71 / 109
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
67. ウォンの昔話
しおりを挟む
「…ということがあってね」
「…そうか」
手鏡を持った冒険者が70階層にやって来たその翌日、エレインは久々に75階層のウォンの元を訪ねていた。
エレインの話を聞いたウォンは、どこか深刻な様子で顎に手を当てて何やら思案していた。
「ウォン?どうしたの…あっ!ごめん!ウォンに手土産買ってくるの忘れちゃった…それで怒ってるの?」
「…お前は呑気でいいな、たまに羨ましくなるよ」
「それ、褒めてる?」
検討はずれなエレインの言葉に、ウォンは深く溜息をついた。
「お前が地上で戦った男は、手鏡と呪詛の込められた短剣を使っていたと言ったな」
「え?うん…それでその手鏡と似たものが最近出回っているみたいで…」
そして再び考え込むウォン。エレインは首を傾げながら、ウォンの隣に座って樹皮の壁にもたれ掛かった。
「昔…」
「え?」
不意に、ウォンが口を開いて、直ぐに閉じた。そして、躊躇いがちに再び語り始めた。
「昔、俺には兄貴分がいた。名は、シン。数少ない俺と同じ種族で、彼は道具を作る能力に長けていた」
静かな声で、どこか懐かしむように語るウォンの言葉に、エレインは静かに耳を傾けた。
「呪詛が使えるという話は聞いたことがないが…手先が異様に器用な男だった。彼がダンジョンにいた頃は、よく一緒に遊んだものだった。短刀の扱いも彼に教わった」
「ダンジョンにいた頃は…?」
過去形の言葉にエレインは思わず口を挟んでしまった。慌てて口元を押さえるが、ウォンはどこか寂しげな気配を漂わせ、静かに頷いた。
「ああ、彼はある日、俺の前から…ダンジョンから姿を消した」
「え…」
「彼は…階層主のなり損ないであることを酷く気にしていたからな」
「階層主のなり損ない?」
ウォンの言葉にエレインは首を傾げるばかりだ。
「ダンジョンの魔物は、その生を受けた時からその種族、そして役割が決められている。お前が住む70階層の主であるホムラも、70階層の守護者として生を受け、その責務を果たしている。それがダンジョンの意志だからだ」
ウォンは静かに語り続けている。エレインはどこか儚げなその手をそっと握った。
「シンはとても強い魔物だった。だが、ダンジョンに選ばれなかった。ただの魔物として生まれたことに酷くコンプレックスを抱いていてな。階層の守護者として冒険者と戦い、その強さを知らしめたいと常々言っていた。承認欲求の強い男だった」
ウォンはそっとエレインの手を握り返し、エレインに向き合った。
「もしかすると、とは思っていたが、シンは地上へ降りたのかもしれない。かつてのハイエルフのように」
「え…じゃあ…」
ウォンが言わんとしていることに、エレインは気づき、目を見開いた。
「ああ、その闇の魔道具を作っているのは、もしかするとシンかもしれない。地上では魔物の本来の力が発揮できないはずだが…長きに渡り地上で生きることで、地上に順応したのだろう」
「で、でも…それって何十年も、それよりもずっと前のことなんだよね?私の先祖のハイエルフは…地上で寿命を迎えてみんなもう居なくなっているのに…どうしてそんなに長く生きることができるの?」
エレインの問いに、ウォンは静かに首を振った。そして、忌々しそうに狐の面に手を添えた。
「それは、俺達の種族特有の能力によるのだろうな…だが、すまない。これ以上は話せない。この魔封じの面で封じた能力を…俺は酷く嫌悪していてな」
「ウォン…」
エレインは強くウォンの手を握った。少し自嘲気味に垣間見せたウォンの素性。自らの力を嫌悪していると語るその心は、どれほど傷ついているのだろう。
「あ、ねぇっ、ウォンってさ、なんでーーーーーーーー」
話を変えるために、エレインは明るい声を出し、ずっと気になっていたことを尋ねた。エレインの問いに、狐の面の向こうで、ウォンが目を見開く気配がした。
「…気付いていたのか」
「えへへ、何となくね。そうなんじゃないのかなーって」
ウォンは気まずそうに視線を逸らすと、観念したように頷いた。
「あ、やっぱりそうだよね。私と一緒だね」
エレインはニコリとウォンに微笑みかけた。
「…お前には敵わないな。悪い、暗い話をしてしまった。どうだ?この間約束した風魔法の修行でも見てやろう」
「え!本当!?嬉しいっ」
ウォンの提案にエレインは手を叩くと、いそいそと樹洞から出て行ってしまった。
「ふ、気が早い奴だな」
ウォンも小さく笑みを零しながらエレインの後を追った。
エレインの明るさに、ウォンは閉ざされた心が少しずつ絆されていくのを感じていた。
不思議と嫌な気はしなかった。
「…そうか」
手鏡を持った冒険者が70階層にやって来たその翌日、エレインは久々に75階層のウォンの元を訪ねていた。
エレインの話を聞いたウォンは、どこか深刻な様子で顎に手を当てて何やら思案していた。
「ウォン?どうしたの…あっ!ごめん!ウォンに手土産買ってくるの忘れちゃった…それで怒ってるの?」
「…お前は呑気でいいな、たまに羨ましくなるよ」
「それ、褒めてる?」
検討はずれなエレインの言葉に、ウォンは深く溜息をついた。
「お前が地上で戦った男は、手鏡と呪詛の込められた短剣を使っていたと言ったな」
「え?うん…それでその手鏡と似たものが最近出回っているみたいで…」
そして再び考え込むウォン。エレインは首を傾げながら、ウォンの隣に座って樹皮の壁にもたれ掛かった。
「昔…」
「え?」
不意に、ウォンが口を開いて、直ぐに閉じた。そして、躊躇いがちに再び語り始めた。
「昔、俺には兄貴分がいた。名は、シン。数少ない俺と同じ種族で、彼は道具を作る能力に長けていた」
静かな声で、どこか懐かしむように語るウォンの言葉に、エレインは静かに耳を傾けた。
「呪詛が使えるという話は聞いたことがないが…手先が異様に器用な男だった。彼がダンジョンにいた頃は、よく一緒に遊んだものだった。短刀の扱いも彼に教わった」
「ダンジョンにいた頃は…?」
過去形の言葉にエレインは思わず口を挟んでしまった。慌てて口元を押さえるが、ウォンはどこか寂しげな気配を漂わせ、静かに頷いた。
「ああ、彼はある日、俺の前から…ダンジョンから姿を消した」
「え…」
「彼は…階層主のなり損ないであることを酷く気にしていたからな」
「階層主のなり損ない?」
ウォンの言葉にエレインは首を傾げるばかりだ。
「ダンジョンの魔物は、その生を受けた時からその種族、そして役割が決められている。お前が住む70階層の主であるホムラも、70階層の守護者として生を受け、その責務を果たしている。それがダンジョンの意志だからだ」
ウォンは静かに語り続けている。エレインはどこか儚げなその手をそっと握った。
「シンはとても強い魔物だった。だが、ダンジョンに選ばれなかった。ただの魔物として生まれたことに酷くコンプレックスを抱いていてな。階層の守護者として冒険者と戦い、その強さを知らしめたいと常々言っていた。承認欲求の強い男だった」
ウォンはそっとエレインの手を握り返し、エレインに向き合った。
「もしかすると、とは思っていたが、シンは地上へ降りたのかもしれない。かつてのハイエルフのように」
「え…じゃあ…」
ウォンが言わんとしていることに、エレインは気づき、目を見開いた。
「ああ、その闇の魔道具を作っているのは、もしかするとシンかもしれない。地上では魔物の本来の力が発揮できないはずだが…長きに渡り地上で生きることで、地上に順応したのだろう」
「で、でも…それって何十年も、それよりもずっと前のことなんだよね?私の先祖のハイエルフは…地上で寿命を迎えてみんなもう居なくなっているのに…どうしてそんなに長く生きることができるの?」
エレインの問いに、ウォンは静かに首を振った。そして、忌々しそうに狐の面に手を添えた。
「それは、俺達の種族特有の能力によるのだろうな…だが、すまない。これ以上は話せない。この魔封じの面で封じた能力を…俺は酷く嫌悪していてな」
「ウォン…」
エレインは強くウォンの手を握った。少し自嘲気味に垣間見せたウォンの素性。自らの力を嫌悪していると語るその心は、どれほど傷ついているのだろう。
「あ、ねぇっ、ウォンってさ、なんでーーーーーーーー」
話を変えるために、エレインは明るい声を出し、ずっと気になっていたことを尋ねた。エレインの問いに、狐の面の向こうで、ウォンが目を見開く気配がした。
「…気付いていたのか」
「えへへ、何となくね。そうなんじゃないのかなーって」
ウォンは気まずそうに視線を逸らすと、観念したように頷いた。
「あ、やっぱりそうだよね。私と一緒だね」
エレインはニコリとウォンに微笑みかけた。
「…お前には敵わないな。悪い、暗い話をしてしまった。どうだ?この間約束した風魔法の修行でも見てやろう」
「え!本当!?嬉しいっ」
ウォンの提案にエレインは手を叩くと、いそいそと樹洞から出て行ってしまった。
「ふ、気が早い奴だな」
ウォンも小さく笑みを零しながらエレインの後を追った。
エレインの明るさに、ウォンは閉ざされた心が少しずつ絆されていくのを感じていた。
不思議と嫌な気はしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる