友情

てまり

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第2話 友達 佐藤健太

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    久しぶりに会った百田は、少し髪が伸びて肩くらいになっていた。そのためか、雰囲気も少し重くなったように感じた。門の前で、反対側に歩いていく百田の小さな背中を見送った後、学校から帰宅し、俺は疲れ切って自室のベッドに倒れこむ。今日の事を振り返り、森山の事を思い出してみる。
 高校に入学してまだ間もない頃、基本一人で居る俺に声を掛けてきたのは森山だった。それから暫くして、告白されてなんとなく付き合って、それから百田を紹介された。
百田はどちらかと言うと積極的な森山とは反対のタイプで、無口で不愛想で、どこか接し辛かったが、関わっていく内に、百田の人間性を知り、一緒に居るのが楽しくなっていた。だが、去年の冬、森山が屋上から飛び降りて、全てが変わってしまった。それは、地面に突き刺さる様な雨の降る日だった。俺は、あの雨の日の光景を忘れられない。あの日、学校に着くと、こんな雨にも関わらず校舎の前に野次馬達が集まっていた。何事かと辺りを見回していたら、カラフルな傘の集団の隙間に百田を見つけ、すぐに駆け寄った。だが、いつも一緒に居る森山の姿はそこにはなく、百田の様子が変だった。森山の事を聞くと、
「まだ、会ってない……。」
と、百田は静かに答えた。その声は、僅かに震えていたのを覚えている。その後教室で、森山が屋上から飛び降りたと聞かされたが、そんな訳ない、と心のどこかで思って、担任の言葉を信じなかった。何故なら、今年の文化祭の部活別の出し物の為、三人で短編映画を制作している途中だったからだ。森山は、これを誰よりも楽しんでいた。
 葬式の時に、森山の姿を目の当たりにしたが、その時にやっと、森山は逝ってしまったのだと自覚した。やはり、死ぬ直前まで映画完成を楽しみにしていた森山の思いを大切にしたい。
 部活を再開してから一週間考えた末、映画制作をやり遂げると決意した。この事を伝えるため電話を掛ける。不意に窓を見ると、外はもう真っ暗だ。カーテンを閉めながら、もう既に寝たかと少し不安になっていると、百田が無気力な声で「もしもし」と電話に出た。
「俺、考えたんだけどさ、映画、また作らないか?やっぱり、森山もそれを望んでいると思うんだ。」
「じゃあ何で美幸は飛び降りたの……?」
「それは……」
俺は言葉を詰まらせた。そんなの、俺だって聞きたいよ。俺が知るわけないだろ?森山は俺に何も言わず飛び降りたんだから……。確かに、一度事件性も疑われた。でも、証拠がないから自殺って事になっていた。
「やっぱり、美幸は自殺だと思えない。最近、美幸が夢に出てきて、私に何か言うんだけど、雨音で聞き取れないんだよね。」
俺は、その言葉にハッとした。だが、一瞬言うのを躊躇う。怖がらせるだけかもしれない。だが、百田を守るためなら……。
「黙っていた事があるんだ。実は、俺達が使ってる部室、幽霊が出るって噂があったんだ。しかも、丁度森山が死んだあとから。」
「じゃあ、やっぱり美幸は……!」
百田が恐怖と微かな怒りの混じった声で呟く。
「はっきりとした事は解らない。でも、百田の事は守る。約束する。」
俺は宥める様に優しく言う。
「ふふっ、ありがとう。心強いね。じゃあ、もう、そろそろ寝るね。詳しい事は明日話そう。」
また明日、と挨拶を交わし、電話を切る。俺は百田が笑ったのを久し振りに聞いた。
 百田との関係が、あの日の事で終わってしまうのは、どこか寂しい気がした。だから、俺は百田に声を掛ける事を決意した。たとえこれが、過去を思い出させるきっかけになるとしても、百田と居られるなら、俺はそれでも構わない。
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