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第55話 カルア君対策会議って何ですか? #2
「……よくそれで生きて帰れたものだ」
これが全員に共通した感想だった。
何しろ攻撃魔法も防御魔法も使えない13歳の少年だ。気力・体力・魔力、それら全てを振り絞っての死闘だったのだろう。
一方のラーバルは、昨日聞いたカルアの話から【コアスティール】によるものだろうと推測しているが、その事は胸の内に留めておく。例えこの場であっても情報は必要最小限に絞る必要がある。
「無事生還を果たしたカルア君は、ブラック氏の勧めもあり魔法の勉強をするようになりました。教材はギルドの図書室にあった初心者向けの教本。ああそうそう、レミア君の妹君の本だそうですよ」
「あらぁ、ミレアちゃんの……」
レミアは嬉しそうに微笑んだ。
「以上ここまでが、マリアベル前校長とブラック氏から聞いた話です。そして次にヒトツメのミッチェル氏から聞いた話ですけど、ミッチェル氏はカルア君の錬成の才能に惚れ込んで、弟子としてガラス工房に迎え入れることを希望していると言っていました。そう言えばこれについてはラップス君は知っているんだったね。そう、カルア君の推薦状が届いた時に話した、あの話だよ」
ラップスは頷く。
「ああそうそう、その推薦状についての話は伝わっているかな?」
ラーバルが一同の顔を見回すとその全員が頷いていた。それぞれどこからか聞き及んでいたようだ。
「これはマリアベル前校長からの話だけど、その推薦者に名を連ねていた面々が『チーム』を組み、これまでカルア君を保護・育成してきたそうだ。……あれだけのメンバーが集まったんだ、きっと『寄ってたかって』といった感じだったんだろうね」
会議室に響く『ほう』といった声は、彼らの感嘆の声かそれとも溜息か。
「推薦状によれば、カルア君の得意とする魔法は錬成魔法と時空間魔法のふたつ。錬成魔法はミッチェル氏によるもので、時空間魔法はモリス氏によるものだ。どうやら時空間魔法においては、カルア君はモリス氏の直弟子という扱いらしいね」
それだけでもとんでもない事だ。何しろ両名ともその道の第一人者なのだから。
「そしていよいよここから編入試験の話となるわけだが――まず学科試験は全問正解、満点だったよ。これはおそらくマリアベル前校長の仕込みだろうね。そして実技だが……これについては試験官を務めたラップス君、君からみんなに説明してくれるかい? あの試験で何があったのかを」
「……全てを、ですか?」
「ああ。全てを――だ」
ラーバスの返事にラップスはひとつ頷き、そして実技試験での出来事を語り始めた。
「実技試験は技術実習室で行いました。その試験内容は、実習用の的として設置されている鎧に魔法を当てる事。それを聞いたカルア君は暫く途方に暮れたような顔で考え込んでいました。その様子に彼が攻撃魔法を持っていないと判断した私は別の試験内容に切り替えようと声を掛けたのですが、カルア君はそれを遮り慌てたように発動準備を開始しました。どうやら不合格になると勘違いしたようです。ただその後、彼が発動した魔法を見て慌てた――いや愕然としたのは私の方でした」
ラップスは当時を思い出し、軽く身を震わせた。
「彼があの短時間で思い付いたのは、得意とする時空間魔法と錬成魔法との組み合わせによるものでした。すなわち、『時空間魔法で周囲の空間ごと鎧を把握し、錬成魔法でその鎧を融解』したのです」
静まり返る室内。それはそうだろう、そんな組み合わせはこれまで誰も聞いた事が無いのだから……
自らが体験した驚愕を他の者にも与える事に成功したラップスは、仄かな愉悦を感じつつも話を続ける。これで終わりではないのだ。
「この『遠隔錬成』というあまりの事態に慌てた私でしたが、ありえないと思いつつも次の質問を彼に行いました。『その魔法で複数の的を対象と出来るか?』という質問です。通常の実技試験に沿った質問とは言え、普通に考えてそのような事が出来る筈はありません。ところが彼は簡単に頷き、その次の瞬間――実習室に並ぶ全ての的が【融解】されていたのです」
全員息を呑み、息を止めたまま身じろぎ一つしない。
誰かが唾を飲む音が小さく部屋に響いた。
「私は校長を呼びました。そして校長と彼の付き添いであるマリアベル前校長が見守る中、彼は地に落ちていた全ての融解状態の鎧を一度の魔法で再錬成して見せたのです。――もしかしたら気付いていた方もいるのではないでしょうか、最近あの鎧が新品同様になっていた事を。あれはこの時のカルア君の『遠隔錬成』によるものだったんです。そして私が校長を呼んだ理由――それは彼の行った『遠隔錬成』は、一瞬で軍隊すら無力化出来てしまうという恐るべき魔法だからです。……これが本校で彼が見せた最初の軍事的脅威レベル魔法でした」
役目を終えたラップスは、校長に視線を送りその口を閉じた。
そのラップスにラーバルは頷き、そしてその言葉を引き継ぐ。
「そう、『最初の』軍事的脅威レベル魔法なんだよ。まだ次があるんだ」
これが全員に共通した感想だった。
何しろ攻撃魔法も防御魔法も使えない13歳の少年だ。気力・体力・魔力、それら全てを振り絞っての死闘だったのだろう。
一方のラーバルは、昨日聞いたカルアの話から【コアスティール】によるものだろうと推測しているが、その事は胸の内に留めておく。例えこの場であっても情報は必要最小限に絞る必要がある。
「無事生還を果たしたカルア君は、ブラック氏の勧めもあり魔法の勉強をするようになりました。教材はギルドの図書室にあった初心者向けの教本。ああそうそう、レミア君の妹君の本だそうですよ」
「あらぁ、ミレアちゃんの……」
レミアは嬉しそうに微笑んだ。
「以上ここまでが、マリアベル前校長とブラック氏から聞いた話です。そして次にヒトツメのミッチェル氏から聞いた話ですけど、ミッチェル氏はカルア君の錬成の才能に惚れ込んで、弟子としてガラス工房に迎え入れることを希望していると言っていました。そう言えばこれについてはラップス君は知っているんだったね。そう、カルア君の推薦状が届いた時に話した、あの話だよ」
ラップスは頷く。
「ああそうそう、その推薦状についての話は伝わっているかな?」
ラーバルが一同の顔を見回すとその全員が頷いていた。それぞれどこからか聞き及んでいたようだ。
「これはマリアベル前校長からの話だけど、その推薦者に名を連ねていた面々が『チーム』を組み、これまでカルア君を保護・育成してきたそうだ。……あれだけのメンバーが集まったんだ、きっと『寄ってたかって』といった感じだったんだろうね」
会議室に響く『ほう』といった声は、彼らの感嘆の声かそれとも溜息か。
「推薦状によれば、カルア君の得意とする魔法は錬成魔法と時空間魔法のふたつ。錬成魔法はミッチェル氏によるもので、時空間魔法はモリス氏によるものだ。どうやら時空間魔法においては、カルア君はモリス氏の直弟子という扱いらしいね」
それだけでもとんでもない事だ。何しろ両名ともその道の第一人者なのだから。
「そしていよいよここから編入試験の話となるわけだが――まず学科試験は全問正解、満点だったよ。これはおそらくマリアベル前校長の仕込みだろうね。そして実技だが……これについては試験官を務めたラップス君、君からみんなに説明してくれるかい? あの試験で何があったのかを」
「……全てを、ですか?」
「ああ。全てを――だ」
ラーバスの返事にラップスはひとつ頷き、そして実技試験での出来事を語り始めた。
「実技試験は技術実習室で行いました。その試験内容は、実習用の的として設置されている鎧に魔法を当てる事。それを聞いたカルア君は暫く途方に暮れたような顔で考え込んでいました。その様子に彼が攻撃魔法を持っていないと判断した私は別の試験内容に切り替えようと声を掛けたのですが、カルア君はそれを遮り慌てたように発動準備を開始しました。どうやら不合格になると勘違いしたようです。ただその後、彼が発動した魔法を見て慌てた――いや愕然としたのは私の方でした」
ラップスは当時を思い出し、軽く身を震わせた。
「彼があの短時間で思い付いたのは、得意とする時空間魔法と錬成魔法との組み合わせによるものでした。すなわち、『時空間魔法で周囲の空間ごと鎧を把握し、錬成魔法でその鎧を融解』したのです」
静まり返る室内。それはそうだろう、そんな組み合わせはこれまで誰も聞いた事が無いのだから……
自らが体験した驚愕を他の者にも与える事に成功したラップスは、仄かな愉悦を感じつつも話を続ける。これで終わりではないのだ。
「この『遠隔錬成』というあまりの事態に慌てた私でしたが、ありえないと思いつつも次の質問を彼に行いました。『その魔法で複数の的を対象と出来るか?』という質問です。通常の実技試験に沿った質問とは言え、普通に考えてそのような事が出来る筈はありません。ところが彼は簡単に頷き、その次の瞬間――実習室に並ぶ全ての的が【融解】されていたのです」
全員息を呑み、息を止めたまま身じろぎ一つしない。
誰かが唾を飲む音が小さく部屋に響いた。
「私は校長を呼びました。そして校長と彼の付き添いであるマリアベル前校長が見守る中、彼は地に落ちていた全ての融解状態の鎧を一度の魔法で再錬成して見せたのです。――もしかしたら気付いていた方もいるのではないでしょうか、最近あの鎧が新品同様になっていた事を。あれはこの時のカルア君の『遠隔錬成』によるものだったんです。そして私が校長を呼んだ理由――それは彼の行った『遠隔錬成』は、一瞬で軍隊すら無力化出来てしまうという恐るべき魔法だからです。……これが本校で彼が見せた最初の軍事的脅威レベル魔法でした」
役目を終えたラップスは、校長に視線を送りその口を閉じた。
そのラップスにラーバルは頷き、そしてその言葉を引き継ぐ。
「そう、『最初の』軍事的脅威レベル魔法なんだよ。まだ次があるんだ」
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