でなければ、廃れていく一方だ。あぁしろ、こぉしろ。無理難題を押し付けられても、文句ひとつ、言えない。まったく、困った世の中だ。だから、今回のように「特別な要望は無し」というオーダーは、もの凄く、やりやすい。
「なら、自由にやらせてもらいますね」
なるべく、感情を押し殺して言う。すると、電話の向こうから、心配するような声が聞こえてきた。
『あまり、やりすぎるなよ?』
「心配してくれるんですか?優しいところもあるんですね」
笑いながら冗談を言う。すると、男が皮肉めいたように言ってくる。
『どちらかと言うと、「対象」の方が心配だな』
「えっ?なんで?」
『お前のこういうテンションの時の声って、ろくな事がねぇんだよ』
心外な一言だ。こっちだって、至って真面目に仕事をこなしてるというのに。
「ちゃんと仕事しますよ。前回だって、ちゃんとできてたでしょう?……『事故に見せかけたヤツ』」
『……はぁ』
何故かため息をつかれた。大変だったのに。
とある上場企業の御曹司が対象だった仕事。その元彼女からのご依頼で、「事故に見せかけて始末して欲しい」というもの。大変だった。始末するのも大変だったが、その後の「事故に見せかけて」というのが、頭を悩ませた。普通の交通事故では、そうはならない殺し方をしてしまったのだ。
「あの後、何回か殴打をして、それっぽくしたんですよね。いやぁ、大変だった。おかげで、今コインランドリーで洗濯中ですよ。落ちるかなぁ」
『……それはご苦労さまなことで』
完全に呆れたような口調。普段、着ている服が汚れてしまって、落ちないかもしれないというのに、なんと他人行儀な。
『とにかく、詳しいことは、また後日連絡する。それじゃあな』
「はい、お疲れ様でした~」
そう言い、電話を切る。そのまま、スマホの時計を見ると、いつの間にか時間が経っていた。中に戻り、洗濯機の中身を確認する。
「おっ、終わってる」
既に洗濯は終わっていたらしく、洗濯機は動きを止めていた。
「さてと……落ちたかなぁ?」
洗濯物を引っ張り出し、まだ温かいシャツを目の前のテーブルに広げて見てみる。
「……あぁ、やっぱり落ちなかったかぁ」
白いTシャツに、まるで花びらのように散りばめられた茶色い痕。前回の仕事で汚してしまったのだ。時間が経っていた為か、やはり落ちなかった。
「気に入ってたんだけどなぁ……買い直さなきゃ」
そう呟きながら、服を畳み、袋に入れていく。他にも確認してみたが、お気に入りのスボンやジャケットの汚れも落ちなかった。
「あぁ、今月、何着目だろ……。黒にすれば、汚れても目立たないかなぁ?」
そうボヤきながら、洗濯が終わった服を袋に入れ、コインランドリーを出ていった。
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