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1章 新人探索者編
8話 チュートリアル 2
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迷宮の入口には扉がある。
この扉を開けると、黒いモヤが掛かったような空間が広がっていた。
どうやらこの中が迷宮へと繋がっているらしい。
マイヤーを先頭に順にモヤへと飛び込んでいく。
俺もその後を追うように飛び込んだ。
一瞬だけ景色が漆黒に染まる。
が、次の瞬間、俺は遺跡のような人工的に作られた場所に立っていた。
「え?ここは……?ここが迷宮なのか」
周囲を見渡す。
少し広めの部屋で入口同様のモヤがあり、それ以外には先へと続く通路がある。
どうやら遺跡の中の一室にいるようだ。
「四人ともいるな。よし、ここが第四十七迷宮の一層になる。迷宮内の最初にいる空間には絶対にモンスターはいないからまずは落ち着いて話を聞いてくれ」
職員の話では、迷宮に入って最初の空間。つまり現在いるような部屋の内部には、モンスターがいない仕組みになっている。
これは階層移動の際も同様らしく、あの黒いモヤから出てきた一番無防備な瞬間を狙われる心配はないということだ。
この部屋にあるモヤは帰還の扉と呼ばれており、入れば入口に戻ることができる。
このモヤは各層ごとに配置されているらしく、先へ進んでもそのフロアの入口からはいつでも帰還できるようだ。
「なんか……不思議な空間だな。明るいわけでもないのに周りはハッキリと見えてるし」
壁には一定間隔でロウソクが灯っているが、あんなロウソクでこれほど周囲を照らすことはできないだろう。
にも関わらず、迷宮内は明るすぎず暗すぎず、適度な明るさを保っていた。
「ほう、いいところに気づいたな。この明るさは未だ解明されていない謎の一つなんだが、最も有力な説は迷宮自体が生き物で、チョウチンアンコウのように獲物をおびき寄せるために明かりが点いていると言われているな」
迷宮生物説は俺も知っている。
迷宮内に宝や資源を置くことで人間という餌をおびき寄せているというものだ。
この話を知った当時は半信半疑だったが、実際に迷宮に入ってみると少し納得できるかもしれない。
まだ来たばかりだけど。
「さて、初めての迷宮での感動も味わったな。そろそろ移動してモンスター討伐を経験してもらうぞ」
この言葉に俺たち全員気を引き締めなおす。
そして先の通路へと向かっていく。
通路を少し進むと、再び広い部屋に出た。
そして目線の先には二、三十センチほどのゲル状の半球体が現れた。
「いたな。わかるか?あれがこの一層のモンスター、スライムだ。ゆっくり動いているだろう?あれが通常であり最高速度だ。この瞬間に気絶でもしない限り負けることはない最弱の魔物と言われているな。だから安心して戦えるというわけだ」
確かにゆっくり動いてる。
いやいや、動いてはいるけど!遅すぎないか?
俺が十歩歩く間に十センチ動いてるくらいだぞ。
こんなのにやられるような奴はいないだろう。
「楽勝だと思っただろう?当たり前だ。このチュートリアルはモンスターを倒せるかどうかを見るわけじゃない。倒すまでの流れを教える場なんだ。少しでも危険があると色々面倒なことがあるんだ。ま、大人の事情ってやつだな」
職員は真顔で言う。
どんな事情があるのかはわからないが、職員同伴の際に探索者は安全でないといけないらしい。
それ以外の危険に関しては自己責任ということか。
危険度と比例して稼ぎが大きくなる職業なんだからそれも仕方ないか。
「それじゃ、順番にスライム狩りを始める。さあ、誰から行く?」
「はーいはーーい!俺!俺が最初に行くぜ!!」
真っ先に名乗り出たのはマイヤーだった。
「マイヤーだったな。使う武器は……片手剣か。無難でいい選択だ。扱いに関しては自分なりに色々やってみろ。あまりに酷ければ助言くらいはしてやるから」
マイヤーは頷きスライムへと駆け寄る。
上段からの振り下ろし。
真っ二つになったスライムはゆっくりと消えていくと、跡には小さな魔石だけが残った。
「っいよっしゃー!!どんなもんだ!」
「うん、よくやった。その魔石を拾ってこの戦闘は終了になる。いいか?魔石を拾うまでが戦闘だ。拾い忘れればその収入はゼロになる。魔石を拾って初めて、探索者としての収入になるんだ。忘れるなよ」
一撃。
あっさりと倒すのを見て、俺でも倒せそうな気がしてきた。
いや、倒せないと探索者としてやっていくのは厳しいのだろうが。
続いてリリが出て行く。
リリは弓を用いて戦うようだ。
マイヤーが前に出て、リリが後ろから攻撃を加えていく。
前衛と後衛がハッキリしていていいコンビと言えるのかもしれない。
リリが射った矢は見事にスライムに命中する。
……が、矢はゆっくり落ちていき、スライムは何事もなかったかのように動いていた。
「え~!当たったのになんで生きてるの?ねぇ、なんでなんで~?」
納得がいかないとばかりに職員に詰め寄るリリ。
そんなリリに職員は答える。
「これがスライムの特徴だ。『切る』『燃やす』『潰す』などの攻撃では簡単に倒せるが、『突く』『射る』「殴る』などの点での攻撃は殆ど効かないんだ。弓兵がソロで戦う方法としては、まずは魔法だな。火か風なら簡単に倒せるだろう。もう一つが弓で直接攻撃だな。弦で薙ぐように攻撃すれば思いのほか簡単に倒せるぞ」
「そうなの?ちょっとやってみる」
職員のアドバイスを聞いたリリは、腰に下げた予備のナイフを構える。
そして、横になぎ払うと、スライムは上下に真っ二つになり消えていった。
「やったーーー!!」
「うん、このようにモンスターによって効きやすい攻撃と効きにくい、または効かない攻撃がある。そのことを覚えておいて欲しい」
職員は頷きながら笑顔で言う。
どうやらこのチュートリアル講習でスライムを討伐対象に選んでいるのは、ただ弱いからというだけでなく、効く攻撃と効かない攻撃がハッキリ分かれているからのようだ。
確かに俺たち新人にこのことを教えるのには、これ以上ない最適なモンスターなんだなぁ。
次は俺の番だ。
流石に緊張してきた。
というより、倒せなかったらどうしようという不安しかない。
「カイトだな。ん?お前、武器はどうしたんだ?」
「持ってないよ。というより、どんな武器も上手く使うことができないから」
今までのトレーニングでは武器に振り回されていたといってもいいくらい、武器の取り扱いが下手だった。
それならいっそと、魔法のみで戦うスタイルを選んでいた。
幸いスキル【☆魔力特化】の影響で、人より多い魔力を保有しているようだし、この戦闘スタイルでもやっていけるのではないかと思っている。
「そうか……魔法一本でやろうというのだな。苦労はするだろうが決めるのは自分自身だ。好きにやってみるといい。では、魔法の使い方は大丈夫か?」
実は今朝ユニークスキルの確認後に、アルベルトに魔法の使い方について少し聞いていた。
普通の属性魔法は、使おうとした際に最初の魔法は頭に浮かぶらしい。
そして【☆時空魔法】もこのやり方でできるかも知れないと言われたのだ。
「多分。使おうと意識すれば頭に浮かぶんだよね」
「そうだ。火か風魔法だぞ。とってあるんだろうな?」
「火属性はあるからやってみるよ」
俺は前に出てスライムを射程に捉える。
手を前にだし、火魔法を使うよう意識を集中させた。
すると、頭にある言葉が浮かんだ。
これを唱えればいいんだな。
「火炎弾!」
俺の両手から放たれた火球は真っ直ぐスライム目掛けて飛んでいく。
その火球がスライムに当たった瞬間、ジュオッという音と共にスライムは魔石だけを残して消え去っていた。
「え?倒したの?」
「ああ、スライムは火に対して極端に弱く、あのように一瞬にして消え去ってしまうんだ。しかし魔法を使う上で注意しなければいけないのは魔力残量だ。魔力は魔法を使うたびに消費していく。自然と回復していくが、使いすぎて魔力切れを起こすとしばらく魔法を使えなくなるからな。魔法だけで戦うつもりならば、それにだけは十分気を付けるように」
うん、人より魔力は多くても使いすぎて魔力切れになれば、全く対応できないんだから、十分気を付けないとな。
ともあれ、俺も問題なくモンスターを倒せたわけだ。
最後にシェリルがスライムを倒す。
素早くスライムに近づくと、一瞬のうちにスライムを切り刻み倒してしまった。
やっぱりシェリルは凄いや。
これで俺たちのチュートリアル講習は終了した。
この扉を開けると、黒いモヤが掛かったような空間が広がっていた。
どうやらこの中が迷宮へと繋がっているらしい。
マイヤーを先頭に順にモヤへと飛び込んでいく。
俺もその後を追うように飛び込んだ。
一瞬だけ景色が漆黒に染まる。
が、次の瞬間、俺は遺跡のような人工的に作られた場所に立っていた。
「え?ここは……?ここが迷宮なのか」
周囲を見渡す。
少し広めの部屋で入口同様のモヤがあり、それ以外には先へと続く通路がある。
どうやら遺跡の中の一室にいるようだ。
「四人ともいるな。よし、ここが第四十七迷宮の一層になる。迷宮内の最初にいる空間には絶対にモンスターはいないからまずは落ち着いて話を聞いてくれ」
職員の話では、迷宮に入って最初の空間。つまり現在いるような部屋の内部には、モンスターがいない仕組みになっている。
これは階層移動の際も同様らしく、あの黒いモヤから出てきた一番無防備な瞬間を狙われる心配はないということだ。
この部屋にあるモヤは帰還の扉と呼ばれており、入れば入口に戻ることができる。
このモヤは各層ごとに配置されているらしく、先へ進んでもそのフロアの入口からはいつでも帰還できるようだ。
「なんか……不思議な空間だな。明るいわけでもないのに周りはハッキリと見えてるし」
壁には一定間隔でロウソクが灯っているが、あんなロウソクでこれほど周囲を照らすことはできないだろう。
にも関わらず、迷宮内は明るすぎず暗すぎず、適度な明るさを保っていた。
「ほう、いいところに気づいたな。この明るさは未だ解明されていない謎の一つなんだが、最も有力な説は迷宮自体が生き物で、チョウチンアンコウのように獲物をおびき寄せるために明かりが点いていると言われているな」
迷宮生物説は俺も知っている。
迷宮内に宝や資源を置くことで人間という餌をおびき寄せているというものだ。
この話を知った当時は半信半疑だったが、実際に迷宮に入ってみると少し納得できるかもしれない。
まだ来たばかりだけど。
「さて、初めての迷宮での感動も味わったな。そろそろ移動してモンスター討伐を経験してもらうぞ」
この言葉に俺たち全員気を引き締めなおす。
そして先の通路へと向かっていく。
通路を少し進むと、再び広い部屋に出た。
そして目線の先には二、三十センチほどのゲル状の半球体が現れた。
「いたな。わかるか?あれがこの一層のモンスター、スライムだ。ゆっくり動いているだろう?あれが通常であり最高速度だ。この瞬間に気絶でもしない限り負けることはない最弱の魔物と言われているな。だから安心して戦えるというわけだ」
確かにゆっくり動いてる。
いやいや、動いてはいるけど!遅すぎないか?
俺が十歩歩く間に十センチ動いてるくらいだぞ。
こんなのにやられるような奴はいないだろう。
「楽勝だと思っただろう?当たり前だ。このチュートリアルはモンスターを倒せるかどうかを見るわけじゃない。倒すまでの流れを教える場なんだ。少しでも危険があると色々面倒なことがあるんだ。ま、大人の事情ってやつだな」
職員は真顔で言う。
どんな事情があるのかはわからないが、職員同伴の際に探索者は安全でないといけないらしい。
それ以外の危険に関しては自己責任ということか。
危険度と比例して稼ぎが大きくなる職業なんだからそれも仕方ないか。
「それじゃ、順番にスライム狩りを始める。さあ、誰から行く?」
「はーいはーーい!俺!俺が最初に行くぜ!!」
真っ先に名乗り出たのはマイヤーだった。
「マイヤーだったな。使う武器は……片手剣か。無難でいい選択だ。扱いに関しては自分なりに色々やってみろ。あまりに酷ければ助言くらいはしてやるから」
マイヤーは頷きスライムへと駆け寄る。
上段からの振り下ろし。
真っ二つになったスライムはゆっくりと消えていくと、跡には小さな魔石だけが残った。
「っいよっしゃー!!どんなもんだ!」
「うん、よくやった。その魔石を拾ってこの戦闘は終了になる。いいか?魔石を拾うまでが戦闘だ。拾い忘れればその収入はゼロになる。魔石を拾って初めて、探索者としての収入になるんだ。忘れるなよ」
一撃。
あっさりと倒すのを見て、俺でも倒せそうな気がしてきた。
いや、倒せないと探索者としてやっていくのは厳しいのだろうが。
続いてリリが出て行く。
リリは弓を用いて戦うようだ。
マイヤーが前に出て、リリが後ろから攻撃を加えていく。
前衛と後衛がハッキリしていていいコンビと言えるのかもしれない。
リリが射った矢は見事にスライムに命中する。
……が、矢はゆっくり落ちていき、スライムは何事もなかったかのように動いていた。
「え~!当たったのになんで生きてるの?ねぇ、なんでなんで~?」
納得がいかないとばかりに職員に詰め寄るリリ。
そんなリリに職員は答える。
「これがスライムの特徴だ。『切る』『燃やす』『潰す』などの攻撃では簡単に倒せるが、『突く』『射る』「殴る』などの点での攻撃は殆ど効かないんだ。弓兵がソロで戦う方法としては、まずは魔法だな。火か風なら簡単に倒せるだろう。もう一つが弓で直接攻撃だな。弦で薙ぐように攻撃すれば思いのほか簡単に倒せるぞ」
「そうなの?ちょっとやってみる」
職員のアドバイスを聞いたリリは、腰に下げた予備のナイフを構える。
そして、横になぎ払うと、スライムは上下に真っ二つになり消えていった。
「やったーーー!!」
「うん、このようにモンスターによって効きやすい攻撃と効きにくい、または効かない攻撃がある。そのことを覚えておいて欲しい」
職員は頷きながら笑顔で言う。
どうやらこのチュートリアル講習でスライムを討伐対象に選んでいるのは、ただ弱いからというだけでなく、効く攻撃と効かない攻撃がハッキリ分かれているからのようだ。
確かに俺たち新人にこのことを教えるのには、これ以上ない最適なモンスターなんだなぁ。
次は俺の番だ。
流石に緊張してきた。
というより、倒せなかったらどうしようという不安しかない。
「カイトだな。ん?お前、武器はどうしたんだ?」
「持ってないよ。というより、どんな武器も上手く使うことができないから」
今までのトレーニングでは武器に振り回されていたといってもいいくらい、武器の取り扱いが下手だった。
それならいっそと、魔法のみで戦うスタイルを選んでいた。
幸いスキル【☆魔力特化】の影響で、人より多い魔力を保有しているようだし、この戦闘スタイルでもやっていけるのではないかと思っている。
「そうか……魔法一本でやろうというのだな。苦労はするだろうが決めるのは自分自身だ。好きにやってみるといい。では、魔法の使い方は大丈夫か?」
実は今朝ユニークスキルの確認後に、アルベルトに魔法の使い方について少し聞いていた。
普通の属性魔法は、使おうとした際に最初の魔法は頭に浮かぶらしい。
そして【☆時空魔法】もこのやり方でできるかも知れないと言われたのだ。
「多分。使おうと意識すれば頭に浮かぶんだよね」
「そうだ。火か風魔法だぞ。とってあるんだろうな?」
「火属性はあるからやってみるよ」
俺は前に出てスライムを射程に捉える。
手を前にだし、火魔法を使うよう意識を集中させた。
すると、頭にある言葉が浮かんだ。
これを唱えればいいんだな。
「火炎弾!」
俺の両手から放たれた火球は真っ直ぐスライム目掛けて飛んでいく。
その火球がスライムに当たった瞬間、ジュオッという音と共にスライムは魔石だけを残して消え去っていた。
「え?倒したの?」
「ああ、スライムは火に対して極端に弱く、あのように一瞬にして消え去ってしまうんだ。しかし魔法を使う上で注意しなければいけないのは魔力残量だ。魔力は魔法を使うたびに消費していく。自然と回復していくが、使いすぎて魔力切れを起こすとしばらく魔法を使えなくなるからな。魔法だけで戦うつもりならば、それにだけは十分気を付けるように」
うん、人より魔力は多くても使いすぎて魔力切れになれば、全く対応できないんだから、十分気を付けないとな。
ともあれ、俺も問題なくモンスターを倒せたわけだ。
最後にシェリルがスライムを倒す。
素早くスライムに近づくと、一瞬のうちにスライムを切り刻み倒してしまった。
やっぱりシェリルは凄いや。
これで俺たちのチュートリアル講習は終了した。
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