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八花月

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 初出勤日。ある真夏日のことである。

 昭雄はしょっぱなから妙な訓戒を受けることになった。

「あー、宮内、昭雄さん? 新しい人ですよね?」
「あ、え、ええ、まあ」

 宿直室の鍵を受け取り、部屋に行こうとした時、声をかけられる。

「良かった。ここでお話出来て。地階に行くのはどうもね……」

 目の前の白衣の人物は、いかにも好々爺といった風情だが姿勢も態度もしゃっきりしていた。

『院長先生?』

 昭雄の中で、やっと記憶が繋がる。来る前に一応、なんとなくではあるが顔を確認していたのだ。

「あのう、宿直のね、していただく部屋なんですけど、地下階にありますでしょ? 何故か」

「はあ」 

「あの部屋ってね、その、まあすぐわかる事なんですけど、いわゆる霊安室の隣にあるんですよね」 

「知ってますよ」
 
 面倒くさいな、という心持ちが顔に出てしまったのか、相手は苦笑いした。

 昭雄は病院の宿直に、本日から務めることになった。夜間の勤務なので出勤も夕方からである。

 院長先生は、どうも昭雄を待ち受けていたようで少し不可解に感じた。

「で、ですね、あの部屋って少し変で……知ってます? ここの霊安室って外から鍵がかかるようになってるんですよ」
「ええ」

 昨日、ちょっとした研修のようなものを受けた時にそれも確認している。外から鍵が掛かっていて、勿論外から開けられる。古風な南京錠が金具に差し掛かっていて、その鍵の在り処も昭雄は当然分かっていた。

「それでね、ここからが本題なんですけど、部屋にいるとですね、時々音が聞こえて……くることがあるかもしれないんですね。隣から」

「隣?」

「あ、霊安室のことですね」

 院長先生は気を使うように軽く笑みをこぼしたが、昭雄はバカにされたように感じ胃がムカついた。

「あのう、それでね、霊安室から何か音が聞こえてきて、ですね。気になるとは思うんです。思うんですけどね、そこをこう、我慢してもらって。開けないで欲しいんです」
「は?」

 そんなことが通るわけがないではないか。

 昭雄も宿直の仕事は一応把握している。夜間の患者・救急車への対応(といっても取次だが)、電話対応、軽い事務仕事、それに巡回である。

 巡回も伊達ではない。鍵が掛かった部屋の内部から物音が聞こえていて、放っておいていいわけはない。職務放棄ではないか。

 その旨伝えると、

「はい。そうです。それはもう! 仰る通りなんです。変な話、わたくし安心しております。宮内さんがちゃんとした方で」

 大袈裟に掌で何かを鎮めるような身振りをする。
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