全てを奪われた者

靴べら

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世界の終わり

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「収納魔術収納魔術……やっぱないかぁ……」

俺は闇魔術を超級まで覚えたもののいまだに収納魔法を見つけられずにいた。無駄にSPだけを使ってしまった感じか?

「はぁ……ステータス」


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名前:勇也 Lv.22

霊装:???

種族:ヒューマン

術技 なし

魔術 各属性初級魔法 ライトニング ストーム ダークボール ブラックアウト ブラックボックス

魔法 召喚魔法

特殊 ロブ パラライズ

敏捷性2381 魔力1741 体力2228 攻撃力1714
防御力1776

SP27

アイテム

天使の導き


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SP残り27か……さて、もう一つ中級魔術を取得するか。炎中級魔術【黒炎】か……よし、これにしよう!

しかし残りSP7か……また貯めないとな。

「また狩りに行くか。盗賊がいればいいが」



「おいにいちゃん。ここ通りときゃ金だしな」

うん、いた。なに?盗賊ってゴキブリみたいに湧いてくんの?まあ今回は3人だから大した収穫にもならないだろうけど……て言うかなんで3人で止まると思ってんだ?一人一人がなかなか強いとかか?

「【パラライズ】」

「ぎゃっ!?」

一人が間抜けな声を上げて倒れる。残りの二人にも同じようにパラライズをかけて全員を無力化することに成功した。

「【ロブ】【ロブ】【ロブ】」

やっぱり格下相手なら最強だなこれは。

「さて……ステータス」

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名前:勇也佐藤  Lv.22

霊装:???

種族:ヒューマン

術技 なし

魔術 各属性初級魔法 ライトニング ストーム ダークボール ブラックアウト ブラックボックス 黒炎 ライトアロー

魔法 召喚魔法

特殊 ロブ パラライズ

敏捷性3328 魔力2634 体力3610 攻撃力2649
防御力2717

SP26

アイテム

天使の導き

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あいつらは意外とステータスは高かったようだ。それにしてもこの世界の基準では強いのはどこからなんだ?

ん?ライトアロー?もしかして魔術も奪えるのか?

まあ色々言っててもしょうがない。とりあえずこいつらにまた賞金がかかってないように確認しよう。結構ステータス高かったっぽいしかかってるとは思うけどな……冒険者が盗賊に堕ちたとかの可能性もあるか。

まあもう死んでるんだ。どんな事情があろうが関係はない。

手配書みたいなものが貼ってあったから確認してみたがこの3人の顔はなかった。賞金がないのなら放置でいいだろう。その場で焼却して場を去った。



そこから数ヶ月。俺は毎日狩りに出かけモンスターやら盗賊やらからステータスを奪ってきた。あの後は驚くことに盗賊には全然当たらず狩れたのは一組だけだ。規模は15人とそれなりではあったが。そのかわりコボルトやらオークやらをたくさん狩りそれぞれ100体近くに達するだろう。

後あった変化といえば街に溶け込めたことくらいだろうか。毎日依頼をこなすもんでなかなか感謝されているらしい。歩いてるだけでも結構声をかけられるようにまでなった。一躍時の人って訳だ。

「ステータス」

この数ヶ月間は見るのを控えてたからどんだけなってるか楽しみだ。

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名前:勇也 Lv.51

霊装:???

種族:ヒューマン

術技 剣術

魔術 各属性初級魔法 ライトニング ストーム ダークボール ブラックアウト ブラックボックス 黒炎 ライトアロー

魔法 召喚魔法

特殊 ロブ パラライズ

敏捷性10160 魔力10016 体力12715 攻撃力10802
防御力9021

SP176

アイテム

天使の導き

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おお!ついに魔力が10000超えたぞ!これでライムを呼び戻せる!

「【召喚 ライム】」

すると俺の前が光だし次に光が収まった時にはこの世界に来たばかりの時に会い一時は共に旅をしたスライムのライムが鎮座していた。

「久しぶりだなライム!」

俺がそう言うとライムは全身を大きく広げ俺にまとわりついてくる。なんだ?スライムなりのハグか?

「そんなに会いたかったのか!悪かったな、呼ぶのが遅れちまって。」

しばらくするとようやくライムは離れて俺の前に座る……座る?さて、ステータスはどうなっているのか。そう思い俺はライムの名前を押す。

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名前:ライム Lv.35

種族:スライム 

魔術 無属性

術技 捕食

特殊 反射

耐性 物理攻撃耐性 魔力攻撃耐性

生命力1004 攻撃力1116 魔力2320 防御力2147

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おお!結構強くなってるな。というか無属性ってなんだ?

俺は魔術の項目にある無属性をタップする。

《無属性魔法》

一部魔物が所有している属性。主には収納など。

あった……収納魔術。やっぱりこれからもライムは重宝しよう。一瞬ライムも食らえば収納魔術が手に入るんじゃ……なんて思ったのは気のせいだ。

「まあなにはともあれこれからよろしくな!」



少し前に食らってやろうと思った人間が殺されてから数ヶ月。急に何かに呼ばれる感覚がして次の瞬間には知らぬ場所にいた。目の前には何故か死んだはずの人間がいる。何故生きている、なんていう疑問も浮かんだがそんなことはどうでもいいだろう。とりあえず食らってやる。そう思い俺は人間に飛びつき自分の体でその人間を覆った。

……なんなのだこの人間は!この我とて結構な魔物を食らった筈だが……何故喰らい尽くせない!?いや、喰らい尽くせない理由など一つだろう。相手が己より強い、ただそれだけだ。まずい……殺される。

そう思っているとなにやら一人で考え込み急に我に「これからよろしく!」などと言ってきた。ククク……まあいい。今は貴様の方が強くても貴様が倒していった魔物を全てくらい最後には貴様すら喰らってやろうぞ!

スライムは密かにそう決意したのだった。



ライムをこちらに呼んでから1日が経った。今日も今日とてフィールドに出ていた訳だが……いつもと様子が違う。なにやら魔物、動物、そして自然までも何か慌てているような空気だ。何故かライムすら震えている。いったいなんなんだ……

すると西の方から街に向かう1匹の龍が見えた。

「あれはやばい…………!レイン、みんな……!」

俺は街に残っている冒険者の友人、そしてこの街で色々教えてもらったレインの身を案じ急いで街に戻る。

そして街に戻った俺の目に入ってきたのは逃げようとしている馬車を引いているレインに向かっている炎だった。

「【ストーム】!」

俺はレインと馬車に向かい一直線にストームを放つ。そして吹き飛んだレインの元に向かう。

「大丈夫か!?」

「え、ええ……なんとか……ありがとう……」

「それで、他の奴らは?」

俺は姿が見えない冒険者や住民の心配をする。

「それが……」

レインが言うには女子供を逃し男は皆竜に向かっていったらしい。

「それならレインだけでも早く逃げろ!俺はあいつを足止めする!」

「でもユーヤは!?」

こんな状況なのに俺の心配か。

「俺なら大丈夫だ、すぐ追いつく。だから早く行ってくれ!」

そう言ってレインを急かす。早く行ってもらわないとな。街の中の救助もできない。

俺の他の冒険者達もこんな感じだったのだろうか。

「【パラライズ】」

当然効くわけもなくドラゴンは平然としている。

「黒き炎よ。強き風よ。今この瞬間ときに交わりて我が敵を閉じ込める檻となれ!【黒炎旋風】」

しかしこれも対した効力を発揮せず龍に破られてしまう。一回の羽ばたきで壊すとか反則だろ……

そして龍は吠えたかと思ったら炎を吐き出す。俺に向かってくるかと思われた炎は俺を通過し俺の後ろに着弾する。

「レ……イン……?」

急いで後ろを振り返るがレインの姿はそこにはなく代わりにあったのは焼けた大地と馬車だった何かだけだ。

レインが、みんなが死んだ。あの龍が殺したんだ……俺は……守れなかった……!殺してやる……!

本当に悪いのはあの龍なのか?守れなかったお前こそが諸悪の根源だ。

憎しみに燃えていると何処からか声が聴こえてきた。

うるさい。だまれ。悪いのはあの龍だ。俺は何にも悪くない。

そうだ、俺は悪くない。

本当に?お前がもっと気を引いていれば良かったんじゃないか?体を張ってあの炎を受け止めたら良かったんじゃないか?ああしておけば……こうしておけば……たらればだ。だが全部実行しなかったお前が悪い。

尚も声は俺を責め立ててくる。

違う!悪いのはあの龍だ!そもそもあの竜が来なければ俺はいつも通り楽しく街の奴らと話して……レインと話して……魔物から奪って……そうだ。いつもの日常が続いてたんだ。俺から全てを奪ったのはあいつだ。あいつが悪い!殺してやる……!

違う。悪いのは奪ったあいつであり奪われたお前だ。奪うことは罪。されど奪われることもそれまた罪。お前の罪はなんだ?弱いことだ。それだけの力を持ちながら誰一人守れない。力なきこと、そして力の扱いを知らぬことはこれまた罪だ。

いくら弁明しようとしても声は全てを否定してくる。

悪いのはあいつ……だが俺だ。俺も悪いしあいつも悪い。いや、この世界自体が悪いんだ……殺してやる。完全に消し去ってやる。

それがお前にできるのか?その奪い飾ったステータスで。

声はそれができるのかと聞いてきた。

できる。

どうやって。

そうだな……全てを奪えばいい。

クハハハ……お前にそれができるのか?

出来るできないじゃない。やるんだ。力を寄越せ……!

クハハハ!!傲慢なやつよ。いいだろう。我が力、貴様へと分け与えてやる。叫べ!我が名を!我が名は———!

俺の中のなにかがそう言うと頭の中に何かが浮かんできた。

「我が魂に宿りし虚飾の悪魔よ。主あるじたる我が命ずる。我が矛となりて現界せよ。【霊装 イリテュム】」

ああ……そうか、ずっと俺の中に居たんだな……

「死ね。完全に消え去れ」

俺は何度も何度も龍を斬りつける。縦に、横に、上下に。何度も繰り返し斬り尽くした。

龍が悲痛の叫びをあげる。

「いい気味だ……もっと聞かせてくれよ……!」

ああ……これが奪うって言う感覚か……文字通り魂までも。ハハハハ!最高にいい気分だ!……あれ?おかしいな。レインが、街のみんなが死んで悲しいはずなのになんでこんなに高揚してるんだ……?

俺ハ貴様ガ存在シタ事スラ許サナイ。

そして俺は落ちた龍に剣を突き立てて唱える。

「全てを、存在すら奪い尽くせ。【デートラヘレ】」

文字通り龍は俺の目の前から消えた。

グ……ッ!ハハ……最高だ!!

龍という存在そのものが俺の中に入ってくるような感覚だ。少しふらついてしまう。

あとは……あれ?何をするんだっけ?ああ。そうだ。世界を、俺を滅ぼすんだ。

「欠けらすら残らず我が内へと奪われろ。【プロメテウス】」

いい……実にいい。あらゆる魔術から魔法に至るまで、技術までも全てが入り込んでくる!これから死ぬのだから意味はないけどな。ごめんな、レイン。

俺は己の胸に刀を突き刺し唱えた。

「奪い尽くせ【ロブ】」

唱えるや否や目の前が真っ暗になり意識が朦朧としてきた。最後に残ったのは罪悪感ではなく高揚感だった。

やっぱり壊れちまったのかな……ああ、また奪いたい。

その思いを胸に俺の意識は闇へと葬り去られていった。
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