【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

文字の大きさ
32 / 109
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

31. 担当受付官

しおりを挟む
(やっぱり知ってる人に会っちゃったよぉぉ~~!)

 担当受付官のローラに声をかけられたエレインは、内心すこぶる狼狽していた。ぎゅっとフードを両手で掴んで顔を隠すが、時すでに遅しである。

 ローラは、いつもの丸メガネをくいっと直し、返事をしないエレインを不審げに見ている。毛量のある赤毛もいつも通り三つ編みにしており、首を傾げた拍子にぴょこんと三つ編みが跳ねるのが何とも可愛らしい。

「ええーっと…その…」
「?何か言いにくいことがあるなら、こちらへどうぞ」

 ローラはそう言うと、エレインの腕を掴んでスタスタ歩き始めた。アグニは慌てて後を追いながら、エレインを見上げる。アグニの顔には、『誰ですかこの人?』と書いてある。ぐいぐい腕を引かれるエレインは、アグニの問いに答えることも出来ず、こじんまりとした個室へと引き摺り込まれた。アグニも何とか中へ滑り込んだ。

「さ、どうぞ。座ってください。あぁ、そちらのお子様もどうぞ」
「し、失礼します…」

 エレインはビクビクしつつも言われるままに簡易的な椅子に腰掛けた。アグニもひょいと隣に座る。
 エレインは挙動不審げに辺りを見回すが、ローラは個室の扉を閉めると、エレインの対面に座った。

「ここは完全個室です。狭いですが防音設備もきちんとしてます。何か事情があるのでしょう?もうフードを脱いでも大丈夫ですよ」
「は、はい…」

 相変わらずの無表情であるが、ローラはエレインの人には言いづらい事情を察してくれているようだ。エレインは観念してぱさりとフードを脱いだ。

「それで?エレイン氏はこれまでどこで何をされていたのですか?」
「う、えぇっと…その…だ、ダンジョンの中で……暮らしていました」

 エレインが白状すると、ローラは僅かに目を見開き、深く溜息をついた。

「……そうですか。やはり噂は本当だったのですね」
「噂…?」

 ローラの言葉にエレインが首を傾げる。

「ええ、『彗星の新人コメットルーキー』が仲違いして解散したと言う噂です」
「えっ!?そうなんですか!?」

 思わぬ事にエレインは驚嘆の声をあげる。

「なんでも70階層の主に惨敗したのが契機だったようで…挑戦した翌朝に定食屋で口論している姿が見られています。アレックス氏の横暴なワンマンにメンバーが耐えきれずに出て行ったとか…」
「そ、そんなことが…」
「それに、エレイン氏の姿が数日見えないことから、アレックス氏の陰謀により、ダンジョン内で始末されたのでは、との飛躍した噂まで流れる始末です。ギルドとしては、これ以上過剰な噂が流れないように、鎮火させるのに苦労しています」

 ふぅと息を吐いたローラには、疲労の色が滲んでいる。担当官として、エレインの所在の確認や事態の確認に奔走していたのだろうか。エレインは少し申し訳ない気持ちになった。

「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって…」

 縮こまって詫びるエレインに、ローラは少し悪い顔をする。

「ふっ、いいんですよ。これが私の仕事ですので。個人的にはアレックス氏は前々から胡散臭いと思っていたので、内心ざまあみろと思っております」
「えっ!?」

 隠し立てせずになんでもズバズバ言うローラ。彼女のこういうところが、エレインは存外嫌いではなかった。

「それに、アナタはへっぽこの割に根性がありますので、何処かで生きていると信じていました」

 普段あまり笑みを見せないローラであるが、エレインの無事を確認できて気が緩んでいるのか、小さな微笑みを浮かべた。
 この人、ホムラと似たようなことを言っているな、と隣のアグニは小さく苦笑した。

「ローラさぁん…ぐすっ」
「そうやってすぐ泣くところはどうかと思いますが」
「ううっ」

 エレインはというと、感激のあまり涙を浮かべている。その様子にいつもの無表情に戻ったローラが鋭いツッコミを入れている。

(なんだ、地上にもエレインを理解してくれている人は居たんですね)

 二人のやり取りを観察しながら、アグニは少し温かな気持ちになっていた。

「それで、そちらは?」

 和やかな雰囲気の中、ローラがアグニに視線を移したため、ドッキー!っとエレインの心臓が跳ねた。

「ん?ボクですか?ボクは火りゅ…もがっ」
「し、親戚の子供です!!!」

 自分の話題と気付いたアグニが、あろうことか素性をさらりと明かそうとしたため、エレインは慌てて口を押さえて親戚の子ということにしてしまった。アグニの不満げな視線がちくちく刺さるが、ここは地上なのでそう簡単に魔物であると明かされては堪らない。

「…そうですか。そういうことにしておきましょう」

 ローラはジッと目を細めてアグニを見ていたが、小さく首を振って彼女なりに納得してくれたようだ。

「さて。エレイン氏の無事も確認できましたし…長々と引き留めても申し訳ないので、今日はこの辺りにしておきましょう」

 ガタンと椅子を鳴らしてローラが立ち上がったのを合図に、エレインとアグニは部屋を出た。ローラが玄関まで送ってくれると言うので、三人でギルド内を歩いて行く。

 ぞろぞろと掲示板前を通りかがった時、

「な、にこれ…」

 不意に立ち止まったエレインがサッと顔を青ざめさせながら、パーティ募集の掲示板によろよろと近づいて行った。

 そして、とある一枚の紙を真っ白な顔をして見ている。

「何ですか?なんて書いてあるんですか?」

 背が低いアグニには詳細が見えないようで、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらエレインに尋ねる。

「……アレクが…70階層打倒のために、パーティメンバーを募集してる…」
「はぁ、懲りないですねぇ。でもそれがどうしたんです?」

 アグニは大した内容じゃないと肩をすくめたが、エレインの様子が気になり更に問いかけた。

「募集人数が…ひゃ、100人…って…」
「100!?」

 普通ではあり得ない数に、流石のアグニも驚いて声を上擦らせた。立ちすくむ二人に気付いたローラが、エレインの手元を覗き込んだ。

「ああ、この募集ですか。アレックス氏がヤケになっていると一部では心配する声も上がっていますが…ご存じの通り、単身やパーティメンバー数人程度では、70階層の主を倒すことはできないでしょう。なので、これを機にアレックス氏の募集に乗る人も少なからず居るようです。恐らく近いうちに募集人数に達するとギルドは見ております。長年突破できなかった70階層がついに破られるかもしれないと」
「そ、そんな…」

 100人もの冒険者が徒党を組んでホムラに挑みに来たら、流石のホムラも厳しい戦い強いられるのではないか。

(ホムラさんが、負ける…なんて…そんなことは、ないよね?)

 エレインの胸にザワザワと不安な気持ちが渦巻いた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...