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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
31. 担当受付官
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(やっぱり知ってる人に会っちゃったよぉぉ~~!)
担当受付官のローラに声をかけられたエレインは、内心すこぶる狼狽していた。ぎゅっとフードを両手で掴んで顔を隠すが、時すでに遅しである。
ローラは、いつもの丸メガネをくいっと直し、返事をしないエレインを不審げに見ている。毛量のある赤毛もいつも通り三つ編みにしており、首を傾げた拍子にぴょこんと三つ編みが跳ねるのが何とも可愛らしい。
「ええーっと…その…」
「?何か言いにくいことがあるなら、こちらへどうぞ」
ローラはそう言うと、エレインの腕を掴んでスタスタ歩き始めた。アグニは慌てて後を追いながら、エレインを見上げる。アグニの顔には、『誰ですかこの人?』と書いてある。ぐいぐい腕を引かれるエレインは、アグニの問いに答えることも出来ず、こじんまりとした個室へと引き摺り込まれた。アグニも何とか中へ滑り込んだ。
「さ、どうぞ。座ってください。あぁ、そちらのお子様もどうぞ」
「し、失礼します…」
エレインはビクビクしつつも言われるままに簡易的な椅子に腰掛けた。アグニもひょいと隣に座る。
エレインは挙動不審げに辺りを見回すが、ローラは個室の扉を閉めると、エレインの対面に座った。
「ここは完全個室です。狭いですが防音設備もきちんとしてます。何か事情があるのでしょう?もうフードを脱いでも大丈夫ですよ」
「は、はい…」
相変わらずの無表情であるが、ローラはエレインの人には言いづらい事情を察してくれているようだ。エレインは観念してぱさりとフードを脱いだ。
「それで?エレイン氏はこれまでどこで何をされていたのですか?」
「う、えぇっと…その…だ、ダンジョンの中で……暮らしていました」
エレインが白状すると、ローラは僅かに目を見開き、深く溜息をついた。
「……そうですか。やはり噂は本当だったのですね」
「噂…?」
ローラの言葉にエレインが首を傾げる。
「ええ、『彗星の新人』が仲違いして解散したと言う噂です」
「えっ!?そうなんですか!?」
思わぬ事にエレインは驚嘆の声をあげる。
「なんでも70階層の主に惨敗したのが契機だったようで…挑戦した翌朝に定食屋で口論している姿が見られています。アレックス氏の横暴なワンマンにメンバーが耐えきれずに出て行ったとか…」
「そ、そんなことが…」
「それに、エレイン氏の姿が数日見えないことから、アレックス氏の陰謀により、ダンジョン内で始末されたのでは、との飛躍した噂まで流れる始末です。ギルドとしては、これ以上過剰な噂が流れないように、鎮火させるのに苦労しています」
ふぅと息を吐いたローラには、疲労の色が滲んでいる。担当官として、エレインの所在の確認や事態の確認に奔走していたのだろうか。エレインは少し申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって…」
縮こまって詫びるエレインに、ローラは少し悪い顔をする。
「ふっ、いいんですよ。これが私の仕事ですので。個人的にはアレックス氏は前々から胡散臭いと思っていたので、内心ざまあみろと思っております」
「えっ!?」
隠し立てせずになんでもズバズバ言うローラ。彼女のこういうところが、エレインは存外嫌いではなかった。
「それに、アナタはへっぽこの割に根性がありますので、何処かで生きていると信じていました」
普段あまり笑みを見せないローラであるが、エレインの無事を確認できて気が緩んでいるのか、小さな微笑みを浮かべた。
この人、ホムラと似たようなことを言っているな、と隣のアグニは小さく苦笑した。
「ローラさぁん…ぐすっ」
「そうやってすぐ泣くところはどうかと思いますが」
「ううっ」
エレインはというと、感激のあまり涙を浮かべている。その様子にいつもの無表情に戻ったローラが鋭いツッコミを入れている。
(なんだ、地上にもエレインを理解してくれている人は居たんですね)
二人のやり取りを観察しながら、アグニは少し温かな気持ちになっていた。
「それで、そちらは?」
和やかな雰囲気の中、ローラがアグニに視線を移したため、ドッキー!っとエレインの心臓が跳ねた。
「ん?ボクですか?ボクは火りゅ…もがっ」
「し、親戚の子供です!!!」
自分の話題と気付いたアグニが、あろうことか素性をさらりと明かそうとしたため、エレインは慌てて口を押さえて親戚の子ということにしてしまった。アグニの不満げな視線がちくちく刺さるが、ここは地上なのでそう簡単に魔物であると明かされては堪らない。
「…そうですか。そういうことにしておきましょう」
ローラはジッと目を細めてアグニを見ていたが、小さく首を振って彼女なりに納得してくれたようだ。
「さて。エレイン氏の無事も確認できましたし…長々と引き留めても申し訳ないので、今日はこの辺りにしておきましょう」
ガタンと椅子を鳴らしてローラが立ち上がったのを合図に、エレインとアグニは部屋を出た。ローラが玄関まで送ってくれると言うので、三人でギルド内を歩いて行く。
ぞろぞろと掲示板前を通りかがった時、
「な、にこれ…」
不意に立ち止まったエレインがサッと顔を青ざめさせながら、パーティ募集の掲示板によろよろと近づいて行った。
そして、とある一枚の紙を真っ白な顔をして見ている。
「何ですか?なんて書いてあるんですか?」
背が低いアグニには詳細が見えないようで、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらエレインに尋ねる。
「……アレクが…70階層打倒のために、パーティメンバーを募集してる…」
「はぁ、懲りないですねぇ。でもそれがどうしたんです?」
アグニは大した内容じゃないと肩をすくめたが、エレインの様子が気になり更に問いかけた。
「募集人数が…ひゃ、100人…って…」
「100!?」
普通ではあり得ない数に、流石のアグニも驚いて声を上擦らせた。立ちすくむ二人に気付いたローラが、エレインの手元を覗き込んだ。
「ああ、この募集ですか。アレックス氏がヤケになっていると一部では心配する声も上がっていますが…ご存じの通り、単身やパーティメンバー数人程度では、70階層の主を倒すことはできないでしょう。なので、これを機にアレックス氏の募集に乗る人も少なからず居るようです。恐らく近いうちに募集人数に達するとギルドは見ております。長年突破できなかった70階層がついに破られるかもしれないと」
「そ、そんな…」
100人もの冒険者が徒党を組んでホムラに挑みに来たら、流石のホムラも厳しい戦い強いられるのではないか。
(ホムラさんが、負ける…なんて…そんなことは、ないよね?)
エレインの胸にザワザワと不安な気持ちが渦巻いた。
担当受付官のローラに声をかけられたエレインは、内心すこぶる狼狽していた。ぎゅっとフードを両手で掴んで顔を隠すが、時すでに遅しである。
ローラは、いつもの丸メガネをくいっと直し、返事をしないエレインを不審げに見ている。毛量のある赤毛もいつも通り三つ編みにしており、首を傾げた拍子にぴょこんと三つ編みが跳ねるのが何とも可愛らしい。
「ええーっと…その…」
「?何か言いにくいことがあるなら、こちらへどうぞ」
ローラはそう言うと、エレインの腕を掴んでスタスタ歩き始めた。アグニは慌てて後を追いながら、エレインを見上げる。アグニの顔には、『誰ですかこの人?』と書いてある。ぐいぐい腕を引かれるエレインは、アグニの問いに答えることも出来ず、こじんまりとした個室へと引き摺り込まれた。アグニも何とか中へ滑り込んだ。
「さ、どうぞ。座ってください。あぁ、そちらのお子様もどうぞ」
「し、失礼します…」
エレインはビクビクしつつも言われるままに簡易的な椅子に腰掛けた。アグニもひょいと隣に座る。
エレインは挙動不審げに辺りを見回すが、ローラは個室の扉を閉めると、エレインの対面に座った。
「ここは完全個室です。狭いですが防音設備もきちんとしてます。何か事情があるのでしょう?もうフードを脱いでも大丈夫ですよ」
「は、はい…」
相変わらずの無表情であるが、ローラはエレインの人には言いづらい事情を察してくれているようだ。エレインは観念してぱさりとフードを脱いだ。
「それで?エレイン氏はこれまでどこで何をされていたのですか?」
「う、えぇっと…その…だ、ダンジョンの中で……暮らしていました」
エレインが白状すると、ローラは僅かに目を見開き、深く溜息をついた。
「……そうですか。やはり噂は本当だったのですね」
「噂…?」
ローラの言葉にエレインが首を傾げる。
「ええ、『彗星の新人』が仲違いして解散したと言う噂です」
「えっ!?そうなんですか!?」
思わぬ事にエレインは驚嘆の声をあげる。
「なんでも70階層の主に惨敗したのが契機だったようで…挑戦した翌朝に定食屋で口論している姿が見られています。アレックス氏の横暴なワンマンにメンバーが耐えきれずに出て行ったとか…」
「そ、そんなことが…」
「それに、エレイン氏の姿が数日見えないことから、アレックス氏の陰謀により、ダンジョン内で始末されたのでは、との飛躍した噂まで流れる始末です。ギルドとしては、これ以上過剰な噂が流れないように、鎮火させるのに苦労しています」
ふぅと息を吐いたローラには、疲労の色が滲んでいる。担当官として、エレインの所在の確認や事態の確認に奔走していたのだろうか。エレインは少し申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって…」
縮こまって詫びるエレインに、ローラは少し悪い顔をする。
「ふっ、いいんですよ。これが私の仕事ですので。個人的にはアレックス氏は前々から胡散臭いと思っていたので、内心ざまあみろと思っております」
「えっ!?」
隠し立てせずになんでもズバズバ言うローラ。彼女のこういうところが、エレインは存外嫌いではなかった。
「それに、アナタはへっぽこの割に根性がありますので、何処かで生きていると信じていました」
普段あまり笑みを見せないローラであるが、エレインの無事を確認できて気が緩んでいるのか、小さな微笑みを浮かべた。
この人、ホムラと似たようなことを言っているな、と隣のアグニは小さく苦笑した。
「ローラさぁん…ぐすっ」
「そうやってすぐ泣くところはどうかと思いますが」
「ううっ」
エレインはというと、感激のあまり涙を浮かべている。その様子にいつもの無表情に戻ったローラが鋭いツッコミを入れている。
(なんだ、地上にもエレインを理解してくれている人は居たんですね)
二人のやり取りを観察しながら、アグニは少し温かな気持ちになっていた。
「それで、そちらは?」
和やかな雰囲気の中、ローラがアグニに視線を移したため、ドッキー!っとエレインの心臓が跳ねた。
「ん?ボクですか?ボクは火りゅ…もがっ」
「し、親戚の子供です!!!」
自分の話題と気付いたアグニが、あろうことか素性をさらりと明かそうとしたため、エレインは慌てて口を押さえて親戚の子ということにしてしまった。アグニの不満げな視線がちくちく刺さるが、ここは地上なのでそう簡単に魔物であると明かされては堪らない。
「…そうですか。そういうことにしておきましょう」
ローラはジッと目を細めてアグニを見ていたが、小さく首を振って彼女なりに納得してくれたようだ。
「さて。エレイン氏の無事も確認できましたし…長々と引き留めても申し訳ないので、今日はこの辺りにしておきましょう」
ガタンと椅子を鳴らしてローラが立ち上がったのを合図に、エレインとアグニは部屋を出た。ローラが玄関まで送ってくれると言うので、三人でギルド内を歩いて行く。
ぞろぞろと掲示板前を通りかがった時、
「な、にこれ…」
不意に立ち止まったエレインがサッと顔を青ざめさせながら、パーティ募集の掲示板によろよろと近づいて行った。
そして、とある一枚の紙を真っ白な顔をして見ている。
「何ですか?なんて書いてあるんですか?」
背が低いアグニには詳細が見えないようで、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらエレインに尋ねる。
「……アレクが…70階層打倒のために、パーティメンバーを募集してる…」
「はぁ、懲りないですねぇ。でもそれがどうしたんです?」
アグニは大した内容じゃないと肩をすくめたが、エレインの様子が気になり更に問いかけた。
「募集人数が…ひゃ、100人…って…」
「100!?」
普通ではあり得ない数に、流石のアグニも驚いて声を上擦らせた。立ちすくむ二人に気付いたローラが、エレインの手元を覗き込んだ。
「ああ、この募集ですか。アレックス氏がヤケになっていると一部では心配する声も上がっていますが…ご存じの通り、単身やパーティメンバー数人程度では、70階層の主を倒すことはできないでしょう。なので、これを機にアレックス氏の募集に乗る人も少なからず居るようです。恐らく近いうちに募集人数に達するとギルドは見ております。長年突破できなかった70階層がついに破られるかもしれないと」
「そ、そんな…」
100人もの冒険者が徒党を組んでホムラに挑みに来たら、流石のホムラも厳しい戦い強いられるのではないか。
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