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第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
102. ずっと一緒に
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ウォンが戻ってから、エレイン達は地上での出来事の詳細を聞いた。
「もう、シンがダンジョンに関わることはないだろう」
そう言ったウォンの表情はどこか寂しげであった。
ウォンはその日以来、狐の面を付けることをやめた。そして一人称が『私』になった。エレインはウォンが素顔を晒すことを素直に喜び、これまで通りこまめに75階層に遊びに行っている。
ダンジョンは何事もなかったかのように平常運転である。ボロボロになった70階層も、いつものように自然修復された。
◇◇◇
あれから1ヶ月が経った頃、70階層にビルド達が挑みに来た。彼らの様子から、あの日の記憶は残っていないと分かったが、ホムラは真っ向から挑戦を受け、いつも以上に戦いを楽しんでいたようだ。
「本当に色んなことがありましたねえ」
「そうだね」
「もうハイエルフの力は馴染んだのですか?」
「うん、もう自分の魔力と混ざり合ったみたい」
ホムラがビルド達の挑戦を受けている頃、ボスの間の裏にはリリスが遊びに来ていた。リリスはエレインの姿が変わっても変わらずに親しく接してくれている。たまに尖った耳を触られることもあるが、エレインはくすぐったくて仕方がなかった。
「ハイエルフの魔力を得たということは、エレインも長生きするのでしょうね」
「そうなのかな。少しでも長くみんなと一緒に過ごせるなら、嬉しいな」
ホムラやアグニ達、ダンジョンに住まう魔物はダンジョンが存在し続ける限り生き続ける。寿命があるエレインとはいつか別れの日が来る。心のどこかでずっと考えないようにして来たことだが、ハイエルフの力が彼らとの時間を長らえてくれるだろう。
リリスは少し寂しそうに笑みを浮かべた後、鞄から小さな包紙を取り出した。
「はい、こちら頼まれていたものです」
「わぁ!ありがとう!」
リリスから包みを受け取り、エレインは嬉しそうに胸に抱いた。
「本当にあなた達は…ご馳走様です」
「え?なにが?」
エレインの様子を呆れたように眺めつつ、何やらリリスは意味深なことを言った。リリスの言わんとすることがよく分からずにエレインは首を傾げた。
「ふふ、すぐに分かりますよ」
◇◇◇
その日の夜、早々にアグニがベッドに潜り込み寝入った後、エレインとホムラはソファで並んで座りながらお茶を飲んでいた。
「あの、ホムラさん…渡したいものがあるんです」
「あ?何だよ」
エレインがモジモジと切り出すと、ホムラは飲んでいたカップをテーブルに置き、エレインに向き合ってくれる。
エレインは僅かに頬を染めながら、昼間リリスから受け取った包紙をホムラに手渡した。
ホムラはその包紙を見て、少し目を見開いたあと、「開けていいか?」とエレインの了承を得てから丁寧に包みを開いた。
「これは…」
ホムラが取り出したのは、魔石のペンダントだった。
「えへへ…前にプレゼントしたのは壊れちゃいましたから」
恥ずかしそうに頭を掻くエレイン。何故なら、前回と違って今回の魔石はーーー
「薄紫に、少し金色が混じってんな」
ホムラが魔石を光に翳すと、薄紫の中に僅かに金色の光が反射した。
自分の瞳の色と同じペンダントをホムラに付けて欲しい、そうリリスに切り出した時はそらはもう思い切り揶揄われてしまった。それでもリリスは快く引き受けてくれた。本当に良き友人である。
ホムラは嬉しそうにしつつも、どこか気まずそうにしている。
エレインはどうしたのかと首を傾げた。
「あー…実はな、その…ほらよ」
ホムラが視線を外して懐から取り出したのは、先程見たものと同じ包紙。
エレインは目を瞬きながらそれを受け取り、ゆっくりと開封した。
「っ!これ…」
包みから取り出したのは、緋色の魔石があしらわれたペンダントだった。
「綺麗…ホムラさんの瞳と同じ色…?」
エレインはホムラの顔の横に腕を伸ばしてペンダントとホムラの瞳を見比べた。どちらも美しい緋色で思わず見入ってしまう。
「そっか、えへへ、嬉しいです」
リリスがニヤニヤしていたのはそういうことか。エレインとホムラはそれぞれリリスに同じ依頼をしていたのだ。
以前のものは自分の瞳の色の魔石。今回は相手の瞳の色の魔石。ホムラもエレインと同じ想いで選んでくれたのかと思うと、胸がきゅうっと締め付けられる。
「ほら、付けてやるよ」
ホムラは目元を赤らめたまま、エレインの手からペンダントを取り上げると、優しくエレインに付けてくれた。
「私も、付けていいですか?」
胸元で煌めく緋色を嬉しそうに撫でながら、エレインもホムラにペンダントを付けてやる。
ホムラの首元で薄紫の魔石が輝く。どこにいても一緒だと、これからもずっと一緒だと、そう証明するように。
「ホムラさん、私に居場所をくれてありがとうございます」
そう言って微笑むと、ホムラも笑みを返してくれる。それだけで胸が満たされる。
「俺はお前がいるから頑張れる。きっとこれからももっと強くなれる」
「ホムラさん…」
「守り守られる存在がいるってのはいいもんだな」
「はい」
ホムラが熱を孕んだ瞳でエレインを見つめる。
「エレイン」
「はい」
「愛してる」
「っ!わ、わわわ私も、ああ愛…愛し…」
「ぶはっ、キョドりすぎだろ」
真っ直ぐに見つめられて囁かれた言葉に、応えたくても恥ずかしくて思わず舌がもたついてしまった。真っ赤に染まった頬を押さえようとしたが、その役割はホムラの手に奪われてしまった。
「エレイン」
甘く優しく名前を囁かれ、蕩けてしまいそうなほど美しい緋色の瞳が近付いてくる。
「ホムラさん…」
エレインは静かに瞼を閉じてホムラを受け止めた。優しく、存在を確かめるように重ねられた唇。
呼吸をするために僅かに離れた隙に、「愛してます」と囁くと、ホムラによって後頭部と腰を思い切り抱き寄せられて更に激しく口付けられた。
愛しい大切な優しい鬼神。
これからもずっとあなたの側にーーー
ーーーーー
最後まで読んでくださりありがとうございました!
こちらで本作は完結となります。
もしよろしければご感想などいただけると嬉しいです(^^)
またゆっくり後書きを書きたいと思います!
それではまた!
「もう、シンがダンジョンに関わることはないだろう」
そう言ったウォンの表情はどこか寂しげであった。
ウォンはその日以来、狐の面を付けることをやめた。そして一人称が『私』になった。エレインはウォンが素顔を晒すことを素直に喜び、これまで通りこまめに75階層に遊びに行っている。
ダンジョンは何事もなかったかのように平常運転である。ボロボロになった70階層も、いつものように自然修復された。
◇◇◇
あれから1ヶ月が経った頃、70階層にビルド達が挑みに来た。彼らの様子から、あの日の記憶は残っていないと分かったが、ホムラは真っ向から挑戦を受け、いつも以上に戦いを楽しんでいたようだ。
「本当に色んなことがありましたねえ」
「そうだね」
「もうハイエルフの力は馴染んだのですか?」
「うん、もう自分の魔力と混ざり合ったみたい」
ホムラがビルド達の挑戦を受けている頃、ボスの間の裏にはリリスが遊びに来ていた。リリスはエレインの姿が変わっても変わらずに親しく接してくれている。たまに尖った耳を触られることもあるが、エレインはくすぐったくて仕方がなかった。
「ハイエルフの魔力を得たということは、エレインも長生きするのでしょうね」
「そうなのかな。少しでも長くみんなと一緒に過ごせるなら、嬉しいな」
ホムラやアグニ達、ダンジョンに住まう魔物はダンジョンが存在し続ける限り生き続ける。寿命があるエレインとはいつか別れの日が来る。心のどこかでずっと考えないようにして来たことだが、ハイエルフの力が彼らとの時間を長らえてくれるだろう。
リリスは少し寂しそうに笑みを浮かべた後、鞄から小さな包紙を取り出した。
「はい、こちら頼まれていたものです」
「わぁ!ありがとう!」
リリスから包みを受け取り、エレインは嬉しそうに胸に抱いた。
「本当にあなた達は…ご馳走様です」
「え?なにが?」
エレインの様子を呆れたように眺めつつ、何やらリリスは意味深なことを言った。リリスの言わんとすることがよく分からずにエレインは首を傾げた。
「ふふ、すぐに分かりますよ」
◇◇◇
その日の夜、早々にアグニがベッドに潜り込み寝入った後、エレインとホムラはソファで並んで座りながらお茶を飲んでいた。
「あの、ホムラさん…渡したいものがあるんです」
「あ?何だよ」
エレインがモジモジと切り出すと、ホムラは飲んでいたカップをテーブルに置き、エレインに向き合ってくれる。
エレインは僅かに頬を染めながら、昼間リリスから受け取った包紙をホムラに手渡した。
ホムラはその包紙を見て、少し目を見開いたあと、「開けていいか?」とエレインの了承を得てから丁寧に包みを開いた。
「これは…」
ホムラが取り出したのは、魔石のペンダントだった。
「えへへ…前にプレゼントしたのは壊れちゃいましたから」
恥ずかしそうに頭を掻くエレイン。何故なら、前回と違って今回の魔石はーーー
「薄紫に、少し金色が混じってんな」
ホムラが魔石を光に翳すと、薄紫の中に僅かに金色の光が反射した。
自分の瞳の色と同じペンダントをホムラに付けて欲しい、そうリリスに切り出した時はそらはもう思い切り揶揄われてしまった。それでもリリスは快く引き受けてくれた。本当に良き友人である。
ホムラは嬉しそうにしつつも、どこか気まずそうにしている。
エレインはどうしたのかと首を傾げた。
「あー…実はな、その…ほらよ」
ホムラが視線を外して懐から取り出したのは、先程見たものと同じ包紙。
エレインは目を瞬きながらそれを受け取り、ゆっくりと開封した。
「っ!これ…」
包みから取り出したのは、緋色の魔石があしらわれたペンダントだった。
「綺麗…ホムラさんの瞳と同じ色…?」
エレインはホムラの顔の横に腕を伸ばしてペンダントとホムラの瞳を見比べた。どちらも美しい緋色で思わず見入ってしまう。
「そっか、えへへ、嬉しいです」
リリスがニヤニヤしていたのはそういうことか。エレインとホムラはそれぞれリリスに同じ依頼をしていたのだ。
以前のものは自分の瞳の色の魔石。今回は相手の瞳の色の魔石。ホムラもエレインと同じ想いで選んでくれたのかと思うと、胸がきゅうっと締め付けられる。
「ほら、付けてやるよ」
ホムラは目元を赤らめたまま、エレインの手からペンダントを取り上げると、優しくエレインに付けてくれた。
「私も、付けていいですか?」
胸元で煌めく緋色を嬉しそうに撫でながら、エレインもホムラにペンダントを付けてやる。
ホムラの首元で薄紫の魔石が輝く。どこにいても一緒だと、これからもずっと一緒だと、そう証明するように。
「ホムラさん、私に居場所をくれてありがとうございます」
そう言って微笑むと、ホムラも笑みを返してくれる。それだけで胸が満たされる。
「俺はお前がいるから頑張れる。きっとこれからももっと強くなれる」
「ホムラさん…」
「守り守られる存在がいるってのはいいもんだな」
「はい」
ホムラが熱を孕んだ瞳でエレインを見つめる。
「エレイン」
「はい」
「愛してる」
「っ!わ、わわわ私も、ああ愛…愛し…」
「ぶはっ、キョドりすぎだろ」
真っ直ぐに見つめられて囁かれた言葉に、応えたくても恥ずかしくて思わず舌がもたついてしまった。真っ赤に染まった頬を押さえようとしたが、その役割はホムラの手に奪われてしまった。
「エレイン」
甘く優しく名前を囁かれ、蕩けてしまいそうなほど美しい緋色の瞳が近付いてくる。
「ホムラさん…」
エレインは静かに瞼を閉じてホムラを受け止めた。優しく、存在を確かめるように重ねられた唇。
呼吸をするために僅かに離れた隙に、「愛してます」と囁くと、ホムラによって後頭部と腰を思い切り抱き寄せられて更に激しく口付けられた。
愛しい大切な優しい鬼神。
これからもずっとあなたの側にーーー
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最後まで読んでくださりありがとうございました!
こちらで本作は完結となります。
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またゆっくり後書きを書きたいと思います!
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