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プロローグ
しおりを挟む「ふむ、そろそろ終わりたいものですが!!」
目の前に描かれる巨大な魔法陣から、レッドドラゴンに向けて極光が放たれる。
光に触れた鼻先から、レッドドラゴンの鱗が飛び散り爆散し、発生する爆風すらも極光によって押し流して神殿のような空間を真っ白に染めた。
【レッドドラゴンの単独討伐を確認。レベルが269に上がりました。新称号、ドラゴンブレイカー獲得。新スキル、ドラゴンズエンチャント、エレメントブレス獲得。派生によりユニークスキル、エンチャントマスタリー獲得。新称号、エンチャンター獲得。新称号、いせタビビト、、獲得。称号を設定しますか? 】
「オーウ!!ホホホ!やっと、やっとですな……ホホホ!!ああ長かった!!!」
ドロップアイテムを拾いながら目の前に出てきた画面を確認する。
エンチャンターの文字を見かけた時に、思わずにやけてしまったが、それも仕方が無い。
何せこの称号を獲得するために空き時間は全てつぎ込んだ。
意識転送系VRMMO、『自由世界マントラ』。
世界を席巻したヘッドギア型VRMMOが売り出されてから5年、いつでもどこでも仮想空間に接続できる携帯型VRMMOが今、世界で流行りに流行っている。
ダンボールをかぶって任務を遂行していく『ダイダルギア』。重装備を積んだ人形ロボ、アーマードを操って対戦していく『カスタム・コア』。相手の陣地をただひたすらに絵の具で塗りつぶす『Suicidetoon(スーサイドトゥーン)』。などなど、数多の名作ゲームが生まれた。
そんな中、ある意味王道とも言えるゲームが『自由世界マントラ』
主人公はキャラメイクの時点で、剣士、魔法使い、弓使い、精霊使い、の四択を与えられ、その中から選んだものになって広大な世界を生きていく。
種族は最初ヒューマン種しか選べないが、レベルが上がると経験値を代償に進化する為、まさに多種多様な育て方ができる。
VRMMOが世に出てから長く使い古された設定ではあるが、自由世界と冠するだけのボリュームはありプレイヤーの好きなように過ごせる。
例えば剣士を選びながら農業や鍛冶を営むことも出来る。弓使いであっても投槍を主にすることが出来る。エルフや、何故か日本妖怪の雪女等にも進化できる。成長度合いには多少の誤差が出るが、そこら辺の曖昧さが売りになっている。
深山 波瑠(みやま はる)26歳が操るキャラ、【セバス・チャン爺ちゃん】はこのゲームのソロプレイヤーとして有名である。
魔法使いのはずだが、見た目は何故か執事。名前そのままオールドジェントルマンな執事なのだ。
言動やそのプレイスタイルから二つの意味で、変態執事と呼ばれている。
ゲームが配信された時からの古参ではあるが、未だに謎が多いプレイヤーとして、理解者である古参の一部プレイヤーを除いて、ネタとして良く話題に上がるキャラクターである。
まあ、ただのネタプレイヤーであればそれこそ星の数ほどいるだろうが、セバスが有名になるのはその戦法故だろう。
素の状態でもそれなりに強い魔法使いではあるが、そのままで下中上と数えると、中の上。ソロでは限界が来る。
が、しかし。セバスはソロプレイヤーでありながら、迷宮攻略数上位、闘技場戦績最高6位、神獣などとの大規模戦闘無双など、輝かしい戦績がある。
それを成しているのは、魔法使いの中でもこれを極めるの?という魔法を極めているからであろう。
補助魔法【エンチャント】
魔法攻撃や魔法防御に付加が付く魔法であるが、これを鍛えるより攻撃魔法を鍛えた方がはっきり言って強い。
パーティーであればある程度必要なスキルだが、ソロならばこれを極めようなどとは思わない。
駄菓子菓子!
セバスは他になんと言われようとエンチャントした。
自身のエンチャントがエンチャントになってエンチャントするぐらいにエンチャントしまくった。
その結果、フルエンチャント状態であれば、物理全振りの剣士を相手に闘技場で勝ち抜くという偉業を成し遂げている。
「まあ、お陰でだーれもパーティ組んでくれなくなっちゃったけどね……おーっと!私としたことが。キャラを崩すなどあってはなりませんね!もう一つの称号は、バグでしょうか?珍しいですね。今までこんな事は無かったはずですが。…ホホホ!!まあ考えていても仕方ありませんな!さて!主人のいないホームに帰りますか!【ウインドエンチャント】」
ドラゴンのドロップアイテムをすべて拾い終え、移動スピードに補助がかかる魔法を掛けて街へと歩き出した。
「ふむ、そう言えば今度課金制の鍛冶屋ができると聞きましたが、このゲームも遂に課金ゲームとなってしまいますか。ゲームバランスが崩れないと良いのですが。」
正式なサービスが始まって2年。マントラはアプリを買う時のみお金を払い、それ以外に課金要素は無かった。
そのために、ハルは携帯型VRMMOというどこでもいつでも遊べる特性を生かし、空き時間をすべてこのゲームにつぎ込んできた。
寝る時間を削り、仕事の休み時間を使い、長期の休みは食事以外を全てゲームで過ごした。
だからこそのステータスではあるのだが、課金要素が入ってくると大概のゲームはバランスを失い面白みがなくなって転覆する。
「出来れば無課金ゲームの状態でいて欲しかったですな。」
街に入り、ホームに設定された宿屋へと短距離転移する。この後は会社での会議がある為一度ログアウトしなければならない。
「称号がエンチャンターになっているのを見るとついついにやけてしまいますな。ホホホ!わたくしめは遂に、廃人の域に足を踏み入れてしまいました!!ほほホホホ!!はてさて、もう時間ですかな。」
ログアウトの時間を設定していた為、アラームが目の前に表示される。そうする必要は無いのだが、なんとなくベッドに横になりボタンを操作すると、セバスから深山 波瑠へと戻る。
目を開けると自分のデスクが見えてくる。そうだった。昼休憩をレッドドラゴン狩りに使ってたんだった。
「あ、部長。ログアウトされましたか。あと15分でミーティング始まります。これ資料です今期の予算振り分けと新しい企画案になります。」
「おお、ありがとう狭山さん。目を通しておくよ。」
「お願いしますね。」
狭山さんは自分が受け持つ部署の敏腕社員だ。
女性が社会の中で活躍するのが当たり前になってから随分経つが、この娘にはなかなか慣れない。何せ綺麗なのだ。
そこら辺の雑誌の表紙飾ってそうな顔してるし、人当たりはいいし、スタイルも出るところは出ておりますしですしオホホホ!!おっと心の中のセバスが出てきてしまった。平常心平常心。
「でも部長、昼休憩までマントラって本当に体大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ。睡眠は足りてるし自分でいけるなってタイミングしかやってないから。それに家族どころか彼女もいないからね。他にやることがないし。はははっ……」
「彼女いないんですね…へぇ~。」
「はいはいどうせ彼女いなくてゲームばっかりしてる独身貴族ですよ。」
「そういう事じゃないです!違います!」
「まあ否定はできないのが悲しいとこなんだけどね。」
「はぁ…。マントラの中とは本当に別人格ですよね深山さん。セバス様と本当に同一人物なのか疑わしいところです。ログインしてる時とのギャップに苦しんでます。」
「僕自身もセバスになってる時は本当に別人格なんだと思ってるよ。ま、狭山さんのメギドも同じようなもんだと思うけどね。第一印象からしてインパクトあったし。」
恐らく狭山さんが僕にフレンドリーに語りかけてくれるのは、同じゲームをプレイしているからだろう。
狭山さんが操るキャラクター、メギド・クライドは精霊使いの女の子なのだが、精霊使いの中でも魔物と契約し使役するいわゆる召喚士だ。強さとしては中の上クラスで、召喚士は人気職であるため珍しいとはいえないが、彼女の使役している魔物達はなかなか個性は揃いである。
相手の精神を犯すバンシー、魔力を吸い取るスケープゴート、気配を消して首を狩るリトルドール、などなど絡め手を使うキャラクターが多い。
そのへんは名前とイメージが追いつきやすいのだが、一つの違和感と言えば何故かメイド姿。シンパシーを感じざるを得ないので、セバスとしてはほっておけない存在なのである。
ほとんど毎日のように一緒にクエストをこなしているため、同志よりももっと信頼関係は厚い。と思っている。
「そう言えば初めてあった時はウラヌスとのレイド戦でしたね。戦いでごちゃごちゃしてる中でセバス様と見つめあった時の快感は忘れられませんわ!」
「快感ね。やっぱり狭山さんも相当だよ。」
「はっ!!心の中のメギドが出てきてしまいました。」
「ホホホ。さ、ミーティングに向かいましょうかね。メギド君?」
「は、はい!セバス様!じゃなくて深山部長!」
正直な所、会議は退屈だ。
変わらない予算案に新企画も明後日の方向を向かっている。本当はめんどくさいなと思いながらも会話を進める。
会計報告になってからは、手を出すこともないので外を眺めていた。どんよりとしたいかにも不健康なイメージの雲が分厚く街を覆っていて、より一層退屈な気分になる。
「え?何あれ?」
ふと隣の狭山さんが声を上げる。
ボーッとしていた意識がクリアになり、狭山さんが見ている方向を見ると、分厚い雲が1箇所だけ円状に押しのけられていた。
「い、隕石!?!」
誰が言ったのだろうか。そんな事が一瞬で思考から押しのけられ、目の前の光景に釘付けになっていた。
太陽のように白い光を放ち、真っ赤な尾を空に描きながら、それは金融街の高層ビル群へと迫っていた。
隕石って意外と早いんだな。なんて場違いな感想は、落ちた時に上がった火柱を見て吹き飛ばされた。
「ふせろお!!!」
普段そんなに大声を出さないが、頭の中に走る危機感がそう叫ばせていた。
何かが爆発した時は、光、音及び衝撃波、爆風と段階を踏んで力が伝わってくるはずだ。
壁際に伏せた時一瞬でそんなことを考えながら、目の前の狭山さんが目に写った。こちらを見ているその目には不安感や焦りは無く、メギドと全く同じ目をしていた。何故か、ああ、何とかなりそうだと、漠然とした安心感がわく。
次の瞬間、爆音とともに窓ガラスが割れる。
僕は咄嗟に狭山さんの上に覆いかぶっていた。
「うわあああ!!!」
「嘘だろ!!」
「死ぬ!死ぬ!!」
「痛い痛い!!ガラスがっ!!」
いろんな声が聞こえる中、狭山さんが僕の手を握りながら言った言葉ははっきりと聞こえた。
「深山さんのこと、実は好きだったんです。」
「ああ、僕もきっと好きだったよ。」
爆風がここに到達したのだろう。
部屋の中に風が荒れ狂い、体が浮いた。
おそらくビルごと吹き飛ばされているのだろうが、そんな事はどうでもいい。お互いに握った手を離してたまるかと手繰り寄せる。
深山 波瑠の意識はそこで途絶えた。
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