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1 この出会いの偶然と必然
1-002 〝紀に曰く〟
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「これは説明が必要でしょうな」
髭を弄りながら、老いた見た目の小人が一歩前に出る。
「紀に曰く雄略六年の条、天皇は皇后と妃に桑の葉を摘み取らせ、カイコ、蚕を飼うことを始めようと思召したのです。つまり養蚕ですな」
「はあ」
唐突な話だったが、為綱は素直に頷いた。
「その時、蜾蠃という者に命じ、国中の蚕を集めさせようとしたのですが、この者は誤って嬰児を集めてしまいました。天皇はお笑いになり、『お前が自分で養いなさい』と仰せになられ、蜾蠃は少子部連の姓を賜ったのです」
「マヌケな野郎だな」
為綱が言うと、
「お前の先祖だよ」
とすかさず、先頭の小人が口を出す。
「この話が何を意味しておるのかと言いますと、〝こ〟というのは、実は我々をさしておるのです。人間の言葉でいうところの小人ですな」
「……なるほど」
顔つきは怪訝なままだが、為綱は真面目に聞いていた。
「少子部は代々、我々と連絡する特殊な力を持っておりまして、人間と我々との折衝役をやっておりましたが、いつの間にやらその関係も廃れてしまいました。それでわずかながらでも、その血を受け継いでおる人間を探しておりまして、ついにあなた様に行き当たったわけでございます」
「お前ら、人間と交流したいの?」
為綱の言を受けて、小人達は顔を見合わせた。
「はっきり言うてしまって良いものかどうか……」
「いいんじゃないの? こいつ、なんか物分かりいいし……」
ボソボソ話し合っている声が聞こえてくる。
こいつら、俺に聞こえてないと思ってるのかな? と為綱が考えていると、
「いや、俺らは今更人間とどうこうしたいとは思ってないの。仲間を探すのに手助けして欲しいんだ」
先頭の小人が話し始めた。
「我ら、昔は同族が一緒に暮らしておったんですが、現在バラバラになっておりましてな。今仲間を探しておる最中なのです」
「いいよ」
「は?」
あんまり自然に言ったので、なかなか小人達に為綱の真意が伝わらないようだ。
「仲間探すの手伝って欲しいんだろ。いいよ、やっても」
「え? ちょっと……」
「ただし、俺仕事あるから休みの日だけな。用事があったり疲れてる時も勘弁。基本的に俺の気が向いた時だけ、って感じになるけど、それでいいなら」
ごくりと、小人達は唾を飲み込む。
「こいつ大丈夫か?」
「今の話だけで承諾するヒト、普通いないと思う」
「折角色々人間の事を勉強したのに、拍子抜けですな」
ごそごそ話していたが、しばらくして先頭の小人が為綱の方に向き直った。
「……タダでやってくれんの?」
髭を弄りながら、老いた見た目の小人が一歩前に出る。
「紀に曰く雄略六年の条、天皇は皇后と妃に桑の葉を摘み取らせ、カイコ、蚕を飼うことを始めようと思召したのです。つまり養蚕ですな」
「はあ」
唐突な話だったが、為綱は素直に頷いた。
「その時、蜾蠃という者に命じ、国中の蚕を集めさせようとしたのですが、この者は誤って嬰児を集めてしまいました。天皇はお笑いになり、『お前が自分で養いなさい』と仰せになられ、蜾蠃は少子部連の姓を賜ったのです」
「マヌケな野郎だな」
為綱が言うと、
「お前の先祖だよ」
とすかさず、先頭の小人が口を出す。
「この話が何を意味しておるのかと言いますと、〝こ〟というのは、実は我々をさしておるのです。人間の言葉でいうところの小人ですな」
「……なるほど」
顔つきは怪訝なままだが、為綱は真面目に聞いていた。
「少子部は代々、我々と連絡する特殊な力を持っておりまして、人間と我々との折衝役をやっておりましたが、いつの間にやらその関係も廃れてしまいました。それでわずかながらでも、その血を受け継いでおる人間を探しておりまして、ついにあなた様に行き当たったわけでございます」
「お前ら、人間と交流したいの?」
為綱の言を受けて、小人達は顔を見合わせた。
「はっきり言うてしまって良いものかどうか……」
「いいんじゃないの? こいつ、なんか物分かりいいし……」
ボソボソ話し合っている声が聞こえてくる。
こいつら、俺に聞こえてないと思ってるのかな? と為綱が考えていると、
「いや、俺らは今更人間とどうこうしたいとは思ってないの。仲間を探すのに手助けして欲しいんだ」
先頭の小人が話し始めた。
「我ら、昔は同族が一緒に暮らしておったんですが、現在バラバラになっておりましてな。今仲間を探しておる最中なのです」
「いいよ」
「は?」
あんまり自然に言ったので、なかなか小人達に為綱の真意が伝わらないようだ。
「仲間探すの手伝って欲しいんだろ。いいよ、やっても」
「え? ちょっと……」
「ただし、俺仕事あるから休みの日だけな。用事があったり疲れてる時も勘弁。基本的に俺の気が向いた時だけ、って感じになるけど、それでいいなら」
ごくりと、小人達は唾を飲み込む。
「こいつ大丈夫か?」
「今の話だけで承諾するヒト、普通いないと思う」
「折角色々人間の事を勉強したのに、拍子抜けですな」
ごそごそ話していたが、しばらくして先頭の小人が為綱の方に向き直った。
「……タダでやってくれんの?」
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