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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part31 シャイニングソルジャーズ/命を救う者
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「見えた――」
そうつぶやくフローラの視界の先に見えてくるのは、猥雑な瘴気を立ち上らせる魔窟の洋上楼閣都市である。その中央部に金色に輝く200m規模の高層ビルが立ち、その周囲を100mから150m程度の高さのビル群が魔王の城のように群塊を成していた。
「あそこにお姉ちゃんたちが――」
はやる気持ちを制しながらフローラは光学視界を精査した。
【光学視界システム・モード修正 】
【暗視レベル 〔+2.4〕 】
【望遠倍率 〔×100〕 】
まずは視認を試みたのは市街地の真上、高層ビルの上層階辺りから地上500m程度の空間だった。そこに何か異変がないかを確かめようとしたのだ。
爆発、火災、それに伴う黒煙や異常発光――、事故や災害の発生の可能性を考慮したのは消防レスキュー用途のために産み出されたフローラならではの判断だった。
「火災は――無いみたい。でも――」
確かにビル火災のたぐいはビルエリアでは発生していない。だがそれとは異なる異変をフローラはその目で見つけていた。
「なに? あの黒いカラスの群れみたいなの?」
カラスの群れ、そう形容するにふさわしい光景だった。漆黒の何かが無数に群れながら密集して飛び回っている。それはまるで獲物を弄ぶ猛禽類のようであり、餌を求めて廃棄物をあさる都会のカラスの群れのごとしだ。
そしてその黒い群れの中の中央に〝彼女〟の姿を見つけることとなる。
「あれ? 何か白い物がいる。かもめ? じゃないもっと大きい――」
そうつぶやいた時、炸裂したのは眩いばかりの光を伴った爆発だった。電子励起爆薬――、フィールが使うダイヤモンドブレードに内蔵された高性能な金属水素爆薬である。その爆発の閃光を背景として、黒い群れに閉じ込められた白いシルエットの正体を、フローラは知ることとなる。
【光学映像データ・高速照合―― 】
【適合対象発見 】
【適合対象名〔特攻装警第6号機フィール〕 】
【適合率〔68%〕 】
【補足>人形シルエットに欠損確認 】
【状況推測>四肢部に損傷の可能性あり 】
体内のデータベースと連携して状況判断をすればそこから得られた事実は最悪のものだった。
「お、お姉ちゃん!? 怪我してるの?」
フローラの中に驚きがこみ上げ、一瞬冷静さを失いそうになる。だがそこで彼女の心を押しとどめたのは、フローラの存在を求め、そして、彼女の着任を待ちわびている消防庁の人々からもたらされた言葉の数々だった。
――どんな状況でも冷静であることをこころがけろ――
――現在状況に何が一番適切な行動なのか判断を誤るな――
――災害現場では私心は胸の奥に締まっておけ。優先順位と重要事項を誤るもとだ――
――お前が差し伸べる手によって〝救われる命〟が必ずある! それを忘れるな!――
「そうだ」
フローラは思案する。最適な救助方法を――
「わたしは戦う存在じゃない」
急上昇して高度700mまで舞い上がり、その眼下に、姉であるフィールを取り囲む黒いシルエットの群れを俯瞰で見下ろす。そこから見える黒いカラスの群れのようなものを注視する。そこに見たのは鳥ではなかった。まるで半円のボウルのような物で明らかな人工物である。
【光学系視覚系統・特殊モード 】
【複数同位体、個数高速カウント 】
【対象物・光学照合 】
【推測適合対象名〔夜間用戦闘ドローン〕 】
【確認総個数〔100体以上〕 】
【補足> 】
【〔密集行動中 】
【〔中心部に人形シルエットを発見 】
そこからの映像から得られた情報から最適行動を判断する。
「わたしは――」
行動は決まった。フローラは背面腰部のラックに収納した装備品を左手で引き出すと作動状態へと展開する。
――ハイプレッシャーウォーターガン――
本来は消化用の液体薬剤を圧縮散布して瞬間消火するためのバズーカー状のアイテムだ。薬液はカートリッジ式であり、装填するカートリッジの中身を変えることで、消火以外の用途にも運用可能な多機能ツールである。
「わたしは〝命を救う者〟――救助活動用アンドロイド――」
そしてフローラは右の大腿部の側面に設けたカートリッジラックから一つの薬剤カートリッジを取り出し、ウォーターガンへと装填した。薬剤カートリッジには数種類あり、一つのカートリッジで2回から数回の発射が可能となっている。
「待っててお姉ちゃん――」
そしてフローラは電磁フローターの推力を急速上昇させると姉の居る空間ポイントめがけて一気に飛び込んだのだ。
「わたしが今、助けるから!」
今、フローラも彼女にしかできない戦いへと飛び込んでいったのである。
そうつぶやくフローラの視界の先に見えてくるのは、猥雑な瘴気を立ち上らせる魔窟の洋上楼閣都市である。その中央部に金色に輝く200m規模の高層ビルが立ち、その周囲を100mから150m程度の高さのビル群が魔王の城のように群塊を成していた。
「あそこにお姉ちゃんたちが――」
はやる気持ちを制しながらフローラは光学視界を精査した。
【光学視界システム・モード修正 】
【暗視レベル 〔+2.4〕 】
【望遠倍率 〔×100〕 】
まずは視認を試みたのは市街地の真上、高層ビルの上層階辺りから地上500m程度の空間だった。そこに何か異変がないかを確かめようとしたのだ。
爆発、火災、それに伴う黒煙や異常発光――、事故や災害の発生の可能性を考慮したのは消防レスキュー用途のために産み出されたフローラならではの判断だった。
「火災は――無いみたい。でも――」
確かにビル火災のたぐいはビルエリアでは発生していない。だがそれとは異なる異変をフローラはその目で見つけていた。
「なに? あの黒いカラスの群れみたいなの?」
カラスの群れ、そう形容するにふさわしい光景だった。漆黒の何かが無数に群れながら密集して飛び回っている。それはまるで獲物を弄ぶ猛禽類のようであり、餌を求めて廃棄物をあさる都会のカラスの群れのごとしだ。
そしてその黒い群れの中の中央に〝彼女〟の姿を見つけることとなる。
「あれ? 何か白い物がいる。かもめ? じゃないもっと大きい――」
そうつぶやいた時、炸裂したのは眩いばかりの光を伴った爆発だった。電子励起爆薬――、フィールが使うダイヤモンドブレードに内蔵された高性能な金属水素爆薬である。その爆発の閃光を背景として、黒い群れに閉じ込められた白いシルエットの正体を、フローラは知ることとなる。
【光学映像データ・高速照合―― 】
【適合対象発見 】
【適合対象名〔特攻装警第6号機フィール〕 】
【適合率〔68%〕 】
【補足>人形シルエットに欠損確認 】
【状況推測>四肢部に損傷の可能性あり 】
体内のデータベースと連携して状況判断をすればそこから得られた事実は最悪のものだった。
「お、お姉ちゃん!? 怪我してるの?」
フローラの中に驚きがこみ上げ、一瞬冷静さを失いそうになる。だがそこで彼女の心を押しとどめたのは、フローラの存在を求め、そして、彼女の着任を待ちわびている消防庁の人々からもたらされた言葉の数々だった。
――どんな状況でも冷静であることをこころがけろ――
――現在状況に何が一番適切な行動なのか判断を誤るな――
――災害現場では私心は胸の奥に締まっておけ。優先順位と重要事項を誤るもとだ――
――お前が差し伸べる手によって〝救われる命〟が必ずある! それを忘れるな!――
「そうだ」
フローラは思案する。最適な救助方法を――
「わたしは戦う存在じゃない」
急上昇して高度700mまで舞い上がり、その眼下に、姉であるフィールを取り囲む黒いシルエットの群れを俯瞰で見下ろす。そこから見える黒いカラスの群れのようなものを注視する。そこに見たのは鳥ではなかった。まるで半円のボウルのような物で明らかな人工物である。
【光学系視覚系統・特殊モード 】
【複数同位体、個数高速カウント 】
【対象物・光学照合 】
【推測適合対象名〔夜間用戦闘ドローン〕 】
【確認総個数〔100体以上〕 】
【補足> 】
【〔密集行動中 】
【〔中心部に人形シルエットを発見 】
そこからの映像から得られた情報から最適行動を判断する。
「わたしは――」
行動は決まった。フローラは背面腰部のラックに収納した装備品を左手で引き出すと作動状態へと展開する。
――ハイプレッシャーウォーターガン――
本来は消化用の液体薬剤を圧縮散布して瞬間消火するためのバズーカー状のアイテムだ。薬液はカートリッジ式であり、装填するカートリッジの中身を変えることで、消火以外の用途にも運用可能な多機能ツールである。
「わたしは〝命を救う者〟――救助活動用アンドロイド――」
そしてフローラは右の大腿部の側面に設けたカートリッジラックから一つの薬剤カートリッジを取り出し、ウォーターガンへと装填した。薬剤カートリッジには数種類あり、一つのカートリッジで2回から数回の発射が可能となっている。
「待っててお姉ちゃん――」
そしてフローラは電磁フローターの推力を急速上昇させると姉の居る空間ポイントめがけて一気に飛び込んだのだ。
「わたしが今、助けるから!」
今、フローラも彼女にしかできない戦いへと飛び込んでいったのである。
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