【完結】武闘家令嬢のお試し婚〜お見合い全敗したので幼馴染の誘いに乗って結婚したら、待っていたのは激甘新婚生活でした〜

水都 ミナト

文字の大きさ
11 / 40

11_第二王子とヴェルナー

しおりを挟む
「なんだよ、まだパーティに招待しなかったことを根に持っているのか?」

 場所は王城、第二王子の執務室。
 トントンと執務机の上で書類を整えながら、ヴェルナーは苦笑した。

 視線の先には拗ねたように頬杖をつく、一人の男性――この部屋の主人であり、ヴェルナーの上司でもある第二王子、ルーズベルト・ブロモンドその人である。

 少し癖毛がちな鮮やかなブロンドヘアに、長いまつ毛がかかる宝石のような碧眼は、王子に相応しい華やかな印象を与える。

「当たり前だろう。美しい花嫁姿のアイビス嬢に会いたかったさ」
「近く夜会があるだろ。そこで改めて紹介するから」

 ヴェルナーとルーズベルトは学園時代からの友人でもあるため、二人きりのときは砕けた口調で話すことが許されている。というより、「俺と君は友人なのだから、よそよそしい話し方はやめてくれ」というルーズベルトからの申し出をヴェルナーが受けた形となる。

 ヴェルナーの学友だということは、アイビスの学友でもある。実際、ルーズベルトは学園時代にアイビスとも良き友人関係を築いていた。
 そして聡い彼は、ヴェルナーの秘めた想いにも早々に気が付き、よく二人の時にせっつかれていたことが懐かしい。その分結婚を報告した時は我が事のように喜んでくれた。

 成績優秀で人望も厚いヴェルナーを専属の文官として指名したのもルーズベルト本人である。それほどに彼はヴェルナーを気に入っているし、信頼している。
 今日だって、本格的に仕事を頼む前に引き継ぎや業務概要を伝えるために足を運んで貰ったが、ヴェルナーは相変わらず理解力も処理速度も群を抜いており、ルーズベルトは舌を巻いた。

「ああ、それにしても…帰国間もなく結婚したとあれば、ヴェルナーの帰りを待ち侘びていたたくさんのご令嬢方が涙を飲むことになりそうだな」
「ん?どういうことだ」

 不意に告げられた言葉に、ヴェルナーは一体何のことかと首を捻る。その様子に呆れ顔を見せるルーズベルトは、大仰に両手を開きながらため息をついた。

 艶やかな銀髪に、流れるような琥珀色の瞳、成績優秀で腕も立つ。家も由緒正しい伯爵家ともあれば、普通のご令嬢が熱を上げるのは当然なのだが。

「まったく……君は昔からアイビス嬢しか眼中になかったから。もっと自分がモテるという自覚を持て。その様子だと夜会が心配だ」
「アイビス以外にモテても意味がないし興味もない」
「はぁ……君にそれほど愛されるアイビス嬢が羨ましいよ」

 そうは言いつつ、自分だって溺愛する婚約者がいるではないかとヴェルナーは内心で苦笑した。二つ年下の婚約者は侯爵家の一人娘で、王城の茶会でルーズベルトが一目惚れをして口説き落としたお相手である。

「さて、冗談はさておき……ヴェルナーには俺の右腕として政務の手伝いをしてもらう。概要は今日一日で説明したが、突発的な事案や時候の職務もある。それについては都度説明するよ」
「ええ、お願いします」

 友人モードから一転、キリッと表情を引き締めて王子モードになった雇用主に、ヴェルナーも仕事モードに切り替える。

「近々兄上が立太子するだろう。未だに俺を次期国王に据えようと愚考する派閥もあるようだが、俺は昔から国王になるつもりはないし、兄上を支えるために勉学に励んできた。ヴェルナーには俺の手助けをして欲しい」

 ルーズベルトの兄、つまりこの国の第一王子のジェームズ・ブロムンドである。

 昔から活発で行動派なルーズベルトに対し、兄のジェームズは常に笑顔を携える温厚な人柄で有名だ。
 歳はルーズベルトやヴェルナーの三つ上で、今も国王について政務を学んでいるという。
 目立った特徴のない平凡な王子だと言われているが、油断ならない人物であるとヴェルナーは踏んでいた。笑顔の裏で何を考えているのか分からない、腹の内を読ませない相手である。

 幼い頃から兄を支えるべく努力してきたルーズベルトであるが、どこの国にも派閥というものはあるらしく、よく愚痴を聞かされたものだ。今のところ過激な思惑による事件は起こってはいないが、第一王子が立太子するとなると何か騒ぎが起こるかもしれない。

 ある程度の毒にも慣らされ、武術にも造詣があるルーズベルトであるが、何が起こるか分からないのが王族の世界である。

 ヴェルナーは文官であるが、ルーズベルトに危険が及んだ時に守れるように改めて鍛錬を積もうと身が引き締まる思いだ。

「この国の未来のため、精一杯尽力いたします」

 ヴェルナーは胸に手を当てて、誓うように頭を下げた。
 ルーズベルトはフッと笑みを漏らすと立ち上がり、ポンポンとヴェルナーの肩を叩いた。

「ありがとう、頼りにしているよ。さて、新婚さんを長く留めているのも気が引ける。今日はもう帰っていいぞ。明日からよろしく頼む」
「ああ、助かるよ」

 ヴェルナーも笑みを浮かべると、執務机の上を片付けて、ルーズベルトに挨拶を済ませると執務室を出た。

 一歩部屋を出ると、もうヴェルナーの頭は仕事モードからアイビス溺愛モードへと切り替わっていた。

(アイビスは今日は何をして過ごしていたのだろう。夕食時に話を聞くのが楽しみだ)

 アイビスの明るい笑顔を思い浮かべ、無意識に頬が緩む。愛しの妻が待つ家へ向かう足は、自然と早足となった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

Tubling@書籍化&コミカライズ
恋愛
無事完結しました^^ 読んでくださった皆様に感謝です! ルシェンテ王国の末の王女カタリナは、姉たちから凄惨な嫌がらせをされる日々に王女とは名ばかりの惨めな生活を送っていた。 両親は自分に無関心、兄にも煙たがられ、いっそ透明人間になれたらと思う日々。 そんな中、隣国ジグマリン王国の建国祭に国賓として訪れた際、「鬼神」と恐れられている騎士公爵レブランドと出会う。 しかし鬼とは程遠い公爵の素顔に触れたカタリナは、彼に惹かれていく。 やがて想い人から縁談の話が舞い込み、夢見心地で嫁いでいったカタリナを待っていたのは悲しい現実で…? 旦那様の為に邸を去ったけれど、お腹には天使が―――― 息子の為に生きよう。 そう決意して生活する私と息子のもとへ、あの人がやってくるなんて。 再会した彼には絶対に帰らないと伝えたはずなのに、2人とも連れて帰ると言ってきかないんですけど? 私が邪魔者だったはずなのに、なんだか彼の態度がおかしくて… 愛された事のない王女がただ一つの宝物(息子)を授かり、愛し愛される喜びを知るロマンスファンタジーです。 ●近世ヨーロッパ風ですが空想のお話です。史実ではありませんので近世ヨーロッパはこうだというこだわりがある方はブラウザバックをお願いします。 ●本編は10万字ほどで完結予定。 ●最初こそシリアスですが、だんだんとほのぼのになっていきます^^ ●最後はハッピーエンドです。

おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな
恋愛
 ストラウド子爵家の長女・エレーゼ18歳はお父様が大好きだ。このままお父様と同じ屋敷で暮らし、いつかお父様を私が看取る、そんな将来設計があるので結婚はしたくない。だがこれでも貴族令嬢、そういうわけにもいかなくて。  ある日、仕方なく見合いに赴くことになったのだが。  見合い相手はプラチナブロンド煌めくひたすら優美な王子様、いや辺境伯の跡取り息子。  見た目も家柄もファビュラスなのに、彼は今までことごとく見合い相手に断られ、挙句エレーゼのところに話が回ってきたという訳あり物件。  この話、断る? 断られるよう仕向ける?  しかし彼は言ったのだ。「こちらの条件のんでくれたら、結婚後、自由にしていい」と。つまり、実家暮らしの妻でOKだと!  名を貸し借りする程度の結婚でいいなんて。オイシイじゃない? で、条件とは何ですの?  お父様だけがもつ“私への無限の愛”しか信じない令嬢エレーゼが、何を考えているのだかよく分からない婚約者エイリークと少しずつ絆を深めていく、日常みじみじラブストーリーです。    ※第4話④⑤、最終話⑧⑨は視点を切り替えてヒーローサイドでお送りしております。

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

処理中です...