真実の実

てまり

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第3話 藤本希

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 あ、双子ちゃんだ。可愛いなぁ。やっぱり双子って普通はこうなんだよね。 片方だけがとても優れていて、性格も良くて、美人で、全く似ていないなんてこと、双子だったら有り得ないよね。いいなぁ、羨ましい。私も姉みたいになりたい。本物の双子みたいに……。
「誘拐でも、する気ですか?」
 向かいの席に座って、注文したパフェを頬張っていた女性が、スプーンで窓の外を指した。そこは、今私が見ていた、この喫茶店と道を挟んで隣にある公園だ。
「私、姉と全く似ていないんですよねぇ。」
 独り言のように呟いた。
「私は姉に憧れていました。美人で、頭も良くて、おまけに人も良いんです。そんな完璧な姉が嫌いでもありました。」
勝手に話し続けていると、彼女はあっと言う間にパフェを完食し、容器を端に寄せると、鞄からクリアファイルと茶封筒をテーブルの上に広げた。聞こえていなかったのか、聞いていなかったのか、彼女は急に仕事に取り掛かった。
「これは、先日貴女から預かった写真と、私が撮った例の女性の一日の動きです。」
 そう言って探偵は、茶封筒の中から写真を数枚出し、私の前に広げた。それらには、私の双子の姉が写っている。
「それと、これは彼女の現在の住所や生まれた病院、その他の資料です。」
 探偵は、徐にそのファイルを写真の横に並べて置いた。彼女には姉のことを浮気相手として調査してもらっている。今はこうして依頼を引き受けてくれているが、最初は何故か断られた。理由を尋ねると、逆にこちらが依頼の理由を細かく聞かれ、危うく本当の依頼内容を言ってしまう所だった。だが、姉の写真を見せると、急に大人しく引き受けてくれてくれたのだ。
 何故姉の調査を探偵に依頼したかというと、私は家族と似ていない。姉だけでなく、両親ともだ。恋人に、婚約するとなった時にこのことを話したのだ。すると彼は、「取り違えじゃないのか?」と言ったのだ。確かに、里子という事を、気を使って言わないようにしただけかも知れない。しかし、里子だという事は何度も疑った事があり、親に聞こうにも聞き辛く、色々自分で調べてみたがその根拠も無く、むしろ出産直後の写真があったため、本当の娘なのだと痛感させられた事があった。なので、そうでないということは確信していた。そのため、彼の一言に凄く衝撃を受けた。彼の言った事は、とても信憑性があると思い、探偵にこの事が真実なのかどうか、調査依頼しようと考えた。だが、そもそも取り違えられた可能性が高いのは、誰にも似ていない私である。となると、本来調べられるべきは自分自身ということになる。自分の事を調べて貰うくらいなら、この手で真実を見つけた方がいい、そう思った。探偵には、姉の事を調べて貰い、それにパズルのピースを合わせるように自分の事を調べていけばいい。姉はきっと、喧嘩した時の事を気にしているはずだ。自分で真実を手にし、姉に「もう大丈夫。答えは自分で見つけたから。」と伝えよう。姉の弱点や臆病なところに、人間味を感じる事ができて、私は、姉のそんなところが好きだった。
 調査結果を持ち帰り、一人でじっくり見ることにした。探偵が撮影してきた写真を見ていると、何となく違和感を覚えた。よく見ると、背景の建物や町並みは、全て隣町に似ていた。さらに、背景に目を凝らしていると、顔と首の辺りに違和感がある。私が撮影した写真と比べると、これはリングのピアスをしているのに対し、探偵の写真は全て同じイヤリングをしている。探偵は一週間程尾行していたはずだ。少なくとも、姉は毎日同じ物を身に着けない。そもそもイヤリングは持っていないはずだ。となると、二人は違う人物であり、片方は、誕生日が同じである私と、生後直ぐに取り違えられたのだ。つまり、探偵は姉の血の繋がった妹の方を調べていたのだ。
 真実を伝えようか数週間悩んだが、伝えることにした。話したい事があるので会えないかと電話で伝えると、彼女は電話口で、
「私も、藤本さんにお伝えしなければならない事があります。」
と、一言消え入りそうな声で言った。
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