YONAOSHI シリーズ for CONSUMPTION TAX

田中葵

文字の大きさ
58 / 243
スリーピース 第2章

二重循環:第9波、第27波 ― 政策実装とフィードバック/怒り・悲しみ・希望をどう翻訳し、政策に結びつけるか

しおりを挟む
1. 文部科学省 ― 教室から国会へ

 藤川多津が参加した国際フォーラムの記録は、文科省内の「教育未来戦略会議」に提出された。
 議題は「子どもの声をどう政策に反映させるか」。

 福原久子文科相はファイルを開き、静かに言った。
「“未来は描いてない絵”……これ、ただの比喩じゃない。子どもの言葉だからこそ重い」

 彼女は即座に方針を出す。
 ――小中学校に「未来ノート」を配布し、子どもたちが自由に描き書きできる場を作る。
 ――それを文科省が回収し、匿名化した上で定期的に国会に報告する。

 藤川は息をのんだ。自分が教室で拾った声が、政策に変わろうとしていた。



2. 厚生労働省 ― 信頼で支える制度

 一方、厚労省の会議室では長瀬裕厚労相が職員に問いかけていた。

「数字だけじゃ制度は持たない。支える信頼をどう制度に組み込むかだ」

 若手ホープの甘楽理が手を挙げた。
「高齢者や医療従事者が直接“声”を政策に送れるオンライン窓口を設けましょう。AIで一次分析し、毎月公開する。透明性こそが信頼になります」

 長瀬は笑みを浮かべる。
「いい。信頼を可視化する仕組みか。制度の血流が通い始めるな」



3. 財務省 ― 数字の裏にある生活

 財務相・元山武郎の執務室。
 彼は山積みの資料を前に、秘書官の東堂忍に言った。

「俺は“現実は数字”と叫んできた。だが数字は冷たいと言われ続けた」

 東堂はためらいがちに答える。
「では、“数字の裏にある生活”を必ず添えて発表してはどうでしょう。数字を示すとき、必ず一人の生活例を併記する。そうすれば冷たさは和らぎます」

 元山はしばらく沈黙した後、机を叩いた。
「よし、予算委員会では必ず“数字+人”で語る」

 数字と生活が結びつく瞬間だった。



4. デジタル庁 ― 翻訳を形に

 四ツ角エリデジタル相は、広報担当の鈴木亜湖と共に新しい構想を練っていた。

「国民の声を“翻訳”する仕組みをアプリにする。現実・芯・未来の三択で投稿できる簡単なものにする」

 亜湖が驚いて言う。
「それ、SNS感覚で使えますよ。若者も高齢者も参加できる」

「そうよ。翻訳のサイクルを国民みんなが体験できる仕組み。ズレがそのまま国の力になる」



5. 総理官邸 ― フィードバックの確認

 小山内総理は閣僚会議で各省の報告を受けた。


 文科省:未来ノートの導入。

 厚労省:信頼の可視化窓口。

 財務省:数字+人の提示。

 デジタル庁:国民翻訳アプリ。


 総理は頷きながら言った。
「着々と進めてますね。ありがとうございます。」

 閣僚たちは静かに息をのんだ。
ズレをつなぎ、呼吸を国の力に変える循環が、いよいよ政策として形になろうとしていた。



6. フィードバックの現場

 数か月後。

 教室で未来ノートを描いた子どもが「総理に届いたよ」と笑顔を見せる。

 老人ホームでオンライン窓口に声を送った高齢者が「返事が来た」と涙ぐむ。

 予算委員会で「数字+人」で語る元山に、記者が「わかりやすい」と拍手する。

 デジタル庁アプリがダウンロード数100万を超え、国民の間で翻訳文化が芽吹く。


 政策は単なる法案や制度に留まらず、国民の呼吸そのものに変わっていった。



第27波 ― 感情と政治の翻訳

1. デモの現場

 雨の中、若者たちが声を張り上げる。
「聞いてくれ! 未来を返せ!」

 翻訳AIが提示する。
【怒り:自分の声が届かない絶望
 悲しみ:未来が奪われる恐怖
 希望:共に声を上げれば変えられるという信頼】

 その出力がSNSに流れると、批判と共感が一気に拡散した。


---

2. 避難所での対話

 地震の被災地。
 高齢の女性がぽつりとこぼす。
「もう生きていたくないよ」

 翻訳AIは変換した。
【悲しみ:これまでの努力が報われない喪失感
 希望:それでも生きたいと願う自分の小さな声】

 ボランティアの学生が、震えながら手を握った。
「……一緒に、生きましょう」


---

3. 国会での応酬

 野党議員が声を荒げる。
「あなた方は国民の怒りを理解していない!」

 与党議員が反論する。
「その怒りの形は、私たちなりに受け止めています!」

 翻訳AIが会議室のスクリーンに文字を映した。
【怒り=政策への不信、悲しみ=裏切られた思い、希望=修正すれば信じたい気持ち】

 場が静まり返り、議論は少しずつ冷静さを取り戻した。


---

4. 福原久子 文科相の授業

 高校の公民授業で、彼女は翻訳AIを使いながら語る。
「政治の言葉と市民の感情は、しばしばかみ合いません。
 AIに翻訳させることで、私たちは“怒りの奥の悲しみ”を読み取れるようになるんです」

 生徒が尋ねる。
「じゃあ、怒るのは悪いことじゃないんですか?」
「いいえ。怒りは“翻訳待ちの希望”なんですよ」


---

5. 長瀬裕 厚労相の現場視察

 医療現場で看護師が訴える。
「もう限界なんです!」

 AI翻訳:
【怒り=過労と無力感
 悲しみ=支えたい人を十分に支えられないこと
 希望=改善されれば、再び誇りを取り戻せる】

 長瀬は深くうなずいた。
「この“希望”を政策に翻訳するのが、僕たちの仕事だ」


---

6. 四ツ角エリ デジタル相の取り組み

 SNSに溢れる罵詈雑言をAIで解析。
「このヘイト発言は“悲しみ”と“孤独”の翻訳でもある」

 彼女は会見で言った。
「ネットに溢れる言葉の奥にある感情を翻訳することが、分断を和らげる第一歩です」


---

7. 市民集会

「怒っている人の声を、怖がるんじゃなく翻訳して聞きたい」
「泣いている人の声を、ただの弱さと切り捨てたくない」
「希望の声を、選挙と政策につなげたい」

 AI翻訳が支援する集会は、従来の演説会とは異なり、感情の翻訳を媒介にした政策対話の場になっていった。


---

8. 小山内総理の記者会見

「政治はしばしば“怒りの読み換え”に追われてきました。
ですが、私たちが聞き取るべきは“悲しみ”と“希望”の二つです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...