桜絡廊(おうらくろう)公園の花は旦那様に愛されていることに気づかない

しげむろ ゆうき

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 しかも、先ほどの二人組とは別の人物が。

 でも、あっちは……

 出口の方で何もないはずではと思っていると和国軍の一人が後をつけていく姿が視界に入る。

「自国に急いで戻り連絡をするのだろう」

 そう仰られる旦那様の言葉でその行動に納得することも。
 それは他の招待客が動きだしたことでなおさら。

「あっ……」

 ただし、岩倉様の話を聞いてもやはりそちらの選択を選ぶ者はいたけれど。例の二人組がゆっくりと偽物の対魔獣消滅機一式の場所へと近づいていったので。懐から何かを取り出しながら。爆弾みたいな物をと思っていると岩倉様が二人の肩を撃ち抜く。

「流石にそれは駄目だろう」

 そう呟かれて。
 何せ、爆発の規模がわからないし、当初の予定では簡易結界を破壊しにいくと思っていたので。先ほどの岩倉様の話を聞いたら特にと。
 話が本当かどうかを確かめるはずだから。普通は……と、彼らが偽物とはいえ対魔獣消滅機一式の破壊を優先したことに私は内心驚く。
 旦那様が簡易結界の方に視線を向けて呟かれたことで現実に戻ったが。「これで、強制的にうちでやるしかなくなったな」という言葉で緊張も。始まると判断したので。岩倉様が計画された案がと思っていると「工作員が! 工作員が簡易結界を破壊したぞ!」と、案の定、すぐに声が上がる。
 ただし、「まずい、二箇所想定外のところから来ているぞ!」そう声が上がった直後、旦那様が苦笑している岩倉様の方に顔を向けられ「まだ、うちでは想定内ですが」と睨まれるが。

「わかっている。これもあれだよ。あれ」
「……説明は欲しかったですがね」
「私と今叫んだ者だけしか知らないんだ。君ならわかるだろう?」
「やれやれ。で、まだあるのですか?」
「それはだね……」

 岩倉様は理由を話そうとされるが「もう一箇所やられた!」と声が上がるなり肩をすくめられて伊野淵親子の方に向き直られる。

「対魔獣消滅機一式の起動を」
「わかった。では、我々は本物の方に。岩倉総大将、少し時間がかかりますので時間稼ぎをお願いします」
「うむ。では、ここからが本番だ。皆の者、心してかかれよ」

 「了解です」と、和国軍が一斉に武器を抜く姿に岩倉様は先ほどの質問の答えだとばかりにこちらに笑みも。
 ただ、すぐに武器を抜かれるなり皆と同じく厳しい表情になられたが。勇ましくも、少しだけ怖さを感じる姿に。
 それはもちろん対魔獣師団もと思っていると旦那様が私を引き寄せられ、優し気に仰ってこられる。「優月、私の側から絶対に離れては駄目だ」と。
 そして「魔獣の力が強く感じますね。しかも奴ら確実にこちらが何をしようとしているのかわかってますよ」と、側にいた部下の言葉で更に引き寄せられも。指示を出されず、武器も抜かれずに。
 それは「よし、和国軍の力を見せつけてやるぞ!」と、どこからか杉沼様の大きな声が聞こえてきても。

 しかも、それどころか存在が……

 そう思っていると旦那様がこちらの心を読まれているのかように答えてこられる。

「魔獣に我々を感知させないようにしているんだ。奴ら何をしてくるかわからないからな」
「要は先手を打たれないようにしていると?」
「ああ、奴らは異能の力を使える我々を一番に警戒しているだろうからな。和国軍が持つ新武器などよりも」

 旦那様がそう答えられた直後、杉沼様達が吹き飛ばされる姿が視界に映る。そして、ゆっくりと大柄な魔獣がこちらに歩いてくるのも。
 それでも旦那様達は動かれることはなかったが。
 何せ、わかっていたとばかりに「あそこにも魔獣がいるぞ!」と、平井様の第二部隊が現れ、戦いだしたので。しばらくすると魔獣を討伐も。誰一人、怪我もなく。
 しかも余裕ある様子でと思っていると気絶してる杉沼様達に気づかれる。それから呆れた表情のまま「まずは最初の波はうちだけでやれそうだが……九条殿、そちらから見て魔獣はどうだった?」と質問も。

「やはり強い固体がいますね」

 そう返事がくるなり厳しい表情に変わられて「そうか、やはりこの硬さは……」と呟かれるが。
 魔獣の爪や牙の硬さを超えると説明された刀……今では少し離れた位置にいる私からでも見えるくらい刃こぼれした魔殺一式を見つめながら。
 少しだけ不安な様子で。
 いや、すぐに「この短期間で魔獣が更に強くなってしまったわけですね」と、平井様の部下の言葉にハッとすると「だが、やることは一つだ」
 そう仰られ、覚悟を決められた表情で魔獣の声が聞こえる方へと走って行かれたが。

「ここは任せた!」

 更にはそう仰られて。何せ、ここには旦那様だけでなくまだ甲斐様率いる第一部隊もいらっしゃるので。
 まあ、甲斐様の部隊の半数は岩倉様の護衛も兼ねているのであまり離れて行動はできないだろうけれど。
 旦那様がされている伊野淵親子の護衛と同じように。
 そう考えていると岩倉様が壇上より仰ってこられる。半狂乱で走り回る、パーティーで文句を言っていた招待客を一瞥しながら「我々はそろそろ、簡易結界を一つを残して復旧してくる。もうこれでどこもケチをつけてくるものはいないだろう」と。

「この国も含めてですか……」

 そう、つい呟いてしまう私に笑みも。

「やはり、君は誰かさん達とは違い頭が回るし柔らかいようだ」
「いいえ、私なんて全然です……」
「何を言ってる。君の存在が今日の計画を生んだのだぞ。和国から魔獣を消滅させる最初の一歩を」
「でも、私がいなくとも岩倉総大将なら結局は良い案は思い浮かんだでしょうし」
「だが、和国と溱璽国の仲を取り持つ案はきっと生まれなかった。そうだろう?」
「……」
「皆、感謝しているのだよ、君には。だから堂々としたまえ」

 そう仰られると岩倉様は壇上から飛び降り、私の側に来られ敬礼される。そして、小声で「最後までな……宗方 優月殿」とも。
 私がハッとする直前に甲斐様の部隊と共に離れて行ってしまわれだが。簡易結界の復旧をしに。

 和国から魔獣を消滅させる最初の一歩を始めるために……

 そう思っていると今度は伊野淵博士の声が聞こえてくる。
 「よし、残り五分で対魔エネルギーが溜まる。後少しの辛抱だ」と、誰もが魔獣との戦いに終わりが近づいたと実感できる言葉が。
 ただし、『グルルルッ』と、複数体の魔獣が突然、出てきたことで私の実感はすぐに吹き飛んでいったが。何せ、今までみたことないほど大型の魔獣が現れたから。
 そして、折れた魔殺一式の刃の部分を口から吐き出すのも。

 パンッ! パンッ!

 「もう効きませんね」と対魔獣師団員が持っていた魔殺二式を捨てる姿を見たらなおさら。

「時間はかかるが我々なら大丈夫だろう」

 そう仰ってこられる旦那様の言葉で再び希望は持てたけれど。
 そして、だからこそ刀を抜かれる旦那様からそっと離れも。「私は伊野淵博士と星羅様の側にいます。ご武運を」と言いながら。邪魔にならないようにしたかったのでと、足早に伊野淵親子の元に向かう。
 すぐにその判断が正解だったとも。

「また強くなっているな……」

 そう呟かれる伊野淵博士の言葉通り、接戦になってしまったから。お互いに傷だらけになるぐらい。
 しかもその傷は徐々に魔獣ではなく対魔獣師団の方が多くなっていき、更には押され気味にも。
 だからこそ「予想外……いいえ、範囲内ね」と仰る星羅様の方に思わず顔を向けてしまったが。

「ど、どういうことでしょうか?」
「溱璽国側ではこうなることは予想していたのですよ。魔獣がああなって襲ってくると」
「あの、それは岩倉総大将には?」
「もちろん言ってますわ。それを理解した上であの作戦にしてますので」
「死ぬ気でやることで溱璽国と和国の仲を見せることもできると……」
「まあ、半ば無理矢理ですけれど。何せ、これで嫌でも信じるでしょうから。あの方達には」

 星羅様の視線の先にいる物陰に隠れ怯えている招待客を私も見る。そして半分だけ納得も。なぜって彼らのほとんどがこの状況を理解すらしていないだろうから。
 もちろん魔獣に対する恐怖のせいでと思っていると突然、右腕全体に激痛が走る。そして嫌な予感も。
 理由はすぐに理解してしまったけれど。新しく現れた魔獣達の所為だと。

 しかも、そのうちの一体は……

 対魔獣消滅機一式を気にする魔獣達の中、定期的に目が合う一体に私は確信する。
 ただ、結局のところ私には何もできることはないのだけれど。そして、あの魔獣も今は私が狙いでないとも。
 ここに現れた目的は対魔獣消滅機一式を破壊することだろうから。向こうにとっての脅威を排除するために。

『ウオォォオーーーーンッ!』

 そう考えていると正解とばかりに魔獣が動きだす。大きな体に似合わない速さで……と、思っていると魔獣達が次々と吹き飛ばされていく。
 他の魔獣と戦われている対魔獣師団から離れられ、対魔獣消滅機一式の前にお一人で立ち塞がられる旦那様の異能の力によって。
 ただし、倒すには至らなかったのか魔獣達は次々と立ち上がってしまうが。『グルルルッ……』と諦める様子もなさそうで。
 それは、もちろん旦那様もだったけれど。
 数の暴力により自らの安全を考慮しない戦いをされ、誰よりも満身創痍なのに辺りをひりつかせるほどの空気を感じたので。
 右肩付近は特にと、薬を飲んだのに痛む右半身、徐々に霞んでいく右目に私は時間切れという言葉が思い浮かぶ。
 ただ、すぐに遠くからもの凄い速さでこちらに駆け寄ってくる和国の軍人が現れることによって気を紛らわせることはできたが。
 しかも、「こいつを使え」とボロボロになってしまった旦那様の刀の代わりまで持ってこられたらなおさら。
 まあ、ただし、帽子を軽く上げて甲斐様のお顔が見えたことで一瞬だけ驚いてしまったけれど。
 いや、すぐに嬉しくも。

「助かる」
「ふん、お前のためではないが一応、フォローする。岩倉総大将が来るまで耐えるぞ」

 そう仰られながら旦那様の横に並ばれる光景にやっと私が望んでいた光景を見れたのだから。
 嘘ではなく本当の。
 ただ、それでも力の差に数も優っていたので魔獣の方が少しばかり上であったが。何せ、お二人が徐々に後退していたので。更に傷だらけにもなられて。

『グルルルルルッ!』

 だからなのか、余裕ができた例の魔獣が対魔獣消滅機一式の方を気にし始める姿が目に入ってしまうが。定期的に私の方にも殺意の籠った視線を向けながら。
 なんとなくだけれど本能に抗っている様子で。

 だからこそ、もしかしたら……

 そう思っていると魔獣が軽く頭を振る。それから、お二人との戦いを放棄して対魔獣消滅機一式の方に走りだしも。
 ただ、その間には既に私が立ち塞がっていたが。右手の袖をまくりながら。

「こっちよ!」

 魔獣の本能を刺激して意識をこちらに向けれると思ったので。

『グルッ!? ウオオッーー!』

 そして、その考えが正解だったとも。

「ぐっ!」

 右肩に深く突き刺さる牙の感覚を感じたからと、私は左手で魔獣の頭の毛を掴む。もちろん剥がすためではなく逃がさないために。
 だって、このまま押さえ込めば魔獣のいない平和な世の中を手に入れられるはずなのだから。

「大切な人達が……」

 私はそう呟きながらほとんど見えなくなってしまった視界の中、平和な世の中が来るようにと祈り続ける。何度も何度も。

「優月!」

 そして、こちらに駆け寄ってこられる旦那様には申し訳なさも。

 ごめんなさい……

 何せ、今どのような表情をしているのか認識することができず、更に言葉も発することもできなくなってしまったので。
 もちろん死が近づいてきたから。
 もの凄い速さでと、そう思っていると突然、目の前が真っ暗闇から真っ白になる。
 そして寒気から暖かさに包まれている気分にも。
 ただ、それでも私の意識はゆっくりと薄れていったが。
 夢に落ちていくように。
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