ようよう白くなりゆく

たかせまこと

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十八禁っていうのはさ

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 高校生活のスケジュールは、社会人のとはだいぶ違う。
 特に三学期なんて、あってないようなものだっていうのは、シュンの予定を聞いて思い出したくらい。
 冬休みが終わってちょっとだけ授業期間があって、すぐに学年末テストで、試験休みがあって、春休み。
 そういえばそうだったなって思う。
 それで寮生は人の入れ替わりがあるから、割とバタバタしたなって思い出した。
 ただでさえ合わないスケジュールが一番合わせにくくなるのが、試験期間と試験休み期間なんだよね。
 今回は結局、一月の終わりにちょっとだけ顔を見て、そこから直接には会えてない。
 シュンから送られてくるメッセージは『会いたい』が増えていく。
 うん。
 ホントはさ、おれも会いたい。
 やせ我慢は得意だからそこは隠して『試験頑張れ』って、シュンに返事するけどね。
 それでも春休み、新学期が始まる前に一緒に寺に顔を出しておこう、ってなった。
 約束はしたものの、高校三年生は最高学年なので、寮でも仕事がたくさんあるのだ。
 結局、予定を合わせられたのは四月に入ってから。
 久しぶりの関家での再会となったんだけど、暫く会っていなかった間に、シュンがすごくでかくなってた。
 いや、既に身長を抜かれているのは気がついてたんだけどさあ、テルさんよりでっかくなってるって、どういうことだよ?
 おれは見上げるようになった顔の位置に動揺してしまって、シュンを指さして言う。

「誰だお前!」
「ええ?」

 顔を指したおれの指を握って、アワアワと焦っているシュン。
 ふふふ、こういうところはかわいい。
 
「おれのかわいいシュンは、どこ行った~」
「えええ? ここ、ここ。ここにるから」

 アワアワしながら、シュンがおれを抱きしめる。
 
「うん、知ってる」

 いくらおれでも、自分の大事な人の顔は、そんなに簡単に忘れたりしないからね。
 最近おれは、シュンをからかうのがちょっとしたマイブーム。
 だってちゃんと焦ってくれて、かわいいんだ。
 身体に回された腕をぽんぽんって叩いて、ひっそり喜んでいたらそれを見ていたテルさんが、にこにこして言った。

「いっくん、すっかりかわいくなって。良かったな、シュン」
「うん」
「ぅえ?」

 テルさんの目から見ると、シュンに懐いたおれが、甘えているように見えるんだそうだ。
 ちょっとショック。
 でも、シュンが嬉しそうだから、いいことにした。
 シュンで遊ぶのも楽しいしね。
 
 滞在中の部屋は、お互いに以前使ってたところ。
 おれは一階の和室で、シュンは二階の部屋。
 そこはねえ……うん、やっぱり保護者がいるところで同室は、照れちゃうよねって、おれは納得している。
 そしてお約束で、シュンが拗ねるいつもの構図が展開されてます。
 
「なんで? ひーちゃんとテルちゃんは同じ部屋で、いっくんとオレはダメなの?」

 ズルいズルい羨ましすぎるって、シュンがひーさんに絡む。
 
「うるせえ、未成年」
「あ、違うよ、ひー。シュン、成人だから」
「んあ? ああ……そうか、成人年齢引き下げか」

 今、不思議な単語が聞こえた。

「え? シュン成人? 高校生だよね?」
「ほら、成人年齢が下げられただろ。シュンは四月二日生まれだから、誕生日過ぎてるしね。もう成人」

 えええ? そうなんだ?

「へえ、高校生で成人って、不思議だねえ」
「っていうか、ケーキ忘れてた。買いに行ってくるな」
「いいよ、小学生でもないし」
「良くないだろ。何ならホールで食うか? 食えるだろ?」
「食えるけど、ホールで食ってどうするよ。めっちゃ甘いじゃん」

 んん?
 テルさんが何がなんでもケーキを買いに行くぞって勢いで、シュンが嬉しそうに嫌がっていて、おれはちょっと考えた。
 ああ、そうか。
 誕生日。
 関家は誕生日はケーキを食べる家なのか。

「いっくん?」
「どうかした?」

 考え込んだおれに気がついて、シュンとテルさんから声がかかる。
 いや、大したことないからね。
 
「関家は誕生日にケーキ食うんだなあって」
「生方家は違う?」

 そうだ、大人になって忘れていたけど、他の家は誕生日を祝うんだったなあって、思い出した。
 その感覚がなくて、シュンの誕生日もさっき知った。

「誕生日は身分証明のための日付って家」

 笑ってそう言ったら、一番痛い顔をしたのはひーさんだった。
 ひーさんはテルさんとの暮らしが落ち着いてから態度が軟化したのはいいけど、すごく過保護。
 テルさん以上に過保護に、シュンと俺に関わってくる。
 テルさんはおれがちょっとずれているって知っているから、ここもかって顔。
 シュンは多分、気がついていたんだと思う。
 だって今まで一度も誕生日の話はしたことがなかったから。
 
「じゃあ、これからは毎年祝わねえとな」
「そうだね」

 ひーさんがそう言って、テルさんが同意した。

「ちなみに、いっくんの誕生日、いつ?」
「一月二十一日」
 
 そう言ったら、この間じゃん! この間会った時じゃん! ってシュンが悲痛な声を上げて、ひーさんとテルさんが即、ケーキ買いに行ってしまった。

「え……誕生日って、そんな大事?」

 おれはおそるおそるシュンに聞く。
 シュンは困ったように笑って、頷いてからおれを抱きしめた。

「生まれてきてくれてありがとう、これからもよろしくって、祝う日だって、オレはテルちゃんに言われてきた」
「そうなんだ」
「今度からは、お祝いさせてね」
「うん」

 シュンの誕生日は、今日知った。
 ちゃんと覚えた。
 あとで、ひーさんとテルさんのも聞いておこう。
 それでプレゼントも用意しよう。
 ドラマや本や作り物の中だけのイベントじゃないって、知ったんだから。
 
「で、何にも用意できてないから、プレゼントの予約変わり」

 ちゅって頭のてっぺんにキスが落ちてきて、おれは最近覚えさせられたとおりに顔を上げる。
 今までよりも角度がつくのが、ちょっと悔しい。
 おれが顔を上げたのが合図で、シュンがおれの唇を咥える。
 ペロッと舌で合せ目を舐めてからはむはむと下唇を甘噛みして離れていった。
 
「成人のお祝いに、いっくんが欲しい」

 すごく甘い声でそう言われて、頷きかけた。
 
「いやいやいや、待って、エッチは大人になってから!」
「オレ、十八。成人したし、選挙権あるし、アダルトコーナー解禁」
「おれの常識では、ハタチからなの!」
「何そのこだわり」
「ジジイだからね」
「どこが。こんなかわいいのに」

 でもダメ。
 おれの中で成人はハタチ。
 十八禁ていうのはさ、いろんな意味で守らなきゃだめだけど、それよりも守らなきゃなのは未成年厳禁。
 関家の居間で、やらせろダメだともめていたら、帰ってきたひーさんにごつんとゲンコツを落とされた。

「この家で盛るなお子様が! 少なくとも自活するまではお預にしとけ、ばかやろう!」

 ひーさん、おれ、アラサーなんだけど。
 頑固おやじの言い分には納得するけど、くくりがシュンと一緒でちょっとショックです。
 


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