女性一人読み台本

あったいちゃんbot

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いすとりげーむ

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小さい頃、椅子とりゲームが苦手だった。
私はグズでノロマだったから、どうしても「みんなと同じ」が出来なくて、流れる音楽が止まったとき、周囲のスピードや思惑についていけずに、いつも一巡目で椅子に座ることが出来なかった。最後の2人がその椅子をかけて戦う姿を、私は成す術もなくただ眺めているだけの透明人間だった。

大きくなってもそれは同じだった。小さい頃よりはできることが増えた。でもそれは、他の人も同じで、結局私は「みんなと同じ」は出来ないまま。今はもう、椅子取りゲームの音楽さえ聞こえずに、いつも一巡目で振り落とされる。
昨日まで座っていたはずの椅子は、今では他の誰かが座っていて、私はその事を非難する口も、取り返す手段も、方法も、やり方も、術も、なにも知らなくて、ただ遠くからそれを眺めている。
もう小さい頃みたいに音楽がなってもくれなくて、みんなが一斉に席を取りに行くわけでもなくて。
私は気づけば席を立ち、私が気づけば音楽も止まり、私が気づいたときには既にだれかが座っているんだ。
そうなったときの私は透明人間で、ただゆっくりと消えていく。一緒に座っていたと勘違いしていた人達の中から、消えていく。
いつか、他の椅子を見つけても…。
きっと、その椅子も私の椅子ではない。
透明人間は、椅子取りゲームには参加できない。


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