6 / 9
第六話
しおりを挟む
「ヴィクトルさん、どうして……」
グレイシアが目を見開いて呟くように尋ねたと同時に、ヴィクトルは右手をモビウスに向けた。
「ぐわっ!?」
ブワッと突風が渦を巻いてモビウスを吹き飛ばし、対面の壁に身体を打ちつけた。壁にぶつかった衝撃で、天井からぶら下がる観葉植物たちがゆらゆら揺れる。
グレイシアはずる、と壁にもたれてへたり込んでしまった。モビウスを警戒しつつ、ヴィクトルが素早くグレイシアに駆け寄った。
「ごめん。未練がましい男だと軽蔑してくれても構わない。少しでも君の姿が見たくて、毎日この店の前を通っていたんだ。さっきも店に来てみたら結界が張られてて…嫌な予感がして咄嗟に飛び込んでいたんだ」
「……助かりました」
申し訳なさそうに、そして心配そうにグレイシアの頬に触れるヴィクトル。なぜかグレイシアはヴィクトルの顔を見るといたく安心して、肺に溜まっていた息を深く吐き出した。
「ねぇ、グレイシア。一つ聞いてもいい?」
「…なんでしょうか」
こんな時に何を?と首を傾げつつ、グレイシアは頷いた。
ヴィクトルは徐にグレイシアのエプロンに手を伸ばして、きらりと光るお守りに触れた。
「この…お守り、だっけ?これを付けているのは君の意思?どんなものが分かった上で付けてる、ってことでいいの?」
「ぐ……何を…それに触るな…!」
ヴィクトルの問いに、呻き声を上げながら反応したのはモビウスであった。なにか都合の悪いことでもあるのか、苦痛に歪む表情には焦りの色が滲んでいる。
「……いえ、お守り、としか知りません」
グレイシアは胸がやけに騒ついた。ずっと違和感は感じていた。気味が悪くて、考えないようにしていた。疑惑はだんだんと大きくなる一方で…もしかして、これは……
「そう、じゃあ、壊すよ」
「あっ!」
戸惑うグレイシアに一言断りを入れると、ヴィクトルはお守りに手を翳した。眩い光が弾けて、二つのガラス玉は粉々に砕け散った。キラキラと光の粉が空気に溶けて消えていく。
「ぐうう……お前、それがどれほど金と魔力を費やして作られたものか分かっているのか!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、ゆらりと立ち上がったモビウスがヴィクトルとグレイシアに歩を進めようとした。が、再びゴウ!と突風が吹いてモビウスは壁に捕えられた。
「ちょっと黙ってて」
涼しい顔で五大貴族を抑え込むヴィクトルに、グレイシアは目を瞬くばかりだ。鋭い目でモビウスを睨みつけていたヴィクトルは、グレイシアに向き合うといつもの優しい目でグレイシアの両手を取った。
「グレイシア、あの男が君に持たせていたものは、盗聴器だよ」
「え……盗聴…?」
グレイシアの目が大きく見開かれる。
正直、驚きよりもやっぱりそうかという気持ちが大きかった。あまりにタイミングよく現れることや、彼の居ないところでの話題を漏らさず知っていたこと。
薄々そんな気はしていたが、処分したらしたでモビウスがどんな行動を取るのかが恐ろしくて動くことができなかった。それをヴィクトルが呆気なく破壊してくれた。
「ぐぅぅ、お前……貴族の俺にこんなことをして許されるとでも思っているのか!」
貴公子だとご令嬢方が熱を上げるモビウスの端正な顔立ちが、憎しみにみるみる歪んでいった。
ヴィクトルは指をくるりと回してモビウスを解放すると、グレイシアに「大丈夫だよ」と囁いて、モビウスに対峙した。
グレイシアが目を見開いて呟くように尋ねたと同時に、ヴィクトルは右手をモビウスに向けた。
「ぐわっ!?」
ブワッと突風が渦を巻いてモビウスを吹き飛ばし、対面の壁に身体を打ちつけた。壁にぶつかった衝撃で、天井からぶら下がる観葉植物たちがゆらゆら揺れる。
グレイシアはずる、と壁にもたれてへたり込んでしまった。モビウスを警戒しつつ、ヴィクトルが素早くグレイシアに駆け寄った。
「ごめん。未練がましい男だと軽蔑してくれても構わない。少しでも君の姿が見たくて、毎日この店の前を通っていたんだ。さっきも店に来てみたら結界が張られてて…嫌な予感がして咄嗟に飛び込んでいたんだ」
「……助かりました」
申し訳なさそうに、そして心配そうにグレイシアの頬に触れるヴィクトル。なぜかグレイシアはヴィクトルの顔を見るといたく安心して、肺に溜まっていた息を深く吐き出した。
「ねぇ、グレイシア。一つ聞いてもいい?」
「…なんでしょうか」
こんな時に何を?と首を傾げつつ、グレイシアは頷いた。
ヴィクトルは徐にグレイシアのエプロンに手を伸ばして、きらりと光るお守りに触れた。
「この…お守り、だっけ?これを付けているのは君の意思?どんなものが分かった上で付けてる、ってことでいいの?」
「ぐ……何を…それに触るな…!」
ヴィクトルの問いに、呻き声を上げながら反応したのはモビウスであった。なにか都合の悪いことでもあるのか、苦痛に歪む表情には焦りの色が滲んでいる。
「……いえ、お守り、としか知りません」
グレイシアは胸がやけに騒ついた。ずっと違和感は感じていた。気味が悪くて、考えないようにしていた。疑惑はだんだんと大きくなる一方で…もしかして、これは……
「そう、じゃあ、壊すよ」
「あっ!」
戸惑うグレイシアに一言断りを入れると、ヴィクトルはお守りに手を翳した。眩い光が弾けて、二つのガラス玉は粉々に砕け散った。キラキラと光の粉が空気に溶けて消えていく。
「ぐうう……お前、それがどれほど金と魔力を費やして作られたものか分かっているのか!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、ゆらりと立ち上がったモビウスがヴィクトルとグレイシアに歩を進めようとした。が、再びゴウ!と突風が吹いてモビウスは壁に捕えられた。
「ちょっと黙ってて」
涼しい顔で五大貴族を抑え込むヴィクトルに、グレイシアは目を瞬くばかりだ。鋭い目でモビウスを睨みつけていたヴィクトルは、グレイシアに向き合うといつもの優しい目でグレイシアの両手を取った。
「グレイシア、あの男が君に持たせていたものは、盗聴器だよ」
「え……盗聴…?」
グレイシアの目が大きく見開かれる。
正直、驚きよりもやっぱりそうかという気持ちが大きかった。あまりにタイミングよく現れることや、彼の居ないところでの話題を漏らさず知っていたこと。
薄々そんな気はしていたが、処分したらしたでモビウスがどんな行動を取るのかが恐ろしくて動くことができなかった。それをヴィクトルが呆気なく破壊してくれた。
「ぐぅぅ、お前……貴族の俺にこんなことをして許されるとでも思っているのか!」
貴公子だとご令嬢方が熱を上げるモビウスの端正な顔立ちが、憎しみにみるみる歪んでいった。
ヴィクトルは指をくるりと回してモビウスを解放すると、グレイシアに「大丈夫だよ」と囁いて、モビウスに対峙した。
12
あなたにおすすめの小説
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。
朝日みらい
恋愛
魔物を討伐し国を救った若き魔術師アリア・フェルディナンド。
国王から「望むものを何でも与える」と言われた彼女が選んだ褒美は――
「国一番の美男子を、夫にください」
という前代未聞のひと言だった。
急遽開かれた婿候補サロンで、アリアが一目で心を奪われたのは、
“夜の街の帝王”と呼ばれる美貌の青年ルシアン・クロード。
女たらし、金遣いが荒い、家の恥――
そんな悪評だらけの彼を、アリアは迷わず指名する。
「顔が好きだからです」
直球すぎる理由に戸惑うルシアン。
だが彼には、誰にも言えない孤独と過去があった。
これは、
顔だけで選んだはずの英雄と、
誰にも本気で愛されたことのない美貌の青年が、
“契約婚”から始める恋の物語。
◆平民出身令嬢、断罪されて自由になります◆~故郷で待つ幼馴染のもとへ~
ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」
「え、帰れないの?」
前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。
ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。
男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、
幼馴染のクローにも会えない。
乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して
ヒロインをざまあする世界じゃない!?
なら、いっそ追放されて自由になろう——。
追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます
山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった
「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」
そう思った時すべてを思い出した。
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ
私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない
バットエンド処刑されて終わりなのだ
こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった
さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる