少年マンガの主人公になってしまったが未来が暗すぎた

柳秋彦

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第1章 五歳児

第6話 将来を真剣に考える話 下

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この世界に来てから常々後悔しているのが(前世でもっとちゃんと<黒龍レジェンド>よんどきゃよかったなぁ)という事だ。
俺は週刊誌<タロットウィーク>の読者であって別に<黒龍レジェンド>のファンでは無かったので毎週ペラ読みしていただけで単行本も買っていない、本命の連載漫画は他にいくつかあった。<黒龍>に関しては細かい設定の記憶があやふやなのだ。なので情報のほとんどはこの世界に来てから自分で調べたものだ。

覚えている内容は大体こんな感じだ。
主人公は確か風魔法が得意で士官学校に通っている竜騎士見習いだ。何時もの通り竜舎で竜の世話をしていたら突然校長に呼び出される、校長室に着いたら武装した人に囲まれて拘束される。しかし幸運なことに地下牢らしき場所で目覚めた主人公は主人公の従者に助け出される、外に逃げた彼らは待っていた兄の友人の竜騎士と主人公が日頃世話をしていた竜と共に無事に学校から逃げ出す。竜騎士は道順王都で新しい予言が発表された事、それと全国で黒髪黒目のものが拘束されている事を説明した。それから兄が死に自分の無実を証明するために禁地へ向かう流れの詳細はよく覚えていないが(最初から話がかっ飛ばし過ぎて漫画の展開についていけなかったのだ、あそこらへんの展開はアンケート結果も悪くあの漫画は打ち切り確定だとネットでも噂されていた)でも禁地で仲間と冒険する話になってから話が面白くなって来た……とここで前世の俺は死んでしまったので後はわからない。

ちなみにこの禁地とは何かというと昔この国を侵略しようと企らんだ魔王の領土らしい、後にその魔王は五英雄に倒され封印されたと言われている。ただ魔王が倒される間際、あたり一面の大地に呪いをかけたのでその領域は魔物が出る人の住めない土地になった、そこで五英雄の子孫のモンタギュー家が禁地とこの国の間に塀を立て禁地と隣あわせのこの土地ヴォイアチェスターを治める辺境伯となったのだ。

魔物はこびる人の住めない土地、ということで禁地と呼ばれているが人が立ち入らないという訳ではない。何しろ当時の建物や財宝や武器や文物がそのまま残っているので国から度々調査団が出されている。調査団の刺激的な冒険譚は国民にも好かれており調査団に入ろうと夢を見る子供も少なくはない。主人公も調査団に憧れて士官学校に入学したらしい。まあ跡継ぎじゃないので職業選択は自由だな。
そして原作での主人公たちの最終目標は調査団ですら近づくのを戸惑う呪いの地の中心部かつての魔王城に残された五英雄の遺産、厄災を断ち切る剣クラウ・ソラスを持ち帰ることだ。

俺の将来のためにも早く強くなり16歳前にこのクラウ・ソラムを持ち帰らなければならない。

「見て見てコール!クラウ・ソラスだよ!」アルバスの歓声で俺は現実に引き戻される。
「ク、クラウ・ソラス?」思考を読まれたようで少しドキドキする。
「ほら!僕が作ったんだよ~」パフォーマンスを示すマジシャンのようにアルバスは両手を大きく広げる。
視線を動かすと
「おお」
そこには積み木で作られた一振りの剣があった。
「器用だなアルバスは、すごくかっこいいよ」お世辞ではなく心から褒める。

地面に横たわる聖剣は刀身は一つの三角の積み木と連なる三つの立方体で表されていて柄は黒と赤、赤は多分はめ込まれた宝石かな、そこまでなら五分で簡単にできる作品だが斜め下には青と黄色の積み木で並べられた鞘があり、柄と鞘を握るようにシルクの手袋が置かれている、俺たちは防寒用の手袋しか持っていないのでこの手袋はルビー達から借りたのだろう。
刀身の周りに色とりどりの積み木が散りばめられているこれは「鞘から抜いた途端七色の光を放つ」という伝承を表しているのかもしれない。

「なんというかカラフルで綺麗だし、細部にこだわりを感じる」さらに褒めるとアルバスは得意そうに腕を組みえっへんと胸を張る。かわいいな。

「本物のクラウ・ソラスみたいだよ」なんだかこっちも嬉しくなり褒め言葉を重ねる。
するとアルバスは首をふるふる振った「みたい、じゃなくってさ」
「え?」あれ、褒め方が不味かったか?たしかに子供はこういう時に本物みたいというより本物という風になりきりした方が喜ぶかもしれなかったか。
「みたいじゃなくて、いつか本物のクラウ・ソラスを手に入れようよ」
「本物の?」
アルバスはにっこりと笑うと俺の両手を掴む、紫の瞳はまるで宝石のようにキラキラと輝いている。
「いつか本物のクラウ・ソラスを見つけに行こうよ、僕とコールで一緒に」
無邪気な声での宣言。
別に特別珍しい事を言ったわけではないんです。子供が伝説上の武器を憧れたり兄弟と冒険に出たがるぐらいどこの家庭でもある事だ。前世の子供がスーパーヒーローになりたいと言うのと同じ子どもの深く考える事なく口に出す実のないふわふわした夢だ。
俺は子供らしく演技し兄弟のとはしゃいでいればいい。「そうだね、楽しみだね」とか当たり障りのない返しをすれば良い。それだけなのになぜかその時の俺は突如胸が詰まるような感覚を覚えた。悪い夢をみたあとのようにいやな汗が吹き出る。アルバスのキラキラ輝く銀髪が窓から差し込む明るい日光が、ヴィオラの朗らかな笑い声が古い映画を見ているようにぼやけ、遠くなる。
「うん……」やっとのことで喉から絞り出した声はすごく枯れた死にそうなものだった。
何故だろうかとてつもなく嫌な予感がした。
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