全てを奪われた者

靴べら

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クソ女神

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「知らない天井だ……」

俺は目が覚めると見慣れぬところにいた。ここはどこなんだ……?

「ようこそ、選ばれし勇者ユウヤよ。あなたは世界を救う勇者として選ばれたのです。」

ふとそのような声が聞こえて俺はそちらをみる。するとそこにはとてつもない美女がいた。

「勇者……?それにあなたは……?」

俺はとりあえずはコミュニケーションを試みる。人見知りの陰キャの俺にしてはよくやった方だと思う。

「これはこれは……紹介がまだでしたね。私は女神、女神アニマです。貴方が行く世界は剣と魔法のファンタジーのような世界です。今のまま行ってもおそらく何もできずに殺されるでしょう。そこで貴方に魔王と戦えるように特殊な能力を授けようと思うのですが、どんなものがいいですか?希望があれば言ってください。これはあくまでも魂の格に見合ったものしか与えることは出来ませんので……それではまずは魂の格を調べさせて頂きますね。」

魂の格だの何だの言われても……ってちょっと待てよ?

「なぁ、魂の格とやらを見て選んだんじゃないのか?何で今調べる必要がある?それに何故俺が選ばれたのか。その辺の方を説明してもらえるか?」

おそらく神様転生みたいなものなのだろう。しかし……色々とお粗末すぎないか?この女神、もしかしてポンコツなんじゃ……?

「あ、あの……えっとですね……貴方が喋ってる間に魂の格を調べさせていただいたのですが……その、申し上げにくいのですがあまりに低すぎて……そ、その……すいません!実はくじ引きで適当に選びました!あ~もう、どうしよう……こんなに低い人がいるなんて……」

おい最後、小声で言ったようだが全て聞こえてるぞ。

「つまり……俺が行っても魔王を倒せる可能性はかなり低い……と?」

「……はい。」

こいつ……なんて事してくれたんだよ……

「てめふざけんなよ?いいから早く俺を地球に返せ!てか何でそんな重大な事くじ引きでやってるんだよ?馬鹿なのか!?馬鹿なんだな!」

俺はイラつきすぎてつい言いすぎてしまった。前の女神ももとい女が涙目でこっちを見てくる。

「……うぅ~~そんなに言わなくてもいいじゃない!もう地球に戻れないわよ。大体ね、あんたの魂の格が低すぎるのが悪いのよ!魂の格が低いのはそういうところよ!いつまでも他人の失敗をぐちぐちぐちぐち……寛大に許せる心を持ったらどうなの!?最低、あんたは最低よ!!」

事もあろうに逆ギレしてきたぞこいつ。

「いや……そもそも悪いのはお前だろ!?それに最低だ?最低なのはどっちだ?帰れないじゃなくて帰すんだよ!お前にはその義務があるだろ?違うか!?てか逆ギレしてんじゃねぇよ!」

「だからそういうとこよ!!魂の格が低いのは!さっきから謝ってるじゃん!!許そうとか思わない訳!?」

「許す気になるかだって?全くならないな!……そういえばどうやって俺をこっちに連れてきたんだ?」

戻れない理由なんて一つだろう、考えたくはないが死んでいる……そう考えるのが最も自然だ。

「えっとそれは……聞かない方がいいと思うわよ?」

こいつ……急に顔色悪くなったが……まさか殺して連れてきた、なんて言わないよな……?

「いいから言え、まさか「殺して」何てことはないよな?」

「いや……あの、ね?その……ごめんなさい!貴方に雷を落として連れてきました!!」

怒りを通り越して呆れてきたよもう……

「はぁ……もういい、それで?俺の魂の格とやらでできる願いはなんだ?」

いつまでもグダグダやっててもしょうがないしな。

「許して……くれるの?」

泣きそうな目で見てくる。やばい、すごいムカつく。

「いや、絶対に許さん。こればかりは絶対に。勝手に殺されて、勝手に連れてこられて、挙げ句の果てに魂の格が最低でした?許せると思うのかお前は?俺には無理だね!」

やっぱこいつアホだろ。

「な……!何よ!許してくれてもいいじゃない!!」

「はいはい、てか話が進まないんだけど。早くしてくれないか?こっちも暇じゃないんだよ。暇だけど。」

「何なのよもう!えっとね……あんたの魂で受けられるのは……その、がっかりしないでね?パラライズっていう相手を麻痺させる能力と……全能力アップ(小)よ。」

「え……?それだけか?」

「ええ、それだけよ。」

俺たちの間に沈黙が走る。かなりショックだ。

「な、なぁ……俺の魂の格ってどんなもんなんだ…だ?」

聞きたくないが……確認はしておいた方がいいだろう。

「そうね……まず世界で一番低いわ。創造神の私が知る中ではダントツトップよ。というか貴方を見るまでここまでひどい人何て見たことない。……例えるなら悪魔レベルだわ。」

「え?ちょっと待て、俺よりクズなんていっぱいいるぞ?俺は文字通り何もしてないぞ?働いてもいないが犯罪だって犯してない。何で俺が犯罪者とか色々いる中で最下位なんだよ!!」

流石にそこまで低いとは思わなかった……

「あのね、魂の格っていうのは顕在的なものじゃなくて潜在的なものなの。それに犯罪だの何だのっていうのはあくまで人が定めた法のもと決められるものでしょう?魂には全く関係ないわ。」

要するに生物としてのレベルそのものが最底辺っていうことか……

「もういい……それぞれの恩恵について教えてくれ……」

俺は失意のままクソ女神に聞く。

「それじゃあまずはステータスアップ(小)についてね。あらゆるステータスを2倍にしてくれるわ。ちなみにあなたの平均は農民の平均と同じくらいだからせいぜい強くなっても農民の2倍ってところね。」

せいぜい農民の2倍って……どうやって生きてきゃいいんだよ……

「いや、大差ないじゃん……まあいいや。んで?もう一つのパラライズだっけ?それについて教えてくれよ。」

まだ聞いてないが選んでようやく平均ってくらいなら何か一つ特殊技能をもらう方がいいだろう。

「パラライズっていうのは本来はもっと強い人に渡すものなんだけどねぇ……あたしが雷落としたせいかしら?なぜか適応してるのよ……まあそれはいいわ。能力についてだけど貴方の能力値が相手の能力値を何か一つでも上回っていれば強制的に麻痺させることができる力よ。」

ん?ちょっと待てよ?何か一つでも上回ってたらって……俺詰んでんじゃん。

「まあどっち選んだところで貴方の能力値だったらすぐ死ぬと思うわ。そこで大サービス!私が直接加護をかけてあげるわ!もともと悪いのは私だし……」

「加護もらったらどうなるんだ?魂の格でも上がるのか?」

てかこいつからの加護って……さっきのポンコツ具合見た後じゃ何も嬉しくねぇ…………

「いいえ、魂の格そのものは上がらないわ。それはもう定められたものだからね。私の加護を受けられれば死んでも生き返れるわよ!ついでにレベルも1上がるわ。まあ最もレベルが上がっても大したステータスにはならないと思うけどね。」

うん……?ちょっと待てよ?

「なぁ、パラライズってレベル含めて相手のステータスに何か一つでも勝っているっていうのが発動条件なんだよな?」

「ええ、まあ貴方が相手に何か一つでもステータスで勝てるっていう状況がまず起きないと思うけどね。」

「それじゃその世界での最高レベル保持者は?」

「そうねぇ……最高は今現在で238といったところね。マックスは300よ。ただ100毎に上限解放の儀式が必要になるの。まあ異世界人には関係ないわね。上限なんてないのだから。」

これはまだチャンスはあるな。でも全ての人間に勝つには最低238回死ななきゃいけないのか……

「あ、パラライズは一回の発動につき一人にしかかけられないわ。複数人に発動する場合は一人ずつに詠唱しなきゃいけないわね。」

つまり複数人に襲われたら詰み……と。犯罪だけは起こさないようにしないとな。

「それじゃパラライズでお願いします。最初はどこに転移するんだ……ですか?」

仮にも女神だ。敬意を持って接しなければな。

「最初は何もない草原に転移するはずよ!北西に5キロくらい歩けば街に着くはず!それじゃ能力付与するからちょっと待ってね!」

そう言って女神は何かを唱え出した。うん、なんて言ってるのかまるでわからない。向こうの言語だろうか?

「よし!これで終わったわ!パラライズが貴方の魂に刻まれたわよ!それじゃ次は転移ね、ちょっとそこに立ってて。」

そう言ってまた女神が何か唱えだすと次は俺の足元が光っている円?みたいなものが出てきた。

「それじゃ頑張って生き残ってね!80年後にまた会おう!……あれ?あ……まあいいか!君との再会は近そうだよ。それじゃ、また後で……ごめんね!」

何を言ってるんだこの女神は。

「ちょ、どういうこと…って待て!!」

最後まで言い終わる前に俺の体は光に包まれ次に光が収まったときには神の世界から姿を消していた。



「……おいクソ女神、これはどういう状況だ?」

俺、田中勇也は目の前のクソ女神に力を貰って異世界に行った……はずだったのだが何故か今またクソ女神の前に戻ってきている。何故か……と聞かれると難しいな。全ては目の前のクソ女神のせいなのだから。聞くならそちらに聞いてほしい。

「ごめんね、転移前にも言ったでしょ?多分早い再会になるよ!って。ほら!言葉通りでしょ?だって私は神だものね!」

こいつ……人を二度も殺しといて……!今日という今日は絶対ゆるさねぇ!!

「言い訳はいいんだよ言い訳は!何で!転移した先が!戦場真っ只中なのか説明しろ!!転移した瞬間、どうやってかは知らんが死んだんだぞこっちは!何が「だって私は神だものね!」だ!!神ならか弱い人間を戦場真っ只中に送るな!馬鹿じゃねぇのか!?」

もう我慢の限界だ。今日という今日は許さん。

「座標設定間違えちゃったの!しょうがないでしょ!?複雑なんだから!!」

こいつ……何で人を殺しておいて言い訳できるんだよ……?

「言い訳してんじゃねぇ!!お前は!2回も俺を殺してるんだよ!!何か詫びの品とかはないのか!?てか全能力アップ(小)もよこせ!!」

これくらいの要求は許されてもいいだろう。1回目はこいつ自身に殺されて2回目もこいつのミスで殺されてるんだ。

「それはダメよ!神界規定で決まってるの!!一人一個までだって!大体ね、私の加護だって結構グレーゾーンなんだから!これ以上施すと私が怒られちゃう!」

「怒られちゃう?つまりは出来るんだな?やれ!今すぐにだ!!お前が怒られるとか知ったこっちゃねぇよ!!てか今すぐ怒られろ!てかお前創造神じゃないのか?誰がお前に怒るんだよ。」

そうだよ、創造神なら一番上の筈だろ?まあこいつなら部下に舐められててもおかしく無いけど。

「それは……部下のミエルちゃんが……」

「私がどうかしましたか?」

クソ女神……いや、アニマが「ミエルちゃんが……」と言うと上からすごく可愛い女の子が降りてきた。

「あら?その方は……?アニマ様、これはどう言うことでしょうか?」

現状をどう解釈したのかは知らないがミエルさん?がクソ女神に向かって怖い顔をしていた。

「それに関しては俺から話すことにするよ。」

クソ女神に任せるよりは俺が話した方がいいだろう。そう考えて俺はミエルさんに事の顛末を話す。

「なるほど……今回に関しては全てアニマ様が悪いです。大体ね、何でそんな重要なものをくじ引きで決めるんですか!?馬鹿なんですか?馬鹿なんですね!」

おーあの天使さん俺と全く同じ反応してる……なんか運命を感じるな。

「うぅ~~そこまで言わなくていいじゃない!それにさっきユーヤ君からも同じこと言われたし!そんなに責めないでよ!」

「それならどうすればいいのか……もうお分かりですね?」

おー怖……これじゃどっちが上なのか分からないな。

「はい……全能力アップ(小)も差し上げます……これでもう許して!これ以上上げられるものなんて体しか……」

「おぞましいことを言うなよ!誰がいるか!人の事2回も殺しやがって!!天使さん、こいつこっぴどく叱っといて下さい!」

俺がこう言った時クソ女神は世界の終わりとでも言うような顔をしてたそうだ。ざまあみろ。

「はい、お任せください。それでしたらすぐに能力の付与と転生まで行っちゃいましょうか。」

天使様がそういいクソ女神と一緒に作業を始める。そして一通り終わったようだ。また俺に同じ場所に立ってるよう指示して魔法陣のようなものが作動した。今度は正常に作動するといいが……そんなことを思いながら俺は光に包まれ姿を消した。

俺が完全に消えた後にクソ女神が天使様に引っ張られて連れて行かれたのはまた別の話……
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