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第29話 「俺の後ろに立つな」
しおりを挟む黄金時代という言葉がある。
分かりやすくいうなら、もっとも輝いていた時代ということだ。
誰にでも訪れる黄金時代だが、もっともその言葉のもつ意味が分かりやすいのが、某週刊少年漫画雑誌だろう。
正義超人、一子相伝の暗殺拳の使い手、きまぐれ☆でオレンジな超能力者、死ぬ寸前まで若い戦闘民族、傍に現れる像を使う能力者、タコ焼き好きな大魔法使い、小さな勇者にして竜の騎士、リバウンドを制する大男、冥界探偵、世界一ついてない少年、一番隊隊長な小柄な風の忍者、鬼を腕に宿した教師、頬に十字の傷を持つ剣客、セクシーでコマンド―な高校生。etc.etc......
あらゆる主人公たちが駆け抜けた黄金時代。
笑いがあった。涙があった。ドラマがあった。夢があった。恋があった。出会いがあった。別れがあった。
日本中の少年が火曜日を楽しみにし、少年たちの中で、火曜日が日曜日以上の価値を持つほどまでに影響を与えた。
それが黄金時代。
あなたの黄金時代はいつだろう。全日本の時だろうか。俺は……いや。
ナイアにとっては今だった。
「妾の時間が来たのじゃーっ!!」
「「ナイア!! ナイア!!」」
俺たちは夜中に無駄に騒いでいた。
仕方がないのだ。今日は満月。
ヴァンパイアであるナイアには特別な意味を持つ日なのだから。
「ナイア!! 世界一可愛いですよっ!!」
「どうもありがとうなのじゃー!! ノワール!!」
「ナイア!! 俺だーっ!! 結婚してくれーっ!!」
「ノゾムっ!! 妾にはまだ早いのじゃー!!」
俺たちは最初からクライマックスだった。
……いや、こうなったのには訳がある。
俺が初めてオオトカゲを殺した後も、俺たちは普通に足を進め、順調に次の町に向けて距離を稼いでいた。
だが時間は流れ、気づけば日は暮れかかり、夜が近づいていた。
「かかかっ。やっとか!! 待ちわびた!! 待ちわびたのじゃ!!」
その時、いつものように,ナイアがそう言ったかと思うと、彼女の体が赤く光り、やがてそれは俺とノワールの目を瞑るほどになった。
少しして、光が収まった後には――
「うぬぅ。まだ、この程度か。……じゃが、確実に妾は回復してるのじゃー!!」
――幼女から少女へジョブチェンジを果たしたナイアがいた。
「うぉぉぉおおおおっ!! どうしたんだっ!! ナイア!?」
「ナイアっ!! 急に大きくなってどうしたんですか!? 変なキノコでも食べたんですか!?」
俺とノワールは大きく混乱することになった。
しばらくして、落ち着いた俺たちが、ナイアから聞いた話をまとめると、もともと、彼女の全盛期はナイスバディでイケイケな成人女性だったらしい。
だが、今までは力が弱すぎて幼女の姿になっていたということらしかった。
「この姿の変化は妾の力が回復している証なのじゃ!! 全盛期にはまだまだ遠いがのぅ!!」
そう言って胸を張るナイア。
……うん。幼女の頃よりは成長した胸があるが、確かにまだまだナイスバディというほどではない。
「それじゃあ、今日はお祝いだな!!」
「ええ!! ナイアおめでとうございますっ!!」
「うむっ!! いつか完全復活して、妾を殺した勇者パーティたちに目に物見せてやるのじゃっ!!」
そう言う魔王様ことナイア。
やっぱり三百年前に殺されたことは、この寛容さに定評がある魔王様をしても、軽く許せるものではないらしい。
その時、タイミングよくオオトカゲが現れたので、パワーアップしたスーパーナイアさんがさくっと殺した。
――この時、魔法でこんがりと焼かれたトカゲから、なんとも食欲をそそる匂いが漂ってきたので、俺とナイアは我慢できずにトカゲを食べた。
……焼いてるから衛生面はクリアしたと思いたい。
だが、そんな不安は食べた瞬間に吹き飛んだ。
オオトカゲの焼き肉はめっちゃ美味かったのだ。食用に人気があるとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。
だって、火で炙っただけで、調味料もなにもかけてないのに美味いと感じるのである。
これには恐らく美食屋もびっくりだろう。
更にシチュエーションも良かった。
この世界の澄んだ空気のお陰か、空には星が良く見えた。
前世より綺麗な星空の下で、キャンプファイアー気分で食べるオオトカゲ。
幻想郷はここにあった。
そんな訳で俺達のテンションはうなぎ登りだった。
「すまないな。そこの人たち。」
――だからだろうか。
あまりにもテンションが上がっていた俺たちは声を掛けられるまで、誰かが近づいていることに気が付かなかった。
「……えっ?」
「……はい?」
「……なんじゃ?」
俺たちは同時に振り返り、その人物を視界に入れる。
最初に目を引くのはその白い髪、そして整えられた顔だちの中から除く、エメラルドグリーンの瞳。
ゆったりとしたワンピースのような服装の上から、動きを阻害しない範囲でつけられた、金属製の手甲や胸当てが焚火の光を反射して、わずかに除く彼女の白い肌を一層引き立てていた。
「私は勇者。エル・アルレイン・ノートというものだが、少し話を聞いても良いだろうか?」
こちらの視線が集まったのを確認してから、彼女はそう言った。
勇者様の登場だった。
「……」
「……」
「……」
俺たちは途端に静かになった。
どうやら、本当の意味で俺たちはクライマックスになったらしかった。
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