上 下
3 / 124
1 この出会いの偶然と必然

1-002 〝紀に曰く〟

しおりを挟む
「これは説明が必要でしょうな」

髭を弄りながら、老いた見た目の小人が一歩前に出る。

「紀に曰く雄略六年の条、天皇は皇后と妃に桑の葉を摘み取らせ、カイコ、を飼うことを始めようと思召したのです。つまり養蚕ですな」

「はあ」

  唐突な話だったが、為綱は素直に頷いた。

「その時、蜾蠃すがるという者に命じ、国中のを集めさせようとしたのですが、この者は誤って嬰児を集めてしまいました。天皇はお笑いになり、『お前が自分で養いなさい』と仰せになられ、蜾蠃は少子部ちいさこべむらじかばねを賜ったのです」

「マヌケな野郎だな」
為綱が言うと、
「お前の先祖だよ」
とすかさず、先頭の小人が口を出す。

「この話が何を意味しておるのかと言いますと、〝こ〟というのは、実は我々をさしておるのです。人間の言葉でいうところの小人こびとですな」

「……なるほど」

  顔つきは怪訝なままだが、為綱は真面目に聞いていた。

「少子部は代々、我々と連絡する特殊な力を持っておりまして、人間と我々との折衝役をやっておりましたが、いつの間にやらその関係も廃れてしまいました。それでわずかながらでも、その血を受け継いでおる人間を探しておりまして、ついにあなた様に行き当たったわけでございます」

「お前ら、人間と交流したいの?」

  為綱の言を受けて、小人達は顔を見合わせた。

「はっきり言うてしまって良いものかどうか……」
「いいんじゃないの?  こいつ、なんか物分かりいいし……」

  ボソボソ話し合っている声が聞こえてくる。

  こいつら、俺に聞こえてないと思ってるのかな?  と為綱が考えていると、
「いや、俺らは今更人間とどうこうしたいとは思ってないの。仲間を探すのに手助けして欲しいんだ」
  先頭の小人が話し始めた。

「我ら、昔は同族が一緒に暮らしておったんですが、現在バラバラになっておりましてな。今仲間を探しておる最中なのです」

「いいよ」

「は?」

  あんまり自然に言ったので、なかなか小人達に為綱の真意が伝わらないようだ。

「仲間探すの手伝って欲しいんだろ。いいよ、やっても」

「え?  ちょっと……」

「ただし、俺仕事あるから休みの日だけな。用事があったり疲れてる時も勘弁。基本的に俺の気が向いた時だけ、って感じになるけど、それでいいなら」

  ごくりと、小人達は唾を飲み込む。

「こいつ大丈夫か?」
「今の話だけで承諾するヒト、普通いないと思う」
「折角色々人間の事を勉強したのに、拍子抜けですな」

  ごそごそ話していたが、しばらくして先頭の小人が為綱の方に向き直った。

「……タダでやってくれんの?」
しおりを挟む

処理中です...