嫌がった妹の代わりに差し出されたら、なぜか本物扱いされて溺愛されました

秋月空

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第3章:逆転の始まり

第15話 妹の綻びが露呈

 王都滞在、五日目。

 神殿内で、小規模な浄化儀式が行われることになった。

 本来なら、問題にならない程度の規模。

 けれど今回は――

「フィオナ・ルーベルティアに担当してもらう」

 神官長の一言で、空気がわずかに張りつめた。

 ◇

「……大丈夫でしょうか」

「一応、聖女候補ですし……」

「だが、先日の結果を見ると……」

 ひそひそと交わされる声。

 隠しているつもりでも、隠しきれていない。

 疑念。

 それが、はっきりと存在している。

 ◇

 私は少し離れた場所から、その様子を見ていた。

 ――試されている。

 フィオナも。
 そして。

 “これまでの評価”そのものが。

 ◇

「レティシア」

 低い声が隣に落ちる。

「……はい」

「よく見ておけ」

 短い言葉。

 でも、その意味は分かる。

 私は、静かに頷いた。

 ◇

 儀式が始まる。

 フィオナが中央に立つ。

 優雅な動作。
 整った姿勢。

 見た目は、完璧だった。

 ――でも。

「……流れが、浅い」

 思わず、呟いていた。

 魔力の引き出しが弱い。

 循環も不安定。

 無理に形だけ整えている状態。

 ◇

 フィオナが、祈りを捧げる。

 光が、ゆらりと灯る。

 けれど。

 弱い。

 持続しない。

 そして。

「……あ」

 その瞬間。

 流れが、崩れた。

 ◇

 魔力が乱れる。

 陣が揺れる。

 光が、不規則に明滅する。

「……っ!」

 フィオナの表情が、初めて崩れた。

 焦り。
 動揺。

 それがはっきりと見える。

「制御が……!」

「補助を――」

 神官たちが動こうとする。

 でも。

 間に合わない。

 ◇

 私は、一歩踏み出していた。

 考えるより先に、体が動く。

 ――触れる。

 流れに。

 整える。

 繋げる。

 いつも通りに。

 それだけ。

 ◇

 ――静まる。

 乱れていた魔力が、一瞬で安定する。

 光が、落ち着く。

 陣が、正しい形に戻る。

「……収束した?」

「今の……一瞬で……?」

 ざわめきが広がる。

 ◇

 私は、すぐに一歩下がる。

 前に出るつもりはなかった。

 ただ。

 崩れるのを止めただけ。

 それだけだった。

 ◇

「……レティシア」

 神官長の声が、低く響く。

 私は顔を上げる。

「今のは、あなたか」

「……はい」

 否定する理由はない。

 ◇

 沈黙。

 そして。

 視線が、ゆっくりとフィオナへ向く。

 ◇

 彼女は、立ち尽くしていた。

 顔色が悪い。

 呼吸が乱れている。

 そして――

 何もできなかった。

 その事実だけが、残る。

 ◇

「……どういうことだ」

 誰かが呟く。

「なぜ、制御ができない」

「先日の測定でも……」

 疑念が、形になる。

 もう、隠せない。

 ◇

「フィオナ・ルーベルティア」

 神官長が、静かに名前を呼ぶ。

「説明してもらおう」

 その声に、逃げ道はない。

 フィオナは、ゆっくりと顔を上げた。

 でも。

 言葉が出ない。

 ◇

「……私は」

 かすれた声。

「ちゃんと、やりました……」

 その一言が。

 逆に、すべてを物語っていた。

 ◇

「“やった”だけでは足りない」

 神官長の声は、冷たかった。

「結果が伴っていない」

 その言葉に、フィオナの肩が震える。

 ◇

「……もう、明らかだな」

 低い声が落ちる。

 あの青年だった。

「適性の差は、覆らない」

 はっきりと言い切る。

 ◇

 周囲の空気が、一変する。

 今まで守っていたものが。

 崩れ始める。

 ◇

「……レティシア様」

 誰かが、私を呼ぶ。

 “様”付きで。

「先ほどの対応、見事でした」

「……ありがとうございます」

 私は静かに答える。

 そのやり取りを。

 フィオナが、見ていた。

 ◇

 目が合う。

 一瞬だけ。

 その中にあったのは――

 初めて見る感情だった。

 ◇

 悔しさ。

 焦り。

 そして。

 ――恐れ。

 ◇

 私は、ゆっくりと視線を外す。

 何も言わない。

 言う必要もない。

 もう、すべてが示されている。

 ◇

「……これで、決まりだな」

 青年が、静かに呟く。

 私は小さく息を吐いた。

 ◇

 ――終わった。

 長く続いていた“前提”が。

 完全に、崩れた。

 そして。

 ここから始まる。

 ◇

 ――本当の逆転が。
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