真実の実

てまり

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第1話 山田桜

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それは、お昼休みに同期で親友の陽菜と食事をしている時のことだった。私たちはいつも一緒に食事をしているにも関わらず、話題は不思議と尽きずに会話が弾んでいた。そんな何気ない日常的な会話だった。
陽菜が突然何かを思い出したのか食事の手を止め、
「そういえば桜、昨日隣町のデパートにいた?」
と言った。彼女は有給をとっていたが、私は仕事だったので居るはずはない。
「行ってないよ。大体私、昨日は仕事だったし。」
「そうだっけ?とても似てたんだけど……。」
そう言うと、陽菜は気にしないでと言いながらも、納得がいかないといった様子で少し首を傾げ、まだ半分以上残っているナポリタンを食べ始めた。
私はこの日常的なはずの会話が、陽菜の反応もあったせいか、とても気になるようになってしまった。だが、すぐに仕事が忙しい時期になり私は家で夕食をとる時間もなく、残業をしながら食事をとるか、外食をして帰るようになっていった。その為、あの話のことはその頃にはすっかり忘れていた……。
その日はたまたま仕事が早く片付き、久しぶりに家で食事をとろうと思っていた。仕事帰りで疲れているせいか、やけに長く感じる階段を上りきり、鍵を差し込んだ瞬間、違和感を覚えた。だが、きっと疲れのせいだろうと、あまり気にしなかった。かなり疲れていたため、食事からとり、お風呂に入ることにした。
食事中何度か、ガサゴソと何かの物音がしたが、気にしなかった。というのも、このアパートは古くて隣室の音も聞こえたりするからだ。
食事を終え、お風呂も上がり髪を乾かしていると、洗面台の鏡の端で、黒い影が少し動いた。反射的にそこを見ると、自分と全く同じ顔をした女性が立っていた。一瞬口が動いたように見えたが、ドライヤーの音で全く聞き取れなかった。もう一人の自分がそこに立っているという状況に頭も心もついていけず、ひたすら頭にゴゴーーという音が響くだけだった。
夢の中に居るみたいに、頭がぐらぐらする。どれくらい時間が経ったか分からない。顔の向きは変えずに、時計に目をやる。どうやら五分も経っていないようだ。
「私、三日後に死んじゃうんだ。」
ふと呟いた。だが、私が一瞬目を離した隙に、ドッペルゲンガーは消えて居なくなっていた。まるで夢だったかのように。
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