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第二章
2-5.バルバラの企み
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そんな光景の一方で別の場所、学園での舞踏会が正式に決まったバルバラ・メルヴィンは、首尾よく計画を実行し始めていた。
バルバラの計画の成功の要はメルヴィン夫妻が握っており、夫妻が揃って家にいる必要があった。
そのため、バルバラはチャリティ活動の渡航から帰って来る日を待ち、家族での晩餐とその後の談笑を済ませると、一度部屋へ篭った。
「ようやく実行に移す日が来たのよ」
満面の笑みを浮かべて、バルバラは深夜になるのを待つ。
使用人も夫妻も寝静まると、深く深呼吸をした。
そして、叫ぶように声を上げる。
「お母様! お父様! 」
バルバラは動揺してパニックに陥ったような演技をしながら、夫妻の部屋の扉を開ける。
寝ぼけ眼ではあるが、娘のただならぬ気配に夫妻は驚いて目を覚ます。
「バルバラ、どうしたんだ! 」
「どうしましょう、わたくし、わたくし」
バルバラは膝をついて、混乱したような表情を作って見せる。
婦人はベッドから降りると、バルバラの背中を優しく撫でる。
「バルバラ、落ち着いて。何があったか話して頂戴」
「私、神さまからの神託を聞いてしまったのです」
「なんだって?」
メルヴィン卿は驚きに目を見張った。
もしこれを普通の娘が言った言葉であれば、メルヴィン卿もただの寝言だろうと深く扱うことはなかったが、目の前にいるのは黄金色の瞳を持った選ばれし子である。
いつか彼女が神からお告げをもらう日が来るのではないかと以前からささやかれていた。
「未来、国の母となりアストリア見守るようにと…。そう言われたのです」
「まさか」
夫妻は驚きに言葉を失う。
今までも神託はあったが、大抵が大聖堂の奥にある限られた者のみが入ることを許される神の泉の力を使って、神託は下されて来た。
長く聖女が不在の今は主に教皇を介して行われるものなので、仮にバルバラが聖女や特別な存在であったとしても、儀式前に一般の民へ神託が直接くだされるということは今までにないことでもあった。
「これは、急いで王と教皇にも報告しなければ」
メルヴィン卿は複雑な表情を浮かべると、宮殿と教会へ早馬の使いを出させた。
慌てて行動を始める夫妻に、バルバラは自作自演の嘘がうまくいったことに、ニヤけそうになり、口元を引き締める。
(持つべきものは権力と人脈のある家ね)
そして翌日、思惑通りにバルバラは宮殿に呼び出された。
謁見の間にはアストリア国の国王、ロベール・ターナーと、その隣には息子のルイもいた。
「久しぶりだね、バルバラ嬢」
ロベール国王は気さくに声をかける。
「陛下にこうしてまた謁見することができて、光栄ですわ」
「時に、そなたが神託を受けたというのは誠か? 」
「はい、大変恐れ多いのですが。国の母となって、アストリア国を見守るようにと、お告げを頂きました」
「国の母…」
ルイが呟く。
国王は興味深そうにバルバラを見つめる。
さすがルイの親というべきか、ロベール国王も笑顔を浮かべたその心のうちの表情は読めない。
「国母とは、皇后という意味だな」
バルバラは謙虚に「恐れ多くも」と答えつつ、ゆったりと微笑む。
(初めからこうしておくべきだったのよ)
バルバラは兼ねてから、皇太子であるルイとの婚約を取り計らってもらえるように、メルヴィン夫妻へ訴えていた。
しかしそれはらりくらりとかわされていて、話が夫妻で止まっているのか王族側で止まっているのかは分からなかった。
そうしている間にルイは成人を迎える年となり、バルバラは痺れを切らして、今回自分で動きを起こした。
「皇后だなんてとても大きな責任を感じましたが、大変に名誉なことに思います」
国王の瞳の奥が光る。
「バルバラ嬢、メルヴィン家は代々王族を支えて来てくれた貴重な存在だ。
そのメルヴィン家から神託を受けた国母が出るということは、非常に嬉ししいことに思う」
バルバラは思わず、笑みが溢れそうになる。
「だが」
国王は力強く言うので、バラバラは一瞬びくりと震える。
「これは私の一存で判断はできかねる。教皇とも相談をしたいと思っている」
「もちろんでございます。私も突然のことに戸惑っておりますので…」
バルバラはすぐに進まない話を残念に思うが、大きな前進に満足気な表情を浮かべる。
「では、私からの話はこれまでだ」
ああ、と思い出したように国王はルイに声をかける
「未来の婚約者候補と散歩でもしてきたらどうだ? 」
国王はなんとなしに、ルイを促す。
ルイは国王へ返事を返してから、バルバラの元へ行き王子の微笑みを作るとバルバラの手をとる。
その瞳の奥は、国王と同様に読み取れない。
しかし、バルバラは感無量といった感じで嬉々としてルイの腕に手を回した。
バルバラの計画の成功の要はメルヴィン夫妻が握っており、夫妻が揃って家にいる必要があった。
そのため、バルバラはチャリティ活動の渡航から帰って来る日を待ち、家族での晩餐とその後の談笑を済ませると、一度部屋へ篭った。
「ようやく実行に移す日が来たのよ」
満面の笑みを浮かべて、バルバラは深夜になるのを待つ。
使用人も夫妻も寝静まると、深く深呼吸をした。
そして、叫ぶように声を上げる。
「お母様! お父様! 」
バルバラは動揺してパニックに陥ったような演技をしながら、夫妻の部屋の扉を開ける。
寝ぼけ眼ではあるが、娘のただならぬ気配に夫妻は驚いて目を覚ます。
「バルバラ、どうしたんだ! 」
「どうしましょう、わたくし、わたくし」
バルバラは膝をついて、混乱したような表情を作って見せる。
婦人はベッドから降りると、バルバラの背中を優しく撫でる。
「バルバラ、落ち着いて。何があったか話して頂戴」
「私、神さまからの神託を聞いてしまったのです」
「なんだって?」
メルヴィン卿は驚きに目を見張った。
もしこれを普通の娘が言った言葉であれば、メルヴィン卿もただの寝言だろうと深く扱うことはなかったが、目の前にいるのは黄金色の瞳を持った選ばれし子である。
いつか彼女が神からお告げをもらう日が来るのではないかと以前からささやかれていた。
「未来、国の母となりアストリア見守るようにと…。そう言われたのです」
「まさか」
夫妻は驚きに言葉を失う。
今までも神託はあったが、大抵が大聖堂の奥にある限られた者のみが入ることを許される神の泉の力を使って、神託は下されて来た。
長く聖女が不在の今は主に教皇を介して行われるものなので、仮にバルバラが聖女や特別な存在であったとしても、儀式前に一般の民へ神託が直接くだされるということは今までにないことでもあった。
「これは、急いで王と教皇にも報告しなければ」
メルヴィン卿は複雑な表情を浮かべると、宮殿と教会へ早馬の使いを出させた。
慌てて行動を始める夫妻に、バルバラは自作自演の嘘がうまくいったことに、ニヤけそうになり、口元を引き締める。
(持つべきものは権力と人脈のある家ね)
そして翌日、思惑通りにバルバラは宮殿に呼び出された。
謁見の間にはアストリア国の国王、ロベール・ターナーと、その隣には息子のルイもいた。
「久しぶりだね、バルバラ嬢」
ロベール国王は気さくに声をかける。
「陛下にこうしてまた謁見することができて、光栄ですわ」
「時に、そなたが神託を受けたというのは誠か? 」
「はい、大変恐れ多いのですが。国の母となって、アストリア国を見守るようにと、お告げを頂きました」
「国の母…」
ルイが呟く。
国王は興味深そうにバルバラを見つめる。
さすがルイの親というべきか、ロベール国王も笑顔を浮かべたその心のうちの表情は読めない。
「国母とは、皇后という意味だな」
バルバラは謙虚に「恐れ多くも」と答えつつ、ゆったりと微笑む。
(初めからこうしておくべきだったのよ)
バルバラは兼ねてから、皇太子であるルイとの婚約を取り計らってもらえるように、メルヴィン夫妻へ訴えていた。
しかしそれはらりくらりとかわされていて、話が夫妻で止まっているのか王族側で止まっているのかは分からなかった。
そうしている間にルイは成人を迎える年となり、バルバラは痺れを切らして、今回自分で動きを起こした。
「皇后だなんてとても大きな責任を感じましたが、大変に名誉なことに思います」
国王の瞳の奥が光る。
「バルバラ嬢、メルヴィン家は代々王族を支えて来てくれた貴重な存在だ。
そのメルヴィン家から神託を受けた国母が出るということは、非常に嬉ししいことに思う」
バルバラは思わず、笑みが溢れそうになる。
「だが」
国王は力強く言うので、バラバラは一瞬びくりと震える。
「これは私の一存で判断はできかねる。教皇とも相談をしたいと思っている」
「もちろんでございます。私も突然のことに戸惑っておりますので…」
バルバラはすぐに進まない話を残念に思うが、大きな前進に満足気な表情を浮かべる。
「では、私からの話はこれまでだ」
ああ、と思い出したように国王はルイに声をかける
「未来の婚約者候補と散歩でもしてきたらどうだ? 」
国王はなんとなしに、ルイを促す。
ルイは国王へ返事を返してから、バルバラの元へ行き王子の微笑みを作るとバルバラの手をとる。
その瞳の奥は、国王と同様に読み取れない。
しかし、バルバラは感無量といった感じで嬉々としてルイの腕に手を回した。
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