【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト

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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

67. ウォンの昔話

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「…ということがあってね」
「…そうか」

 手鏡を持った冒険者が70階層にやって来たその翌日、エレインは久々に75階層のウォンの元を訪ねていた。

 エレインの話を聞いたウォンは、どこか深刻な様子で顎に手を当てて何やら思案していた。

「ウォン?どうしたの…あっ!ごめん!ウォンに手土産買ってくるの忘れちゃった…それで怒ってるの?」
「…お前は呑気でいいな、たまに羨ましくなるよ」
「それ、褒めてる?」

 検討はずれなエレインの言葉に、ウォンは深く溜息をついた。

「お前が地上で戦った男は、手鏡と呪詛の込められた短剣を使っていたと言ったな」
「え?うん…それでその手鏡と似たものが最近出回っているみたいで…」

 そして再び考え込むウォン。エレインは首を傾げながら、ウォンの隣に座って樹皮の壁にもたれ掛かった。

「昔…」
「え?」

 不意に、ウォンが口を開いて、直ぐに閉じた。そして、躊躇いがちに再び語り始めた。

「昔、俺には兄貴分がいた。名は、シン。数少ない俺と同じ種族で、彼は道具を作る能力に長けていた」

 静かな声で、どこか懐かしむように語るウォンの言葉に、エレインは静かに耳を傾けた。

「呪詛が使えるという話は聞いたことがないが…手先が異様に器用な男だった。彼がダンジョンにいた頃は、よく一緒に遊んだものだった。短刀の扱いも彼に教わった」
「ダンジョンに頃は…?」

 過去形の言葉にエレインは思わず口を挟んでしまった。慌てて口元を押さえるが、ウォンはどこか寂しげな気配を漂わせ、静かに頷いた。

「ああ、彼はある日、俺の前から…ダンジョンから姿を消した」
「え…」
「彼は…であることを酷く気にしていたからな」
?」

 ウォンの言葉にエレインは首を傾げるばかりだ。

「ダンジョンの魔物は、その生を受けた時からその種族、そして役割が決められている。お前が住む70階層の主であるホムラも、70階層の守護者として生を受け、その責務を果たしている。それがダンジョンの意志だからだ」

 ウォンは静かに語り続けている。エレインはどこか儚げなその手をそっと握った。

「シンはとても強い魔物だった。だが、ダンジョンに。ただの魔物として生まれたことに酷くコンプレックスを抱いていてな。階層の守護者として冒険者と戦い、その強さを知らしめたいと常々言っていた。承認欲求の強い男だった」

 ウォンはそっとエレインの手を握り返し、エレインに向き合った。

「もしかすると、とは思っていたが、シンは地上へ降りたのかもしれない。かつてのハイエルフのように」
「え…じゃあ…」

 ウォンが言わんとしていることに、エレインは気づき、目を見開いた。

「ああ、その闇の魔道具を作っているのは、もしかするとシンかもしれない。地上では魔物の本来の力が発揮できないはずだが…長きに渡り地上で生きることで、地上に順応したのだろう」
「で、でも…それって何十年も、それよりもずっと前のことなんだよね?私の先祖のハイエルフは…地上で寿命を迎えてみんなもう居なくなっているのに…どうしてそんなに長く生きることができるの?」

 エレインの問いに、ウォンは静かに首を振った。そして、忌々しそうに狐の面に手を添えた。

「それは、俺達の種族特有の能力によるのだろうな…だが、すまない。これ以上は話せない。この魔封じの面で封じた能力を…俺は酷く嫌悪していてな」
「ウォン…」

 エレインは強くウォンの手を握った。少し自嘲気味に垣間見せたウォンの素性。自らの力を嫌悪していると語るその心は、どれほど傷ついているのだろう。

「あ、ねぇっ、ウォンってさ、なんでーーーーーーーー」

 話を変えるために、エレインは明るい声を出し、ずっと気になっていたことを尋ねた。エレインの問いに、狐の面の向こうで、ウォンが目を見開く気配がした。

「…気付いていたのか」
「えへへ、何となくね。そうなんじゃないのかなーって」

 ウォンは気まずそうに視線を逸らすと、観念したように頷いた。

「あ、やっぱりそうだよね。私と一緒だね」

 エレインはニコリとウォンに微笑みかけた。

「…お前には敵わないな。悪い、暗い話をしてしまった。どうだ?この間約束した風魔法の修行でも見てやろう」
「え!本当!?嬉しいっ」

 ウォンの提案にエレインは手を叩くと、いそいそと樹洞から出て行ってしまった。

「ふ、気が早い奴だな」

 ウォンも小さく笑みを零しながらエレインの後を追った。
 エレインの明るさに、ウォンは閉ざされた心が少しずつ絆されていくのを感じていた。
 不思議と嫌な気はしなかった。
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