『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト

文字の大きさ
7 / 10

第七話 エドワードの苦悩

しおりを挟む
 料理の打ち合わせの後、エドワード様と共に会議室へと移動した。今日は元々会場に飾る花の打ち合わせを予定していたのだ。私はカタログとともにいくつかのサンプルをテーブルの上に並べた。折角なので極力エドワード様のお好きな花をふんだんに使おうと考えている。

「エドワード様はお好きな花はございますか?」
「そうだな…僕が好きなのは、かすみ草かな」

 かすみ草。主役の魅力を際立たせる愛らしく健気な花。
 第二王子としてのご自身を投影されているのかしら…

 私もかすみ草は大好きなのでその旨をお伝えすると、エドワード様は嬉しそうに目を細めて、見本に用意していた青い薔薇の花を一輪手に取り私の髪に差した。

「うん、よく似合ってる。マリリン嬢は整った顔立ちをしてるのに、わざと地味な化粧をしてるよね?」
「目立ちなくありませんから」
「ねぇ、目一杯おしゃれをして君を小馬鹿にする人達を驚かせてみない?僕の誕生パーティでさ、僕のパートナーとして」
「…目立ちたくありませんから」
「残念。気が変わったら教えてね」

 エドワード様は、引くところは引いてくれる。私が困っているのを感じ取っているのだろう。あるいは今の状況を楽しんでいるのかもしれないが。

 私は話題を変えるべく、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。

「エドワード様は『耳がいい』と仰っておりましたが…どれ程のものなのでしょう?」
「うーんそうだなぁ…やって見せた方が早いかも。ちょっと窓際のカーテンに隠れて小声で何か言ってみてくれる?」
「はい」

 私は椅子から立ち上がると、大きな窓に歩み寄り、美しいレース地のカーテンの影に隠れた。片側は日差しを取り入れるためにカーテンが開けられており、よく磨かれた窓ガラスに小さくエドワード様が映っていた。光を浴びてキラキラと特徴的な銀髪が輝いており、何とも神々しい。
 私は窓に向かって、できうる限りの小さな声で呟いた。

「エドワード様は本当に…神様みたい」
「ははっ、僕は神なんかじゃないよ。一人の女の子の気を引こうと頑張るただの男だよ」
「す、すごい…聞こえていたのですね…」
「どう?これで少しは分かってもらえたかな?」

 会議室とはいえ、王城の一室だ。中央に置かれたテーブルと椅子から窓際まで数メートルは離れている。声になるかならないかというほど小さく発した言葉であったが、エドワード様の耳にはしっかりと届いていたらしい。私は驚きを隠せぬままエドワード様のお隣へと戻った。

「羨ましいです。その聴力があれば私はもっと色々な情報を聞き取ることができるでしょうに…」
「ふふ、そうだね。情報収集にはもってこいだ」
「ですが……エドワード様のお耳は、聞きたくないことまで拾ってしまうのでしょうね。今までお辛い思いもされてきたのでしょう?」

 思わず発してしまった私の言葉に、エドワード様は静かに目を見開いた。

「君は本当に…はぁ、そうだね。僕の耳は聞きたくないことまで聞き取ってしまう。無意識に溢した言葉にはその人の真意が漏れ出るんだよ。どんな人にも仄暗い感情はあるものだ。それを全て受け止めてしまうと心が持たなくなってしまう。何より、内心どう思っているのかって相手に対して疑い深くなってしまうことが罪悪感を生み、心を苛む」
「エドワード様…」

 なんと言葉をかければいいのか。いつも明るくどんな人にも分け隔てなく接するエドワード様。その笑顔の下に多くの葛藤や傷を抱えていただなんて。

 上部だけの言葉が意味をなさないことはよく分かっているつもりだ。私は何も言えずに、ただエドワード様の少し震える手に自らの手をそっと添えることしかできなかった。そんな私に、エドワード様は優しい笑みを向けてくださる。

「…だが、マリリン嬢、君は違った。君が漏らす言葉に表裏はない。そう、人には少なからず表裏があるが、君からはそれを感じない。僕はきっと君のそんなところに惹かれたんだ」
「…買い被りすぎです」
「そんなことはない。君と会話を交わすようになってまだ日は浅いが、君との時間はとても楽しい。飾らなくていいし、警戒もしなくていい。心が楽なんだ。願わくば、ずっと一緒にいたい。会うたびに君への気持ちは膨らむばかりだ」

 エドワード様の手に添えていた私の手は、いつの間にかギュッと強く握りしめられていた。いつにない真剣な眼差しで、どうしても私の心拍数は上がってしまう。

 私は、商会の仕事が好きだ。優しい家族と共に、時に悪い笑みを浮かべながら今の生活を続けたい。エドワード様に好意を寄せていただけるのは本当に幸せなことだ。でも…

「君はどうしてそこまでして商会の仕事に携わるんだい?」

 私の心の内を覗いたかのように、エドワード様が問いかけてきた。

「…その答えは簡単です。単に楽しいからですわ。ふとした会話から商売の種を見出し、自ら手配した品物がお客様に喜んでいただける。…ふふ、そうですね。私はきっとお客様の驚く顔や喜ぶ顔が見たいのです。自分の目で。お客様の反応が私の心を満たすのです。…だから私は周りに何を言われようとも社交会に通うのでしょうね」


 ーーーそうだ。私はお客様の笑顔や楽しげな表情を見るのが好きなのだ。だから今の生き方をやめるつもりはない。


「そう、それは素敵だね。ああ、やっぱり君は魅力的な女性だな。ところで僕の奥さんになる決意はついたかい?」
「そっ、それは…」
「あはは、君は困り顔も可愛くてずっと見ていられるね」
「っ!!」

 真剣な表情から一転して、おどけて見せるエドワード様。やっぱり引くところは引いてくれるのだが、本当にエドワード様には翻弄させられっぱなしだ。仕事に集中しなくては気持ちが揺れてしまいそうになる。気を引き締めないと簡単に絆されてしまいそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...