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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編
Part31 シャイニングソルジャーズ/プライド
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「うっ!」
そう声を漏らしながら顔をしかめたのはプロセスの一人――ダウであった。その傍らには、クラウンとの交渉に臨んだウノがいる。
「どうしたの? ダウ?」
「いや、なんでもない。何か、瞬間的にものすごい出力レベルの電磁波が飛んできたんだ」
「え?」
「それも尋常じゃない、すぐそばに居たらスマホなんか一瞬にしてふっとぶよ」
そう答えながらダウは頭上を仰いだ。
「ほら、あの辺り――、メインストリートの向こう側のエリアの上空だよ。ボク、センサー感度が高いからあまりに強いノイズは苦手なんだ」
ダウが視線で示す方を一緒に眺めながらウノはつぶやいた。
「そう――あそこで一体何をしてるのかしら?」
「さぁね。でも、マトモな事ではないのは確かだけどね」
2人は頭上の空間へと思いを馳せた。
「あそこでも誰かが戦っているのね」
ウノは不安げに眉をひそめながら、そう言葉を漏らしたのである。
@ @ @
「ダディ」
不安げに言葉をもらしたのは専用の特殊ゴーグルと手足を露出させたレオタード戦闘服に身を包んだ黒い肌の黒人系の美少女だった。その名をアラクネと呼ばれる彼女はかたわらに佇むダディ――すなわち彼女が〝父〟と思いを馳せる人物へと声をかけた。
「ん、お前も感じたか」
「うん、ものすごいエレクトリックノイズ――、シールドしてない電子機器だったら一瞬ですっ飛ぶレベル」
「そうだな。シールドの甘い安い人工心臓だったら、即座にオシャカになる。お前、大丈夫か?」
彼女の父の名はジニーロック・またの名をダイダロスと言う。
「平気だよ。ダディが作ってくれた身体だから」
その言葉にジニーロックは右手でアラクネの頭をなでてやる。
「行くぞ。〝片目〟の野郎を追い詰める」
「オッケイ」
その言葉を残して、二人の姿は街の闇の中へと消えていったのである。
@ @ @
〔ば、ばかな――〕
ファイブは絶句していた。それはまさに一瞬の出来事だったからだ。
〔ぼ、ボクのドローンが一瞬にして吹っ飛んだ。嘘だ――お前は偵察用途がメインだったはずだ――、そんなイカれた攻撃能力なんか許されるはずがないだろう! 第一そんなデータはどこにも無かった! 何なんだお前は!〕
そこに残されていたドローンはわずかに4機、その中の残り一つを介して、ファイブは声のやり取りをしていた。ヒステリックに叫ぶファイブをフィールは一考だにせず、彼の声を冷ややかに聞き流していた。眼下に広がる光景はまさに地獄そのもの。彼女とフローラが単分子ワイヤーで捉えたドローン群は余すところ無く全てが一瞬にして吹っ飛び焼ききれたのだ。それは全て、常識はずれなほどに強力な電磁波攻撃による物であった。
電磁誘導と電磁波加熱による爆砕的強制広域加熱攻撃。
ショックオシレーション――インフェルノ――
それがフィールの最後の最後の切り札であった。その壮絶なまでの結果をフローラは半ば呆然として眺めていたのだ。
「―――」
戸惑うフローラにフィールは声をかけた。
「フローラ、いらっしゃい」
姉の言葉にフローラは頷くと速やかに飛行して移動する。フィールは妹が隣に来るのを確認しながらファイブへと力強く告げる。
「あなたは一つ勘違いしています」
〔なんだと?〕
「あなたは、私たち特攻装警が課せられている能力限界の意味を全く理解していません。私たちには、あなたたち犯罪者の人工人体にはない〝もう一つの枷〟がかけられているんです」
〔もう一つの枷だと?〕
「ええそうです。私たちにはあなたたちにはない〝法的リミッター〟と言うものが課せられているんです。たとえば警察用の拳銃が45ACPを超える口径の弾丸を使うことはめったにありません。威力が過剰であり、場合によっては弾丸が貫通して、無関係な市民を傷つける可能性があるからです。私たちアンドロイドの身体もそうです。特別に許される理由がない限りは、他の一般市民に影響を与えないことが常に求められます。
当然、機能として使用可能であったとしても、その能力を行使したことで、誰かが傷つき、誰かが不幸な結果になるならば、与えられたその能力や機能は使用を禁じられる事となります。これを『禁則条項機能』と呼び、開発製造段階で使用が禁じられるんです。ショックオシレーション・インフェルノは、まさにその禁則条項に該当する機能なんです。絶対に使ってはならない力――、その存在はわたしの管理責任者である捜査一課課長ですら知りません。
あなたはわたしの全てを掌握したと言いました。ですがアナタは、この機能の事を知らなかった! つまりはあなたの言葉は嘘であり、わたしに関する機密情報は何も掌握していないんです!」
フィールはこの不毛な戦闘を通じて得られた事実を、一気呵成に声にして叩きつけた。さらに反論の言葉を待たずしてさらに言葉を突きつけたのである。
「あなたは警察内部情報の表層をなぞっただけの素人にすぎない! あなたは本当の電脳犯罪者たりえない! 神の雷はおろか、あのクラウンの足元にも及ばない! 単に人よりハイレベルな電脳スキルを手に入れて得意になっているだけのスクリプトキディにすぎない! 恥を知りなさい!」
そしてフィールはネットの向こうに存在するであろうファイブに向けて、侮辱に満ちた言葉を叩きつけたのである。
「ガキがいい気になっているんじゃあない!」
それは圧倒的な差だった。格の差、力の差、経験の差――、何もかもがフィールとファイブとでは大きくかけ離れていることをきっぱりと突きつけていたのだ。
だがその事実を持ってしても、ファイブは抵抗することを止めなかったのである。
〔ち、畜生っ! もう容赦しないぞ! この街に配備した1000機以上の全てのドローンで一瞬にして焼き尽くしてやる! 指一本にいたるまで完全に粉砕してやる! 後悔しても遅いぞ!〕
1000機のドローン――その言葉が響いても、それを恐れ怯える者は居なかった。
フィールは冷ややかに事態を眺め、フローラは超然としていた。それには理由が有ったのである。
〔――なんだ? どうしたんだ?――〕
戸惑い、狼狽える言葉をファイブが漏らしている。その醜態に声をかけたのはフローラである。
「無駄です。アナタはもう何もできません」
〔なんだと? どう言う意味だ?〕
問い返してくるファイブに、フローラは自らの左手の小指を掲げて指し示した。
「コレ、見えませんか?」
フローラのその小指の先には細い糸――すなわち単分子ワイヤーが伸びていた、そしてそれはフローラの背後で宙を漂っていた3機程のドローンへとつながっている。
「あなたのドローンはすでにわたしの制御下です。そして、そのドローンの内部システムを中継ユニットとして使うことでそちらへ〝逆侵入〟しました!」
〔なに?!〕
「あなたの通信システムはすでに私が掌握しました! もうどこにも逃げられません!」
フローラはまさに、敵の本元を見事に制圧せしめたのである。
そう声を漏らしながら顔をしかめたのはプロセスの一人――ダウであった。その傍らには、クラウンとの交渉に臨んだウノがいる。
「どうしたの? ダウ?」
「いや、なんでもない。何か、瞬間的にものすごい出力レベルの電磁波が飛んできたんだ」
「え?」
「それも尋常じゃない、すぐそばに居たらスマホなんか一瞬にしてふっとぶよ」
そう答えながらダウは頭上を仰いだ。
「ほら、あの辺り――、メインストリートの向こう側のエリアの上空だよ。ボク、センサー感度が高いからあまりに強いノイズは苦手なんだ」
ダウが視線で示す方を一緒に眺めながらウノはつぶやいた。
「そう――あそこで一体何をしてるのかしら?」
「さぁね。でも、マトモな事ではないのは確かだけどね」
2人は頭上の空間へと思いを馳せた。
「あそこでも誰かが戦っているのね」
ウノは不安げに眉をひそめながら、そう言葉を漏らしたのである。
@ @ @
「ダディ」
不安げに言葉をもらしたのは専用の特殊ゴーグルと手足を露出させたレオタード戦闘服に身を包んだ黒い肌の黒人系の美少女だった。その名をアラクネと呼ばれる彼女はかたわらに佇むダディ――すなわち彼女が〝父〟と思いを馳せる人物へと声をかけた。
「ん、お前も感じたか」
「うん、ものすごいエレクトリックノイズ――、シールドしてない電子機器だったら一瞬ですっ飛ぶレベル」
「そうだな。シールドの甘い安い人工心臓だったら、即座にオシャカになる。お前、大丈夫か?」
彼女の父の名はジニーロック・またの名をダイダロスと言う。
「平気だよ。ダディが作ってくれた身体だから」
その言葉にジニーロックは右手でアラクネの頭をなでてやる。
「行くぞ。〝片目〟の野郎を追い詰める」
「オッケイ」
その言葉を残して、二人の姿は街の闇の中へと消えていったのである。
@ @ @
〔ば、ばかな――〕
ファイブは絶句していた。それはまさに一瞬の出来事だったからだ。
〔ぼ、ボクのドローンが一瞬にして吹っ飛んだ。嘘だ――お前は偵察用途がメインだったはずだ――、そんなイカれた攻撃能力なんか許されるはずがないだろう! 第一そんなデータはどこにも無かった! 何なんだお前は!〕
そこに残されていたドローンはわずかに4機、その中の残り一つを介して、ファイブは声のやり取りをしていた。ヒステリックに叫ぶファイブをフィールは一考だにせず、彼の声を冷ややかに聞き流していた。眼下に広がる光景はまさに地獄そのもの。彼女とフローラが単分子ワイヤーで捉えたドローン群は余すところ無く全てが一瞬にして吹っ飛び焼ききれたのだ。それは全て、常識はずれなほどに強力な電磁波攻撃による物であった。
電磁誘導と電磁波加熱による爆砕的強制広域加熱攻撃。
ショックオシレーション――インフェルノ――
それがフィールの最後の最後の切り札であった。その壮絶なまでの結果をフローラは半ば呆然として眺めていたのだ。
「―――」
戸惑うフローラにフィールは声をかけた。
「フローラ、いらっしゃい」
姉の言葉にフローラは頷くと速やかに飛行して移動する。フィールは妹が隣に来るのを確認しながらファイブへと力強く告げる。
「あなたは一つ勘違いしています」
〔なんだと?〕
「あなたは、私たち特攻装警が課せられている能力限界の意味を全く理解していません。私たちには、あなたたち犯罪者の人工人体にはない〝もう一つの枷〟がかけられているんです」
〔もう一つの枷だと?〕
「ええそうです。私たちにはあなたたちにはない〝法的リミッター〟と言うものが課せられているんです。たとえば警察用の拳銃が45ACPを超える口径の弾丸を使うことはめったにありません。威力が過剰であり、場合によっては弾丸が貫通して、無関係な市民を傷つける可能性があるからです。私たちアンドロイドの身体もそうです。特別に許される理由がない限りは、他の一般市民に影響を与えないことが常に求められます。
当然、機能として使用可能であったとしても、その能力を行使したことで、誰かが傷つき、誰かが不幸な結果になるならば、与えられたその能力や機能は使用を禁じられる事となります。これを『禁則条項機能』と呼び、開発製造段階で使用が禁じられるんです。ショックオシレーション・インフェルノは、まさにその禁則条項に該当する機能なんです。絶対に使ってはならない力――、その存在はわたしの管理責任者である捜査一課課長ですら知りません。
あなたはわたしの全てを掌握したと言いました。ですがアナタは、この機能の事を知らなかった! つまりはあなたの言葉は嘘であり、わたしに関する機密情報は何も掌握していないんです!」
フィールはこの不毛な戦闘を通じて得られた事実を、一気呵成に声にして叩きつけた。さらに反論の言葉を待たずしてさらに言葉を突きつけたのである。
「あなたは警察内部情報の表層をなぞっただけの素人にすぎない! あなたは本当の電脳犯罪者たりえない! 神の雷はおろか、あのクラウンの足元にも及ばない! 単に人よりハイレベルな電脳スキルを手に入れて得意になっているだけのスクリプトキディにすぎない! 恥を知りなさい!」
そしてフィールはネットの向こうに存在するであろうファイブに向けて、侮辱に満ちた言葉を叩きつけたのである。
「ガキがいい気になっているんじゃあない!」
それは圧倒的な差だった。格の差、力の差、経験の差――、何もかもがフィールとファイブとでは大きくかけ離れていることをきっぱりと突きつけていたのだ。
だがその事実を持ってしても、ファイブは抵抗することを止めなかったのである。
〔ち、畜生っ! もう容赦しないぞ! この街に配備した1000機以上の全てのドローンで一瞬にして焼き尽くしてやる! 指一本にいたるまで完全に粉砕してやる! 後悔しても遅いぞ!〕
1000機のドローン――その言葉が響いても、それを恐れ怯える者は居なかった。
フィールは冷ややかに事態を眺め、フローラは超然としていた。それには理由が有ったのである。
〔――なんだ? どうしたんだ?――〕
戸惑い、狼狽える言葉をファイブが漏らしている。その醜態に声をかけたのはフローラである。
「無駄です。アナタはもう何もできません」
〔なんだと? どう言う意味だ?〕
問い返してくるファイブに、フローラは自らの左手の小指を掲げて指し示した。
「コレ、見えませんか?」
フローラのその小指の先には細い糸――すなわち単分子ワイヤーが伸びていた、そしてそれはフローラの背後で宙を漂っていた3機程のドローンへとつながっている。
「あなたのドローンはすでにわたしの制御下です。そして、そのドローンの内部システムを中継ユニットとして使うことでそちらへ〝逆侵入〟しました!」
〔なに?!〕
「あなたの通信システムはすでに私が掌握しました! もうどこにも逃げられません!」
フローラはまさに、敵の本元を見事に制圧せしめたのである。
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