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4 たがいのなかに

4-008

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「……そんな慌てないで。何もしないから。ね?  コワクナイヨー」 
 
先頭の小人が手を振っている。彼は紫微という名前であるらしい。守は結局、須軽になだめすかされ部屋に戻っていた。

「何の原因もなく、私達の方から人間に危害を加えたことはありません。安心してください」

すぐ後ろの、老いた小人も安心させるように両手を広げて言う。彼は、輔星。もう一人の小人は輿鬼という名だと説明された。

「まあ、本当に基本的には害はない奴らですから、安心してください」

約十分後、部屋に戻ってきた守は須軽その他に説明を受けていた。話を聞いて、小人達については一応納得していたのだが、すんなりと全てを受け入れることは出来ない。

「で、これは今回の事になんの関係があるんですか?」

守は、ついさっきも言ったような台詞をもう一度繰り返した。

「直接は関係ないんですが、知っておいてもらったほうが話が通りやすくなるんです。その……こういう存在のことを」
須軽は、言葉のみで目の前の小人達を示す。

「すると……今回の事件は、こういう……存在が関わってるんですか?」

本人達を前にして、“妖怪”とか“お化け”というのは憚られる。守は迷った末、須軽と同じ言い方を選んだ。

「わしらとはかなり違いますぞ」
「うん。そうそう。俺らと違って、この家に居たのは、もっとヤバい感じのヤツ」

老小人と紫微が揃って口を挟む。

「ヤバい?」

「うんそう。あんたらの言い方でいうと神様的なの」

紫微が屈託なく返事をした。

「その、それってまだこの家に?」

「いえ……それは大丈夫っぽいんですが、許可をいただければ確かめてみます」

少し考えながら、須軽が返事をする。そんなわけのわからないものが、この家に居たのか。

守は、我知らず身震いしてしまう。是非お願いします、と守が言うと、じゃあ、と軽く応えて須軽は立ちあがり、そのまま階段に向かった。

「どこに行くんです?  下ですか?」

ええ。一緒に来ますか?  と問う須軽に、守はブンブンと首を縦に振って肯定する。何が起こっているのか知りたい気もするし、何より部屋に一人で残るのが嫌だ。

小人達は、自分達のみでさっさと目的地に行ってしまったらしく、もう姿が見えなかった。恐ろしいほどのスピードである。

まぶたに塗った薬のおかげで、今は守も見ることが出来るが、素早く動かれたらはっきり視認するのは難しい。

やがて二人は一階まで降りた。

「ええーっと、車庫と直結してる部屋があるんですよね?」

いきなり振り返って、須軽が訊ねる。守が場所を教えると、礼を言って須軽はさっさと歩き始めた。いかにも、勝手知ったる、という感じである。

軽い違和感を覚えながら守がついていくと、須軽は教えられた部屋の戸をパッと開けて中へ入った。

どうやって入ったのか、中には既に小人達が待機している。 
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