お子さんから結ばれた約束、守りましたか?

田中葵

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2.とちゅう

ダンマリ

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子どもは、その日、門の前で待たなかった。

迎えに来る、と言われた時間を少し過ぎたあと、
長靴の先で水たまりを踏み、
それから校舎の影に入った。

待つ、という行為をやめるとき、
子どもは自分が「諦めた」とは思わない。
ただ、待たない方が楽だと学ぶだけだ。

迎えに来なかった理由は、考えなかった。
理由があることは、最初から分かっていた。
大人には、いつも理由がある。

帰り道、空は明るかった。
雨はもう、ほとんど止んでいた。

玄関に着くと、もう一人の親がいた。
ソファに座り、携帯を見ていた。
仕事の途中なのか、
それとも、そういう顔をしていただけなのか、
子どもには分からない。

「迎えは?」

そう聞かれて、子どもは首を横に振った。

「ああ」

それだけで、会話は終わった。
迎えに来なかったことより、
それを問題にしないことの方が、
この家では普通だった。

長靴を脱ぐ。
濡れた床に、足跡が残る。

「そこ、置いといて」

もう一人の親は、画面から目を離さずに言った。
片付けるのは、あとでいい。
今は、これ以上、何も増やさないでほしい。

子どもは、うなずいた。
返事は、喉の奥で消えた。

迎えに行く、という言葉が、
約束だったかどうか。
それを決めるのは、大人の役目だと思っていた。

だから子どもは、何も言わない。
約束を破られた、とは言わない。
迎えに来なかったね、とも言わない。

言わないことが、
この家で一番、波風を立てない選択だったから。

それ以来、子どもは、
「今度ね」という言葉を、
そのまま受け取らなくなった。

期待しなければ、裏切られない。
裏切られなければ、
何も感じずに済む。

沈黙は、守り方を覚えた。
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