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06_ガーデンパーティ 後編
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「本当に素敵よ、二人とも。友人代表としてとっても誇らしいわ」
「ありがとう。エレナのブーケのおかげよ。それに会場の飾りだって、華やかで気持ちが浮ついちゃうぐらい素敵だわ」
「ふふふん、そりゃあ腕によりをかけて用意したんだもの!会心の出来よ」
形式ばった一連の流れを終え、皆が料理を囲みながら談笑に花を咲かせている。
アイビスとヴェルナーはゲスト一人一人に挨拶に回っていた。
メレナの順番が回ってきた頃には、お酒も進んでほんのりアイビスの頬は桜色に色付いていた。
メレナとの会話を楽しみつつ、ブーケに顔を埋めて花の香りを吸い込むと、キツすぎず程よく甘い香りが鼻腔に広がる。
「その様子じゃ、案外アイビスがヴェルナーに惚れるのもすぐかもね」
「えっ!?」
声のトーンを落としてこっそり耳打ちされた言葉に、アイビスはギョッとする。慌ててヴェルナーを見上げるが、幸い聞こえていなかったようで目を瞬きながら首を小さく傾げている。
エレナには隠し事をしたくないからと、打ち合わせ段階で結婚に至った経緯を伝えていた。始めは驚いていたエレナであったが、「あなたたちらしいわね」と呆れつつも理解してくれていた。
「うふふ、でもまあ……ヴェルナーはあなたが思っている以上にぞっこんよ?その愛情を受け止め切れるかしら?」
「え、ええ?」
「おい、エレナ。あまりアイビスを困らせるなよ」
「あら、何か間違ったことでも言ったかしら?」
「いや、何も間違ってはいないが……」
「えっ!?」
二人の間で行き交う言葉は全てアイビスに降りかかり、その顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
「ほら、アイビスは初なんだから、手加減してあげなさいよ?」
「……保証はできない」
キャー!っと楽しそうに口元を両手で押さえるメレナに対して、アイビスはいたたまれずにブーケを掲げて顔を隠した。
メレナの言う通り恋愛の『れ』の字も知らないアイビスに、これから待ち受けるであろう甘い新婚生活に耐え得る自信はない。本当に手加減してほしいのが本音である。
「まあ、でも結婚したんだから、これでアイビスも社交界復帰かしら?また一緒にパーティに参加できるなら嬉しいのだけれど」
「うう……あんまりいい思い出がないのよね」
社交界と聞いてアイビスの肩が落ちる。ブーケを口元まで下げたその表情にも分かりやすく落胆の色が滲んでいた。
「そうだな、どうしても参加しないといけないものだけ出るつもりだが……パートナーとしてアイビスにも参加はしてほしいな」
「……ええ、頑張るわ」
優しい笑みで安心させるようにアイビスの背中に手を添えてくれるヴェルナー。きっとパーティでもこうしてアイビスを気遣い、守ってくれるのだろう。そう思うと苦手な社交の場にも立って挑めそうな気がしてくる。
「そういえば、なんでアイビスは社交界が苦手なんだっけ?」
「うう、それは……」
メレナの問いに気まずげに目を逸らすアイビス。
アイビスは自分が男勝りで武闘派な上、お淑やかな令嬢らしからぬということを自覚していた。実際に学園時代も遠巻きにコソコソ指さされては噂話の種にされていた。「ガサツだ」「野蛮だ」「女らしくない」という単語をよく耳にした。
一方で、ねっとりと絡みつくような視線も頻繁に感じ取っており、側にいつもヴェルナーがいたため何が起こるでもなかったのだが、謂れのない不安な気持ちに駆られることも少なくはなかった。
アイビス自身は何を言われようとも気にはしないのだが、自分が女らしくないことは認めていたため、後ろ指指されるたびに悲しい気持ちを抱いていた。
その中でも、唯一アイビスに直接話しかけてきたご令嬢がいた。
彼女の名前はエリザベス・ライナメイス。
公爵令嬢であり、第一王子の婚約者でもある。
内巻きくるくるパーマの鮮やかなブロンドヘアにエメラルドの瞳を煌めかせ、勝ち気な雰囲気を纏った、貴族令嬢を絵に描いたような女性であった。
学園時代の同級生かつ学級長で、何かとアイビスに突っかかって来たご令嬢だ。「歩き方がガサツですわ!」「もっとあなたは貴族令嬢としての自覚を持つべきですわ!」「なんですかその量は!?もっと慎ましやかな食事をすることです!」「その目……やめてくださらない?」「あ、あんまりこっちを凝視しないでくださいまし!」などなど、度々言いがかりをつけてはアイビスに絡んできていた。
いつも目を吊り上げ、怒りのためか頬を赤く染め、扇子で口元を隠し、その真意を読ませない女性だった。
彼女は第一王子の婚約者でもあり、学園に通いながら妃教育も受けていた努力家である。そんな彼女はあらゆる社交界に足を運んでおり、アイビスが参加するパーティにもほぼ確実に参加していたため、エリザベスの小言をもう聞きたくないアイビスは、自然と社交界から足を遠ざけたのだった。もちろん、社交の場でも相変わらず好奇の目に晒されてうんざりしていたということが追い打ちをかけたのだが。
「――まあ、エリザベスのせいにする気はないわ。影でコソコソ悪口を言われるぐらいなら、直接言ってくれた方がいいから…その点ではありがたかったけれど。それに元々華やかな場所も苦手だし……え、何、その顔?」
ポツポツと溢したアイビスの事情に対し、メレナだけでなくヴェルナーまでも不思議なものを見るようにアイビスを見つめているではないか。
「……嘘でしょう?あなた未だに色々勘違いしたままなのね」
「……エリザベス嬢が知ったら泣くだろうな。それに他のご令嬢も」
はぁ、と溜息をつきながら二人してアイビスの肩を叩いてくるが、一体何がおかしいのか解せぬアイビスからすればますます頭上にはてなマークが飛び交う。
「あのねぇ、あなたは自分の魅力をこれっぽっちも理解していないわ。学園でだって、裏でどれだけ人気だったか――」
「アイビスにヴェルナーくん!しっかり食べて楽しんでいるか?はは!こちらはとても楽しんでいるぞぉ」
メレナの肝心な言葉を遮るように、すっかり出来上がって上機嫌なデュークが絡んできた。
ワイングラスにはなみなみとワインが注がれており、ぐいっとのけ反って一気に飲み干した。喉が大きく上下してから「プハー!」と満足げに声を上げている。
「ああ……こんな日が来るなんて、うぉぉ、アイビスぅ…!隣なんだからいつでも顔を出しに来るんだぞ!?隠居先のセカンドハウスもそれほど遠くないし、な!な!」
「んもう、お父様ったら……すみませーん!お水ください!」
真っ赤な顔で目をとろんとさせた父のため、ウェイターに水を一杯頼むアイビス。話の腰が折れてしまったため、続きは今夜にでもヴェルナーに聞いてみようと思いながら父の介抱に務めたのだった。
『今夜』――それが結婚初夜を指すことなんて、アイビスの頭からはすっかり抜け落ちてしまっていた。
「ありがとう。エレナのブーケのおかげよ。それに会場の飾りだって、華やかで気持ちが浮ついちゃうぐらい素敵だわ」
「ふふふん、そりゃあ腕によりをかけて用意したんだもの!会心の出来よ」
形式ばった一連の流れを終え、皆が料理を囲みながら談笑に花を咲かせている。
アイビスとヴェルナーはゲスト一人一人に挨拶に回っていた。
メレナの順番が回ってきた頃には、お酒も進んでほんのりアイビスの頬は桜色に色付いていた。
メレナとの会話を楽しみつつ、ブーケに顔を埋めて花の香りを吸い込むと、キツすぎず程よく甘い香りが鼻腔に広がる。
「その様子じゃ、案外アイビスがヴェルナーに惚れるのもすぐかもね」
「えっ!?」
声のトーンを落としてこっそり耳打ちされた言葉に、アイビスはギョッとする。慌ててヴェルナーを見上げるが、幸い聞こえていなかったようで目を瞬きながら首を小さく傾げている。
エレナには隠し事をしたくないからと、打ち合わせ段階で結婚に至った経緯を伝えていた。始めは驚いていたエレナであったが、「あなたたちらしいわね」と呆れつつも理解してくれていた。
「うふふ、でもまあ……ヴェルナーはあなたが思っている以上にぞっこんよ?その愛情を受け止め切れるかしら?」
「え、ええ?」
「おい、エレナ。あまりアイビスを困らせるなよ」
「あら、何か間違ったことでも言ったかしら?」
「いや、何も間違ってはいないが……」
「えっ!?」
二人の間で行き交う言葉は全てアイビスに降りかかり、その顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
「ほら、アイビスは初なんだから、手加減してあげなさいよ?」
「……保証はできない」
キャー!っと楽しそうに口元を両手で押さえるメレナに対して、アイビスはいたたまれずにブーケを掲げて顔を隠した。
メレナの言う通り恋愛の『れ』の字も知らないアイビスに、これから待ち受けるであろう甘い新婚生活に耐え得る自信はない。本当に手加減してほしいのが本音である。
「まあ、でも結婚したんだから、これでアイビスも社交界復帰かしら?また一緒にパーティに参加できるなら嬉しいのだけれど」
「うう……あんまりいい思い出がないのよね」
社交界と聞いてアイビスの肩が落ちる。ブーケを口元まで下げたその表情にも分かりやすく落胆の色が滲んでいた。
「そうだな、どうしても参加しないといけないものだけ出るつもりだが……パートナーとしてアイビスにも参加はしてほしいな」
「……ええ、頑張るわ」
優しい笑みで安心させるようにアイビスの背中に手を添えてくれるヴェルナー。きっとパーティでもこうしてアイビスを気遣い、守ってくれるのだろう。そう思うと苦手な社交の場にも立って挑めそうな気がしてくる。
「そういえば、なんでアイビスは社交界が苦手なんだっけ?」
「うう、それは……」
メレナの問いに気まずげに目を逸らすアイビス。
アイビスは自分が男勝りで武闘派な上、お淑やかな令嬢らしからぬということを自覚していた。実際に学園時代も遠巻きにコソコソ指さされては噂話の種にされていた。「ガサツだ」「野蛮だ」「女らしくない」という単語をよく耳にした。
一方で、ねっとりと絡みつくような視線も頻繁に感じ取っており、側にいつもヴェルナーがいたため何が起こるでもなかったのだが、謂れのない不安な気持ちに駆られることも少なくはなかった。
アイビス自身は何を言われようとも気にはしないのだが、自分が女らしくないことは認めていたため、後ろ指指されるたびに悲しい気持ちを抱いていた。
その中でも、唯一アイビスに直接話しかけてきたご令嬢がいた。
彼女の名前はエリザベス・ライナメイス。
公爵令嬢であり、第一王子の婚約者でもある。
内巻きくるくるパーマの鮮やかなブロンドヘアにエメラルドの瞳を煌めかせ、勝ち気な雰囲気を纏った、貴族令嬢を絵に描いたような女性であった。
学園時代の同級生かつ学級長で、何かとアイビスに突っかかって来たご令嬢だ。「歩き方がガサツですわ!」「もっとあなたは貴族令嬢としての自覚を持つべきですわ!」「なんですかその量は!?もっと慎ましやかな食事をすることです!」「その目……やめてくださらない?」「あ、あんまりこっちを凝視しないでくださいまし!」などなど、度々言いがかりをつけてはアイビスに絡んできていた。
いつも目を吊り上げ、怒りのためか頬を赤く染め、扇子で口元を隠し、その真意を読ませない女性だった。
彼女は第一王子の婚約者でもあり、学園に通いながら妃教育も受けていた努力家である。そんな彼女はあらゆる社交界に足を運んでおり、アイビスが参加するパーティにもほぼ確実に参加していたため、エリザベスの小言をもう聞きたくないアイビスは、自然と社交界から足を遠ざけたのだった。もちろん、社交の場でも相変わらず好奇の目に晒されてうんざりしていたということが追い打ちをかけたのだが。
「――まあ、エリザベスのせいにする気はないわ。影でコソコソ悪口を言われるぐらいなら、直接言ってくれた方がいいから…その点ではありがたかったけれど。それに元々華やかな場所も苦手だし……え、何、その顔?」
ポツポツと溢したアイビスの事情に対し、メレナだけでなくヴェルナーまでも不思議なものを見るようにアイビスを見つめているではないか。
「……嘘でしょう?あなた未だに色々勘違いしたままなのね」
「……エリザベス嬢が知ったら泣くだろうな。それに他のご令嬢も」
はぁ、と溜息をつきながら二人してアイビスの肩を叩いてくるが、一体何がおかしいのか解せぬアイビスからすればますます頭上にはてなマークが飛び交う。
「あのねぇ、あなたは自分の魅力をこれっぽっちも理解していないわ。学園でだって、裏でどれだけ人気だったか――」
「アイビスにヴェルナーくん!しっかり食べて楽しんでいるか?はは!こちらはとても楽しんでいるぞぉ」
メレナの肝心な言葉を遮るように、すっかり出来上がって上機嫌なデュークが絡んできた。
ワイングラスにはなみなみとワインが注がれており、ぐいっとのけ反って一気に飲み干した。喉が大きく上下してから「プハー!」と満足げに声を上げている。
「ああ……こんな日が来るなんて、うぉぉ、アイビスぅ…!隣なんだからいつでも顔を出しに来るんだぞ!?隠居先のセカンドハウスもそれほど遠くないし、な!な!」
「んもう、お父様ったら……すみませーん!お水ください!」
真っ赤な顔で目をとろんとさせた父のため、ウェイターに水を一杯頼むアイビス。話の腰が折れてしまったため、続きは今夜にでもヴェルナーに聞いてみようと思いながら父の介抱に務めたのだった。
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