2023 森田芽衣編

仮面ライター

文字の大きさ
11 / 21

7月21日(金)

しおりを挟む
 金曜日の夕方に、アルプラザの食品売り場でレジに並んでいるのは久しぶりかもしれない。亜衣と映美の二人を連れながら、大人一人でそこそこ混雑するところに突っ込んでいくのはちょっぴり怖かったけど、二人とも大人しく、お利口さんで成長を感じた。ご褒美に、普段なら滅多に買わないポケット菓子も2つ、3つカゴに入れてしまった。
 康徳さんに頼まれたのはネギだけだったのに、会計を終え、サッカ台で手提げ袋に荷物を詰め終えると、そこそこ大きな荷物になっていた。どうせ明日も買い出しするんだけど、まぁ、いいか。
 週末の夕方、フードコートには学生さんが多い気がするけど、そもそも、もうそろそろ夏休み? 来週には色んなところで小学生や親子連れも見かけるようになる、か。シャトレーゼとかケンタッキーに後ろ髪を引かれながら、アルプラザを後にする。
 亜衣と映美に気をつけながら、「もう直ぐ帰る」と康徳さんにメッセージを送る。すぐに「了解」と返事が帰ってきた。向こうはもう落ち着いている?
 すぐ隣を行き来する自動車や、向かいからやってくる自転車に気をつけながら、川を渡り、住宅街に入っていく。亜衣が先に自宅のドアを開ける。扉で手を挟まないでと祈るように見守りながら、彼女が離したドアに手を伸ばす。奥から、康徳さんの「おかえり」という声が聞こえてくる。
 映美と一緒にリビングへ入ると、康徳さんはキッチンから顔を出した。私たちに「おかえり」と言った。私は手提げ袋を食卓に置き、中身をそこに出す。彼は「買い出し、ありがとう。後は、よろしく」と言うと、両手を洗い、亜衣と映美を洗面所に連れて行く。
 私はお菓子をストッカーに仕舞い、残りの食品を冷蔵庫にしまうべく、キッチンに足を踏み入れた。餃子を放り込んだスープと、チャーハンのセットという段取りらしい。スープは出来上がっていて、チャーハンは今から炒め始めるようだ。
 とりあえず流しで手を洗い、買ってきた白ネギを刻む。スープとチャーハンのどちらに入れるのか、どんなチャーハンにするつもりなのか、戻ってきた本人に聞いてみよう。
 ほんの数分で、娘二人を連れた康徳さんが戻ってくる。彼は私の顔とキッチンを見るなり、「ネギはチャーハンかな。スープは温めるだけ」と言った。
 エプロンをつけたままの彼を見つめていると、「あ、じゃあ、こっちを頼む。そっちは最後まで僕がやるよ」と、彼は取り込んでくれていた洗濯物を指差した。私は手を洗い、タオルで手を拭って、キッチンから出た。康徳さんから娘二人を引き継いで、入れ替わりに彼に調理を再開してもらう。
 私はテレビをつけ、子どもたちが興味を持ちそうな番組にチャンネルを合わせると、畳まれていない衣類に手を伸ばした。亜衣と映美はすぐにテレビに夢中になり、大人しくはないものの、自分たちだけで遊んでくれている。
 キッチンからは美味しそうなゴマ油と中華スープの匂いが漂ってくる。洗濯物を畳み終えたら、食器の準備ぐらいは手伝わなきゃ。週末の天気予報も、そろそろチェックしておかないと。半ば無意識に両手を動かしながら、この後の段取りに思考を巡らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...