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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/集結編

Part20 悪魔と悪夢と/ロシアからの報せ

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 蒼白な表情で振り向く3人からの反応を待たずして、ホプキンスはレストルーム内のオートメーションシステムへと命じた。
 
「カレルからの保留回線を壁面ディスプレイに繋げ!」

 するとこのレストルームスペースに備えられた自動化システムの一つであるオフィス向けのオートメーションシステムが音声認識をして、その部屋の壁面いっぱいに広げられていたパネルスクリーンをテレビ電話モードで回線接続して映し出す。そこにはとある私設研究室のですから通信してきたマーク・カレルの姿が有った。有明事件での深手も癒えてすっかり回復している。
 ネクタイに背広姿であの特徴的な丸メガネ。片手の義手を隠すための革手袋。そこにくつろいだ雰囲気はない。むしろ緊迫した雰囲気すら有る。おちついた低いトーンの声でカレルは話しかけてくる。
 
「チャールズ! ランチタイムだが少し時間を借りるぞ」
「どうしたカレル。何が有ったんだ?」

 ガドニックからの言葉にカレルはキーボードのキーを叩きながら話し始める。
 
「この映像を見てくれ」

 カレルがコンソールを操作してガドニックたちの居るレストルームの巨大壁面ディスプレイに表示させた物、それはあの東京アバディーンにて繰り広げられているグラウザーたちの苦闘の望遠映像だ。今まさにグラウザーとベルトコーネが、そして右腕の粉砕されたセンチュリーの姿が有る。
 センチュリーはいつものプロテクター姿をオフにして素顔を晒した偽装スタイルをしているが、彼がセンチュリーである事は、この部屋に居る彼らならすぐに分かることだ。そしてそれを庇うように全身を駆使して戦っているのがグラウザーだと言う事もだ。
 最初に口を開いたのは、あの第2科警研でのパーティーの席で大田原を交えてセンチュリーたちと会話をしていたタイムだった。
 
「セッ、センチュリー! 嘘だろう?!」

 複数の静止画の望遠映像とは言えセンチュリーが絶体絶命の状況下だということはすぐに分かる。そして次に驚きの声をあげたのはトムである。
 
「それにあれは――ベルトコーネじゃないか! なぜこんな所に?!」

 その2人の混乱を察してガドニックがカレルに問いかけた。
 
「カレル、詳細について聞かせてくれ」

 ガドニックの求めに応じてカレルが頷く。

「これは私がコネクションを持つとある場所からのホットライン映像だ。まだ非公式折衝の段階なんだが、現在、日本の警察各部署と、英国スコットランドヤードや英国軍対機械化テロ対策部との間で共同でテロ対策を行うためのプロジェクトが進んでいる。そのラインからの提供映像だ。今から5分ほど前の映像だ。日本の東京の洋上の埋め立て市街地にベルトコーネが出現、スラム化した市街区において破壊活動をはじめたそうだ」

 カレルの説明にホプキンスが頷く。

「あの暴走マシーン、まだ殺し足りないらしい。不法滞在外国人の多いエリアに現れてよりによって外国人孤児の居るエリアを襲ったそうだ。死傷者は不明で、駆けつけたグラウザー君とセンチュリー君がこれと戦闘を行ったが、見ての通りセンチュリーが負傷、警察本隊からの支援が間に合っていない状態だそうだ」
「そんな――僕たちブリテンと無関係な孤児を襲ったのか? アイツ?!」

 悲痛な声を上げて驚いているのはトム。
 
「そこまで堕ちたかあのデク人形!」

 言葉も荒く怒りを露わにしているのはタイムだ。そして要件について説明すべくホプキンスが言葉を続ける。
 
「この件でカレルが話があるそうだ。聞いてくれ」

 ホプキンスの言葉に皆が沈黙してスクリーンの向こうのカレルに視線を向ける。それを受けてカレルは頷きながら話しはじめた。
 
「私は個人的なコネクションからロシアの連邦保安庁のFSBの人間と交渉を持つことができた。その席であのディンキー・アンカーソンのロシア国内での活動被害状況について開示してくれるように長期間に渡り交渉を続けてきたんだ」

 驚くような告白にガドニックが思わず不安を口にする。
 
「FSBだと?! おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫だ。今のところはな。それにディンキー・アンカーソンの件にのみ交渉を絞り、それ以外の事はタッチしないと言う条件で交渉してきた。向こうさんの機密情報の取扱に対しても最新の注意を払っている」
「そうか。それならいいが。決して無茶はするなよ」
「忠告ありがとう。旧社会主義国家を相手にする時は、自由主義国での常識が一切通用しないのは分かってる。十分に気をつけるさ。それで本題なんだがロシア国内でのマリオネット・ディンキーの活動について調べていてとんでもないことが解ったんだ」

 カレルはガドニックたちの反応を待たずに続ける。
 
「私は長年に渡り、マリオネット・ディンキーのテロ活動実績についてフィールドワークを続けてきた。自分自身で調査したり、調査データを持つ組織や機関、あるいは国家や団体などとコンタクを続けてきた。それと言うのもマリオネット・ディンキーのテロ被害については極秘として未開示のままとしてある所が非常に多いからなんだ」

 カレルの言葉にガドニックが頷く。
 
「確かに」
「だが、それも長年の交渉とディンキー自身がすでに死亡していて、集団でのテロ活動の可能性がありえないこと。さらにはディンキーの背後組織であった〝ガサク〟にディンキーの保有技術が流出した可能性が高いことなどから、わたしの研究データの提供を条件に極秘データの開示を求めてきた。その中であのベルトコーネの暴走案件を最も多く経験し、前線部隊が何回も壊滅しているのがかのロシア連邦だ。私はそこにこそディンキーのマリオネットたちの活動実態があると確信して粘り強く交渉を続け、その一部開示を取り付けることに成功したんだ」
「本当か? カレル?!」
「あぁ、嘘は言わんよチャールズ。私の研究活動の最大の成果だ。だが提供されたデータを分析していてとんでもない事が解ったんだ」
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