女性一人読み台本

あったいちゃんbot

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渇き

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語り:私はね。ずっと誰かの一番になりたかった。誰かに優先されたかった。

語り:小さい頃から他人に優しくしなさいと言われて生きてきた。だから、他人に優しくすることは私の義務になり、他人に優しくしない私に価値はなかった。
語り:他人に優しくない私には価値がないから、他人からの酷い扱いにも耐え忍んだ。
語り:他人からの酷い扱いに耐え忍んだら、他人は私を軽視するようになった。
語り:他人が私を軽視するようになったら、私が私を軽視し始めた。
語り:私には価値がないのだと、価値がない私には、意味がないのだと、毎日傷を抱き締めながら生きていた。
語り:毎日自分で自分を傷つけて、毎日自分で自分を慰めて、毎日自分をごまかして生きてきた。
語り:小さい頃から約束を守りなさいと言われて生きてきた。だから、可能な限りの約束は果たしてきた。
語り:無効になっているとわかっていた約束も、他愛ない中の口約束も、出きる約束は全てを果たしてきた。
語り:約束を守らない私には価値がなかったから。どんなに小さな約束でも、果たしてきたつもりだ。
語り:どんなに約束を破られたって、優しくしない私には価値がなかった。

語り:生きる意味がわからなくて、明日が怖くて、昨日が嫌いで、今日が要らなくて。
語り:今の私は、過去の私の積み重ねだから、好きになんてなれなかった。未来の私はさらにその先にいて、なんども首を絞めつけようと、飛び降りようと思って生きてきた。
語り:生きる意味も、価値も、必要もないのに、ただ毎日を消費して生きてきた。

語り:誰かにいいことをした時だけ、生きている価値があった。
語り:誰かにいいことをしなかったときは、自分を言葉で殴り付けた。
語り:誰かにとってのいいことが、別の誰かにとっては余計なことで、誰かを守ることで、誰かを傷つけた。
語り:誰かを傷つける私は要らなかった。
語り:誰かを守れない私は要らなかった。

語り:誰かに必要とされたかっただけ。
語り:誰かを必要としても許される人になりたかっただけ。
語り:今日は、嫌な人じゃなかったかな。
語り:明日は、いい人でいられるのかな。
語り:誰かに嫌な思いをさせたり、傷つけたりしなかったかな。誰にも嫌われなかったかな。
語り:今日も、大丈夫だったかな。 
語り:明日も、大丈夫じゃないといけないのかな。
語り:体も心ももうズタボロで、風が吹いたら飛ばされそうで、雨が降ったら消え入りそうで、毎日、いい人であれと言う思いだけで生きている。

語り:ずっと誰かの一番になりたかった。
語り:要るだけで、存在だけで受け入れられたかった。
語り:価値や意味などに縛られずに、ただそこにありたかった。
語り:誰かに私を認めてもらいたかった。
語り:誰かに私を優先して欲しかった。

語り:でも、私はもう大人。
語り:明日も大丈夫。


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