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留守番
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「おれ、適当にやってますから、大丈夫ですよ?」
「ダメ。いっくんの適当は、本当に適当だから、俺が落ち着かない」
ぐぬう。
この時間と決まっているわけではないけど、シュンが家に帰る時間にあわせて終業。
関家に帰ってきたら、テルさんが待ち構えていた。
シュンの宿題と明日の準備が終わったら、寺の方へ一緒に行くのだそうだ。
おれが外すからこっちに来てもらえば? と言ったのだけど、それなら尚更会わないとシュンが強硬に嫌がったし、テルさんも微妙な顔をした。
そして今、シュン待ちの間にテルさんはおれの晩飯をテーブルに並べている。
自分とシュンは寺で食べるって言ってたのに!
そんな二度手間は申し訳ないって断ったけど、返ってきたのは『俺が落ち着かない』という、なんとも言えない返答だった。
テルさん、ホントに世話焼きだよね!
習い性なのかもしれないけど、オカン入ってるよね!
「ちゃんとできる大人なのは、知ってるから。俺が落ち着かないだけだからさ」
そう言って、あとは白飯と味噌汁をよそうだけで食べられるまでに整えられた食卓。
国民的アニメの、家族と別に食べるお父さんの晩御飯、みたい。
何だってこんな丁寧に、しかも昭和な雰囲気で食卓整えてんですかって、ツッコミたくなる。
テルさんは不思議。
そばにいると居心地がいいのだ。
すごく安心する。
守られてるって思うんだけど、なんていうか、惚れる要素は少ない。
いいガタイで手まめで、いい男なんだけどなあ。
「テルちゃん、できた」
「おう。じゃ、行こうか」
シュンがテルさんを呼びにくる。
行きたくない行きたくない行きたくないって、全身からオーラが出てるよ、シュン。
そういうテルさんもあまり進んで行きたくはなさそうに見えて、家庭事情は色々だからなあって、思う。
「オレ、いっくんと一緒に、テルちゃんの手料理食べる方がいい」
「そういうなって、あの人たちにたまには孝行してやらないとな」
「……肉、食っていい?」
「外食になるけど、いいんじゃねえの?」
二人してぶつくさ言いながら玄関に向かうのについていく。
この家では誰かが出かける時、見送りするのがデフォルトなんだ。
だからそれに倣う。
「じゃ、ちょっと行ってくるから、あと頼むね」
「すぐ帰ってくるからね」
「はいはい、いってらっしゃい」
「いってきまーす」
「いってきます」
おれは約束した通り、ちゃんと留守番してますよー。
見送って玄関閉めて鍵かける、なんて、あまりしたことのない行動で、ちょっと新鮮でくすぐったくて嬉しい。
期間限定のはずのこの環境は、優しくて嬉しいことばっかりで、おれはちょっと困惑している。
関家の話し合いは、なんだか長引いているようだ。
晩飯食って片付けて、風呂に入って寝る用意を済ませても、二人は帰ってこない。
「どうしたものかな……」
いつもならそろそろ、シュンが寝る時間なのにな。
変な話、長丁場になるのを見越して二人で出向いたのかもしれない。
おれはいつもテルさんがしている手順を思い出しながら、家の中を片付ける。
一人で留守番していても不安にならないのは、ここが関家で、ちゃんと二人は帰ってくるっていう、妙な安心感があるからだ。
寮にいたころや、一人暮らしの自分の家で誰かを待っているときには、このままずっと一人かもしれないなって、うっすら寒く感じたりしたもんだ。
まして誰かの家で留守番しているときには、もっと、置いていかれてたらどうしよう、ってありもしない不安に襲われた。
そういう時、どうしていたっけ。
まんじりともせずに夜を明かした記憶が、よみがえる。
いやあ、おれ、重いわ。
あれはないな。
今なら、恋人関係でもあれは重かっただろうなって、思う。
ただの居候の今なら、尚のこと、ないだろ。
っていうか、ちゃんと布団に入ってないと、『また熱出したらどうする』って、叱られる気がする。
そこまで考えて、ふふふって、笑った。
ちゃんと寝てないと怒られるって、子どもか、おれ。
そんな事、実の親にだって言われたことないぞ。
自分のことながら、なんだかおかしくなってしまって、笑いながら寝る準備をして、部屋に引っ込んだ。
おやすみなさいってメッセージを送って、寝てしまおう。
ふ、と、人の気配で目が覚めた。
まだ暗いけど、多分、もう朝。
いつの間に帰って来たのか、ちゃんとパジャマを着こんだ姿で、シュンが布団の横に座り込んでいる。
しばらく日課にしていたように、勝手におれの布団でもぐりこんで寝るんじゃなくて、丸くなって抱えた膝の上に顎をのせて、静かにそこにいた。
「シュン? まだ早いよ」
「……うん」
片肘ついて場所をあけたけど、シュンはじーっと動かずにそこにいる。
しばらくそのままでいた。
だんだんと部屋の中に明かりが入ってきて、シュンの表情も見えるようになってくる。
何かを考えている顔。
どよんと思い悩んでいるって感じじゃなくて、ただ、まっすぐ前に視線を向けて唇を引き結んで、考え込んでいる。
夜が明ける時間を、二人でじっと過ごした。
「いっくん」
そのままの姿勢でぽつりとシュンが言った。
「オレ、早く大人になりたいなあ……」
「ダメ。いっくんの適当は、本当に適当だから、俺が落ち着かない」
ぐぬう。
この時間と決まっているわけではないけど、シュンが家に帰る時間にあわせて終業。
関家に帰ってきたら、テルさんが待ち構えていた。
シュンの宿題と明日の準備が終わったら、寺の方へ一緒に行くのだそうだ。
おれが外すからこっちに来てもらえば? と言ったのだけど、それなら尚更会わないとシュンが強硬に嫌がったし、テルさんも微妙な顔をした。
そして今、シュン待ちの間にテルさんはおれの晩飯をテーブルに並べている。
自分とシュンは寺で食べるって言ってたのに!
そんな二度手間は申し訳ないって断ったけど、返ってきたのは『俺が落ち着かない』という、なんとも言えない返答だった。
テルさん、ホントに世話焼きだよね!
習い性なのかもしれないけど、オカン入ってるよね!
「ちゃんとできる大人なのは、知ってるから。俺が落ち着かないだけだからさ」
そう言って、あとは白飯と味噌汁をよそうだけで食べられるまでに整えられた食卓。
国民的アニメの、家族と別に食べるお父さんの晩御飯、みたい。
何だってこんな丁寧に、しかも昭和な雰囲気で食卓整えてんですかって、ツッコミたくなる。
テルさんは不思議。
そばにいると居心地がいいのだ。
すごく安心する。
守られてるって思うんだけど、なんていうか、惚れる要素は少ない。
いいガタイで手まめで、いい男なんだけどなあ。
「テルちゃん、できた」
「おう。じゃ、行こうか」
シュンがテルさんを呼びにくる。
行きたくない行きたくない行きたくないって、全身からオーラが出てるよ、シュン。
そういうテルさんもあまり進んで行きたくはなさそうに見えて、家庭事情は色々だからなあって、思う。
「オレ、いっくんと一緒に、テルちゃんの手料理食べる方がいい」
「そういうなって、あの人たちにたまには孝行してやらないとな」
「……肉、食っていい?」
「外食になるけど、いいんじゃねえの?」
二人してぶつくさ言いながら玄関に向かうのについていく。
この家では誰かが出かける時、見送りするのがデフォルトなんだ。
だからそれに倣う。
「じゃ、ちょっと行ってくるから、あと頼むね」
「すぐ帰ってくるからね」
「はいはい、いってらっしゃい」
「いってきまーす」
「いってきます」
おれは約束した通り、ちゃんと留守番してますよー。
見送って玄関閉めて鍵かける、なんて、あまりしたことのない行動で、ちょっと新鮮でくすぐったくて嬉しい。
期間限定のはずのこの環境は、優しくて嬉しいことばっかりで、おれはちょっと困惑している。
関家の話し合いは、なんだか長引いているようだ。
晩飯食って片付けて、風呂に入って寝る用意を済ませても、二人は帰ってこない。
「どうしたものかな……」
いつもならそろそろ、シュンが寝る時間なのにな。
変な話、長丁場になるのを見越して二人で出向いたのかもしれない。
おれはいつもテルさんがしている手順を思い出しながら、家の中を片付ける。
一人で留守番していても不安にならないのは、ここが関家で、ちゃんと二人は帰ってくるっていう、妙な安心感があるからだ。
寮にいたころや、一人暮らしの自分の家で誰かを待っているときには、このままずっと一人かもしれないなって、うっすら寒く感じたりしたもんだ。
まして誰かの家で留守番しているときには、もっと、置いていかれてたらどうしよう、ってありもしない不安に襲われた。
そういう時、どうしていたっけ。
まんじりともせずに夜を明かした記憶が、よみがえる。
いやあ、おれ、重いわ。
あれはないな。
今なら、恋人関係でもあれは重かっただろうなって、思う。
ただの居候の今なら、尚のこと、ないだろ。
っていうか、ちゃんと布団に入ってないと、『また熱出したらどうする』って、叱られる気がする。
そこまで考えて、ふふふって、笑った。
ちゃんと寝てないと怒られるって、子どもか、おれ。
そんな事、実の親にだって言われたことないぞ。
自分のことながら、なんだかおかしくなってしまって、笑いながら寝る準備をして、部屋に引っ込んだ。
おやすみなさいってメッセージを送って、寝てしまおう。
ふ、と、人の気配で目が覚めた。
まだ暗いけど、多分、もう朝。
いつの間に帰って来たのか、ちゃんとパジャマを着こんだ姿で、シュンが布団の横に座り込んでいる。
しばらく日課にしていたように、勝手におれの布団でもぐりこんで寝るんじゃなくて、丸くなって抱えた膝の上に顎をのせて、静かにそこにいた。
「シュン? まだ早いよ」
「……うん」
片肘ついて場所をあけたけど、シュンはじーっと動かずにそこにいる。
しばらくそのままでいた。
だんだんと部屋の中に明かりが入ってきて、シュンの表情も見えるようになってくる。
何かを考えている顔。
どよんと思い悩んでいるって感じじゃなくて、ただ、まっすぐ前に視線を向けて唇を引き結んで、考え込んでいる。
夜が明ける時間を、二人でじっと過ごした。
「いっくん」
そのままの姿勢でぽつりとシュンが言った。
「オレ、早く大人になりたいなあ……」
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