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序章:混沌に帰す者
File 02:首輪に従う黒狗-7-
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その説明によれば、まずここはかの有名な自由国家・アミティエの国防を担う第三師管区総司令部であるという。そこには国家非公開の軍事主力部隊・K-9sが所属し、そのK-9sを構成するのが、少佐のような第一級接触禁忌種と呼ばれる生体兵器やそれに準ずる生命体なのだとか。K-9sという組織自体は現状第三師管区総司令部に限ってのみ設けられ、各国の各師管区総司令部には存在し得ない極貴重な精鋭部隊らしい。一部隊三人一組で構築される全十部隊の軍人達は、「人類史上最強の歩兵部隊である」とも語る桐生氏。世間一般的に隠匿された存在でありながら、強靭な部隊配備を為す自らの陸軍を誇らしげにする彼は、そうして莞爾として笑んだのだった。
「つまり僕はK-9sの内部調査を行う密偵として過ごしながらも、K-9sの保護対象という名目で彼らの下に配属される、ってことで相違ないですか?」
「無事理解が追い付いている様子で安心したよ。さあ、次は何について話そうか?」
桐生氏の懇ろな解説に「なるほど」と相槌を打っている隣で、ルベルロイデ少佐は煩瑣極まる言論の応酬にうんざりした様子でいた。大変申し訳ないのだが次は禍津子侵蝕者について詳説してもらうつもりでいる――つまり少佐殿には十中八九長丁場になるであろう質疑応答の盤面にご同席頂く必要があるという訳だ。まあ往年の悶着で行使された暴力の代償とでも思ってくれ、とばかりに僕は彼個人の都合など一切気に留めず疑義を紐解いていく。
「では、次に禍津子侵蝕者について教えて頂けますか?」
「ああ、構わないよ」
侵蝕者、それは現在知られている人間の変死に大きく関与する、人類の敵ともいうべき超危険生命体――つまり厄災の使者・禍津子である。その正体は杏病原体と呼ばれるウイルス特有の侵蝕因子であり、有機物・無機物を問わず侵食するものらしい。杏病原体の侵蝕因子はそれらを侵食した後全てを支配下に置いて活動力を与えると、更に侵食を進行させんと周囲に見境なく害を為すものであるのだそうだ。そう、それはまるで水や風などの外的営力が岩石や地層を削っていくかのように。そしてそれを討伐するために組まれた部隊こそが、K-9sであると桐生氏は語った。
「ハチ。言い忘れていたが一つだけ注意して欲しい。それは今君の質問に応じている解が、世間や殆どの軍属に認知されてはいけない秘匿情報であり、一般的に緘口令が敷かれている、ということだ。相手が軍人だからと言って不用意に発言するのは今後慎まなければならない、ということを、重々承知してくれ」
つまり、K-9sの事実上の存在意義も侵蝕者の存在も国民や軍部下層には周知されていない存在だと、桐生氏は丁寧に解説をしていった。但しK-9sという部隊そのものは軍部全体に広く認知はされているものの、それは飽くまで特殊精鋭部隊という認識で侵蝕者殲滅に大きく貢献していることまでは聞き及んでいないらしい。
これらを隠す理由があるとすれば、それは国民の混乱を回避するため。何故なら、侵蝕者はその侵蝕する特性から現存するあらゆる兵器が通用しないため、人類に太刀打ちする術が残されていないからだ。加えて杏病原体に感染すれば、まず即死若しくは人間性の喪失がほぼ確定で訪れるという――所謂恐慌状態を招く危険性すら孕む。
しかし、唯一第一級接触禁忌種の血液を媒体とした遠近を問わない直接攻撃が有効とされる中、彼らK-9sの実用性は大きく評価された。特に、血を媒介して攻撃を繰り出す鉤爪式の軍器である血晶刃や、侵蝕者の杏病原体の侵蝕因子による体内侵蝕から身を守るガスマスクである虚飾面がバトルプルーフされてはいるものの、第一級接触禁忌種の血液を用いた戦闘という面においては、衛生面での問題視が拭えないため、一般人がそれらを用いて戦闘に参与するというのはあまりにも非現実的な懸案事項であろう。
国民はそれすらも認知していないのが現状ではあるが、対抗手段のないものを公開してパニックを招くぐらいなら、粛々とK-9sが未解決事件を追跡する方が現実的なのは明らか。故に、現状人間側に保持された侵蝕者の対抗手段をK-9sが影から代行して講じている、という訳だ。
「――一つ質問なんですが……」
「許可しよう」
「つまり僕はK-9sの内部調査を行う密偵として過ごしながらも、K-9sの保護対象という名目で彼らの下に配属される、ってことで相違ないですか?」
「無事理解が追い付いている様子で安心したよ。さあ、次は何について話そうか?」
桐生氏の懇ろな解説に「なるほど」と相槌を打っている隣で、ルベルロイデ少佐は煩瑣極まる言論の応酬にうんざりした様子でいた。大変申し訳ないのだが次は禍津子侵蝕者について詳説してもらうつもりでいる――つまり少佐殿には十中八九長丁場になるであろう質疑応答の盤面にご同席頂く必要があるという訳だ。まあ往年の悶着で行使された暴力の代償とでも思ってくれ、とばかりに僕は彼個人の都合など一切気に留めず疑義を紐解いていく。
「では、次に禍津子侵蝕者について教えて頂けますか?」
「ああ、構わないよ」
侵蝕者、それは現在知られている人間の変死に大きく関与する、人類の敵ともいうべき超危険生命体――つまり厄災の使者・禍津子である。その正体は杏病原体と呼ばれるウイルス特有の侵蝕因子であり、有機物・無機物を問わず侵食するものらしい。杏病原体の侵蝕因子はそれらを侵食した後全てを支配下に置いて活動力を与えると、更に侵食を進行させんと周囲に見境なく害を為すものであるのだそうだ。そう、それはまるで水や風などの外的営力が岩石や地層を削っていくかのように。そしてそれを討伐するために組まれた部隊こそが、K-9sであると桐生氏は語った。
「ハチ。言い忘れていたが一つだけ注意して欲しい。それは今君の質問に応じている解が、世間や殆どの軍属に認知されてはいけない秘匿情報であり、一般的に緘口令が敷かれている、ということだ。相手が軍人だからと言って不用意に発言するのは今後慎まなければならない、ということを、重々承知してくれ」
つまり、K-9sの事実上の存在意義も侵蝕者の存在も国民や軍部下層には周知されていない存在だと、桐生氏は丁寧に解説をしていった。但しK-9sという部隊そのものは軍部全体に広く認知はされているものの、それは飽くまで特殊精鋭部隊という認識で侵蝕者殲滅に大きく貢献していることまでは聞き及んでいないらしい。
これらを隠す理由があるとすれば、それは国民の混乱を回避するため。何故なら、侵蝕者はその侵蝕する特性から現存するあらゆる兵器が通用しないため、人類に太刀打ちする術が残されていないからだ。加えて杏病原体に感染すれば、まず即死若しくは人間性の喪失がほぼ確定で訪れるという――所謂恐慌状態を招く危険性すら孕む。
しかし、唯一第一級接触禁忌種の血液を媒体とした遠近を問わない直接攻撃が有効とされる中、彼らK-9sの実用性は大きく評価された。特に、血を媒介して攻撃を繰り出す鉤爪式の軍器である血晶刃や、侵蝕者の杏病原体の侵蝕因子による体内侵蝕から身を守るガスマスクである虚飾面がバトルプルーフされてはいるものの、第一級接触禁忌種の血液を用いた戦闘という面においては、衛生面での問題視が拭えないため、一般人がそれらを用いて戦闘に参与するというのはあまりにも非現実的な懸案事項であろう。
国民はそれすらも認知していないのが現状ではあるが、対抗手段のないものを公開してパニックを招くぐらいなら、粛々とK-9sが未解決事件を追跡する方が現実的なのは明らか。故に、現状人間側に保持された侵蝕者の対抗手段をK-9sが影から代行して講じている、という訳だ。
「――一つ質問なんですが……」
「許可しよう」
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