メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]

美風慶伍

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第2章エクスプレス サイドB①魔窟の養生楼閣都市/死闘編

Part 40 死闘・武人タウゼント/遠い記憶

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「〝静かなる男〟の副隊長を務めるボリス・ミハイロフだ。タウゼントとやら。なぜ私を救けた?」

 それは当然の問いかけだった。ボリスは軍属である。軍属とは命令と状況判断に基づく必然性を基準として全ての行動決定を行う人間たちである。あらゆる行動には理由がある。そして必然性と必要性があり、その結果として排除対象である敵への対処の際の行動判断が行われている。そこには善意とか曖昧とか人として当然と言った理想論・概念論は何の意味も持たない。そのような実体を持たない価値基準は、軍隊という組織全体の速やかなる行動を阻害し妨害するからである。
 それ故に軍隊は非人間化し、その行動様式は機械化される。
 理由と必然性の無い救助行為はむしろ、組織全体の行動決定を邪魔するものでしか無い。明確な理由と利害関係があってこそ価値がある――、そう捉えるのが軍人だからである。そしてボリスと静かなる男たちは、本質的には軍人なのだ。彼はタウゼントが発するであろう答えをじっと聞き入ったのだ。だがタウゼントの口から語られたのは意外な言葉だったのである。
 
「10年前――否、12年前であったか。シリアでの極秘作戦以来であるなあ。覚えておいでか? ボリス准尉殿」

 タウゼントが静かにも淡々と語るその声、そこに示されていた事実とその意味に、かつての名を問われたボリスは思わず己の耳目を疑っていた。
 
「ばっ――なぜソレを?」

 驚きを隠さぬボリスの狼狽えは他の静かなる男たちの行動にも影響しつつあった。さざなみのように私語が微かにもれ始める。それを察してかタウゼントは先を急ぐように告げる。
 
「気をしっかり持たれよ准尉殿! この場の指揮官はそなたであるぞ?!」

 タウゼントのその言葉に思わずボリスはハッとなる。そしてハンドサインで速やかに指示を出す。
 
――一時後退、遮蔽物に隠れよ―― 
 
 その指示を速やかに理解した静かなる男たちは音も静かに後方へと退き、その身を潜めていく。そしてあとに残されたのはタウゼントとボリスのみ。タウゼントはさらにボリスへと語りかけた。
 
「あれは世界の戦史にも、公的な記録にも一切残されることのない〝存在しないはずの任務〟であった。表向きは対立関係に有るはずの准尉殿の母国と吾輩の母国、その精鋭が集まり、72時間と言う定められたタイムリミットの中で目的を果たすことが求められた作戦――、ご記憶か?」

 タウゼントの言葉にボリスの記憶は速やかに蘇った。忘れようとしても忘れられない記憶だった。

「狂信的宗教原理主義勢力の指揮系統破壊任務――、任地はシリア山岳国境付近だったな。その時の任務役割は?」
「当時の我輩の役目は、戦車を含む戦闘車両への遠距離攻撃、及び行動阻害工作。准尉殿たちを後方からお守りする役目であった」

 何をしていただけでなく、何を見ていたかも思い出しつつあった。その時の硝煙煙る地での光景が鮮明にボリスの中に蘇っていたのだ。

「そうだアンタたちは俺のケツ持ちだった。そして俺は近接格闘戦闘を含む重火器使用による人的障害の排除――有り体に言えば暗殺戦闘要員だ」
「その通りである! お互いににらみ合いながらの初顔合わせであった。だがその後も上手く事が運ばぬとロシア語とアメリカ英語で罵り合い! だが意味が通じないのが面倒くさくて喧嘩も長続きしなかった。食い物の好み、好きな音楽、右を行くか、左を行くか、些細な事ばかりですぐにいがみ合った!」
「アンタの右ストレートは強烈だった」
「准尉殿は蹴りが得意であったな」
「コマンドサンボは血反吐はくまでやったからな。そうだ――あんたはフットワークが素早かった! 敵の死角に巧みに入り込み! 一撃で必ず敵を仕留めた!」
「准尉殿はチーム全体掌握と指揮が見事であった。一緒に居れば必ず生き残れると言う信頼感があった!」
「あぁ、2日もすぎれば俺達は言葉は違っても意思は通じるようになっていた。そして作戦成功のあと回収地点到着前夜に浴びるほどに酒を飲んだ!」
「あの時のウォッカは美味かった! だが約束のバーボンのボトルはついぞ送ってやれなかった」
「部隊回収が失敗したからな。物陰から撃ち込まれたグレネード弾――それで俺たちは吹き飛ばされた。俺は右半身の機能を失った、あんたは体がバラバラだったからな、てっきり死んだと思ってた――」

 そこまで語ったときにボリスは改めてタウゼントへと視線を投げかける。
 
「生きていたんだな。――〝伍長〟」

 ボリスはすべてを思い出していた。眼前のこの鎧姿の道化者が一体誰なのか、彼がなぜボリスを救けたのか、その理由と必然性が全て飲み込めたのである。そしてそれは喜びとともに、もう取り返しのつかない悲しみが互いの間に横たわっていることを思い知らされずには居られなかったのである。
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