【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

10. 特訓開始

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 翌朝、日が昇ると共に、ホムラはボスの間へと向かった。夜が明けると、冒険者達がダンジョン攻略に乗り出してくる。いつ挑戦者が訪れてもいいように、日中、ホムラはボスの間でひたすらその時を待つ。のだがーーー

「あ、あのぉ…いつ挑戦者が来るか分からないのに、この場所を使ってもいいんですか…?」

 ビクビクと辺りを見回しながら尋ねるのはエレインだ。特訓と聞いて気絶したエレインは、その後朝までぐっすり眠ったようだ。仮にもダンジョンの中なのだが、無防備に眠っていたエレインは存外大物なのかもしれないとホムラは小さく笑った。

「いいっていいって、挑戦者つったって、せいぜい2、3組だしよぉ。誰も来ない日もある。70階層の守護ってのは案外暇なんだよ。それにここでは俺がルールだ」
「ひ、暇…」

 必死の思いでダンジョンを攻略している冒険者が聞いたら絶句するに違いない。エレインは昨日からダンジョンの裏側を見すぎて何とも複雑な心境である。

「さて、と。俺が得意なのは見ての通り火属性だ。ってことで、まずは火属性魔法から特訓すっぞ!」
「や、やっぱりするんですね…特訓」

 頬をひくひくさせながらエレインが杖をギュッと抱きしめる。

「当たり前だろうが。お前、捨てられて悔しくねぇのか?」
「そっ、それは!悔しいです…それに、情けないです」
「だろ?捨てた奴らを見返したいとは思わねぇか?」
「見返す…?」

 エレインは首を傾げ、目を瞬かせた。そんなことは考えもしなかった。ボスの間に捨てられて、何故かそこのボスに拾われて、どういうことだか手合わせをして…それどころではなかった。

 それに、この2年間、エレインはどれだけ馬鹿にされようとも、どれほど蔑まれようとも、ずっと耐えて耐えてパーティに縋り付いてきた。居場所を守るのに必死で、一矢報いようなんて、思いもよらなかった。

「あー、お前はちっと自分に自信がなさすぎるな。ま、クソパーティのせいだろうが…お前の補助魔法は大したもんだ。他の魔法についても、きっと使い方を覚えりゃ伸びる。今がポンコツなら、伸び代しかねぇだろ?必死で食らい付いてこい!」

 飾らないホムラの言葉に、思わず涙が溢れた。
 散々言われてきた、弱い、使えない、迷惑だ、消えろーーーそんな心無い言葉で、自分の可能性まで縛ってしまっていたのかもしれない。

 ボスの間に捨てられ、弱いエレインは一度死んだ。ここには人の目もない、居るのは戦闘狂だが裏表のない一人の鬼神と、世話焼きで気苦労が絶えない一匹の火竜だけ。

 ーーー強くなりたい。変わりたい。
 エレインは久しぶりに自分の中に芽生えた前向きな感情に驚いた。

「わ、私っ、頑張って強くなります!それで…アレク達をギャフンと言わせます!」
「ははっ!よく言った!よっしゃ、じゃあ火属性魔法でどんどん攻撃してこい!!」
「はっ、はいぃぃぃっ!!」

 そうだ、強くなればいい。そうすれば自分に自信も持てるし、もしかしたらソロでも冒険者としてやっていけるかもしれない。そんな強い気持ちを込めて魔法を放った。

「《火球ファイアボール》!!」
「へぼい!!!」
「ひぇぇぇぇん」

 だが、決意虚しく、エレインの火球はホムラの手で握り潰されてしまった。
 人はそう簡単に変わらないし、一日やそこらで強くなる訳もなかった。

 ぐすんぐすんとべそをかくエレインに、ホムラは告げる。

「言っただろォ?どんどん打ってこいって!魔力が尽きるまで打ち続けろ!一回でも俺に攻撃を当ててみるんだなァ!!」

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるホムラ。エレインはぎゅっと杖を握りなおし、夢中で魔法を放ち続けた。

「《火球ファイアボール》!《火球ファイアボール》!《火球ファイアボール》!」
「ふんっ、よっ、ほっ。ほらもっとだ!打って打って打ちまくれ!!」
「ぐぅっ…《火球ファイアボール》!《火球ファイアボール》!」

 魔力が切れるまで、がむしゃらに魔法を放ち続けた。
 そして魔力切れと共に、エレインは仰向けに倒れ込んだ。とうとう最後までホムラに攻撃を当てることはできなかった。

「はぁ、はぁ、はぁっ」

 肩で息をするエレインの頭上に影がさす。腕組みをしながら、ホムラが覗き込んでいた。

「もう魔力切れか?どんな感じだ?」
「え…ん、何だか…お腹の奥の、底の方が空っぽになった感じ…?」

 エレインの答えに、ホムラが満足げに笑う。エレインの側に屈むと、つんと臍の下辺りを指で突いた。

「そう、そこが魔力の根源だ。魔法を打つときには身体の中で魔力を練り上げて、道具や身体からその魔力を放出する。何より大事なのは、魔力の源を感じることだ。自然と感じ取れるようになりゃあ、自分の魔力の残量も把握して戦えるようになる。戦闘中に魔力切れを起こしてぶっ倒れちゃ、死んだも同然だからな」
「な、なるほど…」

 ホムラの言葉にエレインは頷く。確かに今までそんなことを考えて魔法を使っていなかった。思ったよりもホムラは師に向いているのかもしれない。

「よっしゃ、魔力が回復したらまた特訓すんぞ。次はもっと魔力の出どころに意識を集中させろ。魔力の流れを感じるんだ。血液が身体を巡るように魔力を循環させろ。魔法に込める魔力量が変わって威力も増すはずだ」
「はっ、はひっ!」
「さて、と。お前は魔力が回復するまで裏で休んでろ」
「えっと…もう一歩も動けませんんん」

 エレインは魔力が尽きて指一本も動かせない状態だった。ホムラは大きな溜息をつくと、アグニを呼んだ。

「アグニ、運んでやれ」
「え~~~~ほんと人使い…じゃなくて竜使いが荒いんだからなぁ、もう」

 なんて言いつつ、アグニはエレインの足を引き摺ってダンジョンの裏世界へ向かっていった。
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