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第七話 エドワードの苦悩
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料理の打ち合わせの後、エドワード様と共に会議室へと移動した。今日は元々会場に飾る花の打ち合わせを予定していたのだ。私はカタログとともにいくつかのサンプルをテーブルの上に並べた。折角なので極力エドワード様のお好きな花をふんだんに使おうと考えている。
「エドワード様はお好きな花はございますか?」
「そうだな…僕が好きなのは、かすみ草かな」
かすみ草。主役の魅力を際立たせる愛らしく健気な花。
第二王子としてのご自身を投影されているのかしら…
私もかすみ草は大好きなのでその旨をお伝えすると、エドワード様は嬉しそうに目を細めて、見本に用意していた青い薔薇の花を一輪手に取り私の髪に差した。
「うん、よく似合ってる。マリリン嬢は整った顔立ちをしてるのに、わざと地味な化粧をしてるよね?」
「目立ちなくありませんから」
「ねぇ、目一杯おしゃれをして君を小馬鹿にする人達を驚かせてみない?僕の誕生パーティでさ、僕のパートナーとして」
「…目立ちたくありませんから」
「残念。気が変わったら教えてね」
エドワード様は、引くところは引いてくれる。私が困っているのを感じ取っているのだろう。あるいは今の状況を楽しんでいるのかもしれないが。
私は話題を変えるべく、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「エドワード様は『耳がいい』と仰っておりましたが…どれ程のものなのでしょう?」
「うーんそうだなぁ…やって見せた方が早いかも。ちょっと窓際のカーテンに隠れて小声で何か言ってみてくれる?」
「はい」
私は椅子から立ち上がると、大きな窓に歩み寄り、美しいレース地のカーテンの影に隠れた。片側は日差しを取り入れるためにカーテンが開けられており、よく磨かれた窓ガラスに小さくエドワード様が映っていた。光を浴びてキラキラと特徴的な銀髪が輝いており、何とも神々しい。
私は窓に向かって、できうる限りの小さな声で呟いた。
「エドワード様は本当に…神様みたい」
「ははっ、僕は神なんかじゃないよ。一人の女の子の気を引こうと頑張るただの男だよ」
「す、すごい…聞こえていたのですね…」
「どう?これで少しは分かってもらえたかな?」
会議室とはいえ、王城の一室だ。中央に置かれたテーブルと椅子から窓際まで数メートルは離れている。声になるかならないかというほど小さく発した言葉であったが、エドワード様の耳にはしっかりと届いていたらしい。私は驚きを隠せぬままエドワード様のお隣へと戻った。
「羨ましいです。その聴力があれば私はもっと色々な情報を聞き取ることができるでしょうに…」
「ふふ、そうだね。情報収集にはもってこいだ」
「ですが……エドワード様のお耳は、聞きたくないことまで拾ってしまうのでしょうね。今までお辛い思いもされてきたのでしょう?」
思わず発してしまった私の言葉に、エドワード様は静かに目を見開いた。
「君は本当に…はぁ、そうだね。僕の耳は聞きたくないことまで聞き取ってしまう。無意識に溢した言葉にはその人の真意が漏れ出るんだよ。どんな人にも仄暗い感情はあるものだ。それを全て受け止めてしまうと心が持たなくなってしまう。何より、内心どう思っているのかって相手に対して疑い深くなってしまうことが罪悪感を生み、心を苛む」
「エドワード様…」
なんと言葉をかければいいのか。いつも明るくどんな人にも分け隔てなく接するエドワード様。その笑顔の下に多くの葛藤や傷を抱えていただなんて。
上部だけの言葉が意味をなさないことはよく分かっているつもりだ。私は何も言えずに、ただエドワード様の少し震える手に自らの手をそっと添えることしかできなかった。そんな私に、エドワード様は優しい笑みを向けてくださる。
「…だが、マリリン嬢、君は違った。君が漏らす言葉に表裏はない。そう、人には少なからず表裏があるが、君からはそれを感じない。僕はきっと君のそんなところに惹かれたんだ」
「…買い被りすぎです」
「そんなことはない。君と会話を交わすようになってまだ日は浅いが、君との時間はとても楽しい。飾らなくていいし、警戒もしなくていい。心が楽なんだ。願わくば、ずっと一緒にいたい。会うたびに君への気持ちは膨らむばかりだ」
エドワード様の手に添えていた私の手は、いつの間にかギュッと強く握りしめられていた。いつにない真剣な眼差しで、どうしても私の心拍数は上がってしまう。
私は、商会の仕事が好きだ。優しい家族と共に、時に悪い笑みを浮かべながら今の生活を続けたい。エドワード様に好意を寄せていただけるのは本当に幸せなことだ。でも…
「君はどうしてそこまでして商会の仕事に携わるんだい?」
私の心の内を覗いたかのように、エドワード様が問いかけてきた。
「…その答えは簡単です。単に楽しいからですわ。ふとした会話から商売の種を見出し、自ら手配した品物がお客様に喜んでいただける。…ふふ、そうですね。私はきっとお客様の驚く顔や喜ぶ顔が見たいのです。自分の目で。お客様の反応が私の心を満たすのです。…だから私は周りに何を言われようとも社交会に通うのでしょうね」
ーーーそうだ。私はお客様の笑顔や楽しげな表情を見るのが好きなのだ。だから今の生き方をやめるつもりはない。
「そう、それは素敵だね。ああ、やっぱり君は魅力的な女性だな。ところで僕の奥さんになる決意はついたかい?」
「そっ、それは…」
「あはは、君は困り顔も可愛くてずっと見ていられるね」
「っ!!」
真剣な表情から一転して、おどけて見せるエドワード様。やっぱり引くところは引いてくれるのだが、本当にエドワード様には翻弄させられっぱなしだ。仕事に集中しなくては気持ちが揺れてしまいそうになる。気を引き締めないと簡単に絆されてしまいそうだ。
「エドワード様はお好きな花はございますか?」
「そうだな…僕が好きなのは、かすみ草かな」
かすみ草。主役の魅力を際立たせる愛らしく健気な花。
第二王子としてのご自身を投影されているのかしら…
私もかすみ草は大好きなのでその旨をお伝えすると、エドワード様は嬉しそうに目を細めて、見本に用意していた青い薔薇の花を一輪手に取り私の髪に差した。
「うん、よく似合ってる。マリリン嬢は整った顔立ちをしてるのに、わざと地味な化粧をしてるよね?」
「目立ちなくありませんから」
「ねぇ、目一杯おしゃれをして君を小馬鹿にする人達を驚かせてみない?僕の誕生パーティでさ、僕のパートナーとして」
「…目立ちたくありませんから」
「残念。気が変わったら教えてね」
エドワード様は、引くところは引いてくれる。私が困っているのを感じ取っているのだろう。あるいは今の状況を楽しんでいるのかもしれないが。
私は話題を変えるべく、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「エドワード様は『耳がいい』と仰っておりましたが…どれ程のものなのでしょう?」
「うーんそうだなぁ…やって見せた方が早いかも。ちょっと窓際のカーテンに隠れて小声で何か言ってみてくれる?」
「はい」
私は椅子から立ち上がると、大きな窓に歩み寄り、美しいレース地のカーテンの影に隠れた。片側は日差しを取り入れるためにカーテンが開けられており、よく磨かれた窓ガラスに小さくエドワード様が映っていた。光を浴びてキラキラと特徴的な銀髪が輝いており、何とも神々しい。
私は窓に向かって、できうる限りの小さな声で呟いた。
「エドワード様は本当に…神様みたい」
「ははっ、僕は神なんかじゃないよ。一人の女の子の気を引こうと頑張るただの男だよ」
「す、すごい…聞こえていたのですね…」
「どう?これで少しは分かってもらえたかな?」
会議室とはいえ、王城の一室だ。中央に置かれたテーブルと椅子から窓際まで数メートルは離れている。声になるかならないかというほど小さく発した言葉であったが、エドワード様の耳にはしっかりと届いていたらしい。私は驚きを隠せぬままエドワード様のお隣へと戻った。
「羨ましいです。その聴力があれば私はもっと色々な情報を聞き取ることができるでしょうに…」
「ふふ、そうだね。情報収集にはもってこいだ」
「ですが……エドワード様のお耳は、聞きたくないことまで拾ってしまうのでしょうね。今までお辛い思いもされてきたのでしょう?」
思わず発してしまった私の言葉に、エドワード様は静かに目を見開いた。
「君は本当に…はぁ、そうだね。僕の耳は聞きたくないことまで聞き取ってしまう。無意識に溢した言葉にはその人の真意が漏れ出るんだよ。どんな人にも仄暗い感情はあるものだ。それを全て受け止めてしまうと心が持たなくなってしまう。何より、内心どう思っているのかって相手に対して疑い深くなってしまうことが罪悪感を生み、心を苛む」
「エドワード様…」
なんと言葉をかければいいのか。いつも明るくどんな人にも分け隔てなく接するエドワード様。その笑顔の下に多くの葛藤や傷を抱えていただなんて。
上部だけの言葉が意味をなさないことはよく分かっているつもりだ。私は何も言えずに、ただエドワード様の少し震える手に自らの手をそっと添えることしかできなかった。そんな私に、エドワード様は優しい笑みを向けてくださる。
「…だが、マリリン嬢、君は違った。君が漏らす言葉に表裏はない。そう、人には少なからず表裏があるが、君からはそれを感じない。僕はきっと君のそんなところに惹かれたんだ」
「…買い被りすぎです」
「そんなことはない。君と会話を交わすようになってまだ日は浅いが、君との時間はとても楽しい。飾らなくていいし、警戒もしなくていい。心が楽なんだ。願わくば、ずっと一緒にいたい。会うたびに君への気持ちは膨らむばかりだ」
エドワード様の手に添えていた私の手は、いつの間にかギュッと強く握りしめられていた。いつにない真剣な眼差しで、どうしても私の心拍数は上がってしまう。
私は、商会の仕事が好きだ。優しい家族と共に、時に悪い笑みを浮かべながら今の生活を続けたい。エドワード様に好意を寄せていただけるのは本当に幸せなことだ。でも…
「君はどうしてそこまでして商会の仕事に携わるんだい?」
私の心の内を覗いたかのように、エドワード様が問いかけてきた。
「…その答えは簡単です。単に楽しいからですわ。ふとした会話から商売の種を見出し、自ら手配した品物がお客様に喜んでいただける。…ふふ、そうですね。私はきっとお客様の驚く顔や喜ぶ顔が見たいのです。自分の目で。お客様の反応が私の心を満たすのです。…だから私は周りに何を言われようとも社交会に通うのでしょうね」
ーーーそうだ。私はお客様の笑顔や楽しげな表情を見るのが好きなのだ。だから今の生き方をやめるつもりはない。
「そう、それは素敵だね。ああ、やっぱり君は魅力的な女性だな。ところで僕の奥さんになる決意はついたかい?」
「そっ、それは…」
「あはは、君は困り顔も可愛くてずっと見ていられるね」
「っ!!」
真剣な表情から一転して、おどけて見せるエドワード様。やっぱり引くところは引いてくれるのだが、本当にエドワード様には翻弄させられっぱなしだ。仕事に集中しなくては気持ちが揺れてしまいそうになる。気を引き締めないと簡単に絆されてしまいそうだ。
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