【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

39. 闇魔法使い

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「おい!アレクはどこだ!?」
「そっちに行かなかったか?」
「くそっ!今日も逃げられたぜ…見つけたらタダじゃおかねぇぞ」

 賑わうウィルダリアの街の路地裏で、数人の冒険者らしき屈強な男達が血眼になってアレクを探していた。
 しばらく辺りを彷徨いた後、ここには居ないと判断したのか、他の場所へと移って行った。

「………行ったか?」

 飲食店の裏手にあるゴミ置き場のゴミの中から、がさりとアレクが立ち上がり、ほーっと息を吐いた。アレクは、服についた魚の骨や、野菜の皮を汚らしそうに摘み取り、地面に叩きつけた。

「くそっ!この俺が何でこんなコソコソ隠れるようなことを…」

 答えは決まっていた。
 100人の冒険者を引き連れて、意気揚々と70階層の踏破に乗り出したアレク。だが、余裕で倒せると思っていたホムラに圧倒されて二度目の敗北を期した。そのお陰で、100人の冒険者への支払いに充てる予定だった宝物も手に入らず、無一文のアレクは彼らに報酬を支払うことができずにいた。
 銀貨50枚を100人分。到底一朝一夕で稼げる金額ではなかった。
 結果、アレクはそれらの支払いを踏み倒し、彼らから逃げ隠れる生活を強いられていた。

彗星の新人コメットルーキー』のリーダーとして持て囃され、憧れの眼差しを集めていたアレク。今や憧れの眼差しは、侮蔑のそれへとすっかり変容していた。

(くそっ、くそっ…くそくそくそぉっ!!)

 惨めな自分の姿を顧みて、アレクは路地裏の壁を殴りつけた。拳にじんわりと血が滲むが、そんなことはお構いなしに数度壁を殴った。その度に、ポタポタと地面に血が滴る。

(『破壊魔神』め…許さない…許さないぞ)

 ホムラに対する逆恨みの念を強くするアレクであったが、今回のことでギルド内での信頼は失墜してしまった。今後仲間を集めることも叶わないだろう。かと言って、一人で挑んでどうにかなる相手でもない。

 アレクは、力なくその場に座り込んだ。ぼーっと地面を眺めていると、ふと頭上に影が差した。

 虚な目で見上げると、そこには《転移門ポータル》の魔石の改造を依頼した闇魔法使いの姿があった。

「…何だ、お前にはきちんと支払っただろう。無様な俺を笑いに来たのか?」

 自嘲気味に笑うアレクの顔をただただ見下ろす闇魔法使い。相変わらず深くフードを被っており、その表情は読めない。

「倒したいのか?」
「は?」

 アレクがジロリと睨みつけていると、闇魔法使いは脳に響くような低い声でそう言った。

「70階層の主を、倒したいのか?」

 再び問われた言葉に、アレクは目を見開いた。

「た、倒せるのか…?」

 アレクは、ドクンドクンと騒つく鼓動を抑えるため、片手でギュッと胸の辺りを握りしめた。
 アレクの問いに、闇魔法使いがニヤリと笑った気がした。

「倒せるさ。お前はダンジョンの魔物が弱体化する方法を、知っているか?」
「…なんだと?」

 回りくどい言い方に苛立ちを覚えつつ、アレクは対話を続ける。

「地上さ、地上に引きずり出してしまえばいい」
「なっ…」

 闇魔法使いは愉快そうに肩を揺らしながら、両手を大きく広げて天を仰いだ。その視線の先には、高く聳え立つダンジョンの塔が見える。

「…ダンジョンの魔物が、外に出れるのか?」

 アレクは訝しげに闇魔法使いを睨みつけた。クツクツと怪しい笑みを漏らしながら、闇魔法使いはゆっくりと両手を下ろした。そして外套のポケットに手を入れると、いくつかの道具を取り出した。

「出れるとも。だが、ダンジョンで生まれた魔物は、ダンジョンの外ではその力の10分の1も発揮することが叶わないのさ。後はこの道具を使えばいい」
「これは…」

 闇魔法使いが差し出したのは、怪しい鏡と短剣だった。

「ふふふ、対魔の力が込められている魔道具だ。これをお前に譲ろうじゃないか」
「…金は払えんぞ」

 アレクが念押しでそう言うと、闇魔法使いは再び可笑そうに肩を震わせた。

「要らないさ。金はね。魔道具の効果を確認できればそれでいい…だが、無事に使えた暁には…それ相応の対価を貰いに行く」
「対価…だと?」

 ますます怪しい。断るべきか、アレクが思い悩んでいると、

「あの男を、ホムラを、倒したいんじゃないのかい?それとも、お前はただ泣き寝入りをするだけの敗者に成り下がるのか?」
「!」

 挑発するように闇魔法使いに言われ、アレクは反射的に魔道具を奪い取った。

「くくく、それでいい。後はどうやって地上に誘い出すかだが、それは自分で考えるんだな」

 不気味な笑い声を残して、闇魔法使いは後退りすると、影の中へと消えていった。

 アレクはしばらくの間、ジッと手の中にある魔道具を見下ろしていた。
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